FF13考察③ / 魔物の正体

 記事は連載の形式をとっています。よろしければ記事①から参照ください。


◾️ユニバース25

 ユートピア。いわゆる理想郷を指すその言葉は、15世紀の思想家トマス・モアが、当時の社会を批判する際に比較対象として生み出した架空の社会概念を意味している。
 本項では、理想社会ユートピアを生み出そうとして行われた実験「ユニバース25」について解説する。

・実験の内容

 まず初めに、この実験において定義された理想的な社会の要素を箇条書きしよう。

・常に食事に困らないこと。
・居住スペースが確保されていること。
・外敵が存在しないこと。 

 「生活のために働く必要がなく、住居が用意され、また他人と競争する必要もない」とも言い換えられる社会は、記事を読んでいるあなたにとって魅力的だろうか。少なくとも、この実験を行った科学者には魅力的に映っていたのだろう。
 以上の要素を持った社会こそが、ユートピアと呼ぶに相応しいと考えた科学者たちは、マウスを用いた擬似的な社会実験を開始する。ユートピアの実現可能性を探るために経過が観察された。

・実験の結果

 結論から言うと、この実験は失敗に終わった。

 初期の段階では、学者の推測通り社会は滞りなく機能していた。マウスは食べて寝て交尾をし、子供を増やしながら順調に社会を拡大させた。
 しかし中期に至って、その拡大が問題になり始めた。マウスの増加を予定して広めにとっていたスペースが、それこそ鼠算式に増えていくマウスによって圧迫されるようになったのだ。そうして快適な生活を求めるマウス同士により争いが生じ、やがて格差が生まれた。さながら貧困層と富裕層に分かれたマウス社会は、特に貧困層を中心に多様化し、同性愛、ストーカー、小児性愛、性暴力、育児放棄、引き篭もり等の要素が蔓延し始める。
 後期には、出生率の低下、死産、他殺、餓死などによりその数が減少を続け、最終的にマウス社会は五年を待たずして崩壊してしまった。

 正確性を求めて行われた25回もの実験において、社会(ユニバース)は尽く崩壊した。

・神の世界

 本作においても、神の世界で同等のユートピアが築かれたと判断できる。
 限りない資源の獲得は神を競争から遠ざけ、また異なる空間にクローンの擬似社会を築く程度には外敵も存在しない。居住スペースを限定されていたマウスとは異なり、神には空間的な余裕があったわけだが、全体的に見て共通点は少なくないだろう。

 ここで重要なのは「一見理想的に見える社会が、実は真綿で首を絞めるようにゆっくりと種を崩壊に導く」可能性があるということだ。そして私の見立てでは、同様にして神の社会は崩壊していったのだと推察している。満たされたことにより、神は死んだのだと。(現代では統計学を元に、先進国の人口減少傾向から、凡ゆる国が経済的に先進国の水準に達した時、人類が滅亡の道を歩み始めるのではないかという懸念が為されている。)


◾️資源世界の部外者

 レインズが作中で語った、作品の根幹に関わる世界観はバルトアンデルスからの受け売りだ。そしてバルトアンデルスは「大量の死者を出すことが、神を呼び戻すことに繋がる」ことを理解していたため、黙示戦争を経験していた可能性が非常に高い。黙示戦争以前に生まれたファルシは、神が「13」の世界に植民地を築き始めた当初から存在していることになるので、その歴史観は概ね正しいと判断して良いだろう。

 ただ、その場合おかしな発言が存在する。以下の台詞だ。

 人間やファルシを造ったとされる、かの神だよ。遥か昔——神はファルシと人間を残し、この世界から立ち去ったという。

シド・レインズ

 ……魔物は?

 生きているという尺度で計れば同じ生命であるはずの魔物は、どうして言及されていない。魔物とは、いったい何処からやって来た。そんな疑問が生まれる。
 「魔物は知能が低いから生き物として劣ってる。だから言及していない」とはいかない。少なくとも魔法を使うことにおいては、人間より魔物に軍配が上がる世界だ。

 ここでは、魔物がイレギュラーな存在であることに加え、その誕生の経緯について考察していく。

・魔物の扱い

 魔物の扱いについて、コクーンと下界では差異が見られる。
 コクーンでは、魔物は時おり治安維持部隊によって討伐されながらも、ガプラ樹林では聖府の管理下に置かれ、軍事転用のために育成されてもいた。魔物は危険視をされながらも人間の功利の一部に組み込まれており、またファルシが魔物を直接始末する様子は見受けられない。
 これに対して、下界ではファルシ=タイタンが魔物を直接始末する姿が描写されていた。コクーンにおける対応と異なり、魔物はファルシから完全に排除の対象と見做されていたのだ。

 もし魔物が世界に初めから組み込まれていたとするならば、神の命令を背負うファルシの対応は統一されているべきで、また意図的に創造したものを改めて排除するという、無駄なマッチポンプも成立しないはずだ。

 歴史の証人であるバルトアンデルスも、魔物の存在を問題視している。

 人と人、人と魔物、コクーンと下界——争いは永遠に終わらない。闘争に苦しむ世界を救うのだ。

バルトアンデルス

 人間の同士討ちが神の秩序を乱している事実は、以前の記事でも取り上げた。
 そうした秩序維持を妨害する行為と同列のものとして、ここでは"人と魔物"の争いが挙げられている。どうやら秩序の下ではバトルそのものが許されていないようで、そうした環境にあって当然の如く争い、また世界維持の観点からも必要性を追求できない魔物は、正しく秩序の外側にいる存在だと判断できる。
 つまり魔物とは、神の思惑とは無関係に、自然発生した可能性が高いわけだ。

・誕生の経緯

 では何が原因となって魔物は誕生したのか、またいつ頃発生し出したのかというと、ここでも黙示戦争が関わるはずだ。というより、本編以前の出来事で取り上げるべきものは黙示戦争以外にない。

 本編1章を参照して欲しい。この世界には魔法を道具化する技術が存在していて、聖府の兵士も「〜〜ギア」という名称の魔法道具を戦闘で使用している。当然作品の根幹に関わるワープ魔法も道具化されており、1章では軍用魔獣の転送に利用されていた。
 確認できる限り、ワープゲートの大きさは道具によって様々であって、ここから輸送可能な物の量にも上限が設けられていることが予想できる。同様にして、神の世界へ開かれていたはずの資源輸送用のワープゲートにも輸送量には限界があるはずだ。

 本来であれば人間の世代交代に応じ、一定の魔力を運び続けることを目的に造られた資源輸送用のゲート。そこにもし、許容量を超える資源が運び込まれたらどうだろう。つまり黙示戦争により発生した大量の死者が残していった魔力が、一斉にゲートを通ろうとしたら。当然、ゲートを通れない余剰の魔力が発生するはずだ。そうした魔力は雲散霧消せず、「13」の世界に留まることになる。

 魔力が欠乏したことでレインズはシ骸化し、そして最終的にその活動を停止していたことからも、魔力は生命力といっても差し支えない。
 人間の肉体のような外殻を持たない魔力は、やがて生命を模した「ナニカ」へと変質した。より野生的に多様化していった魔物は、剥き出しの魔力そのものだからこそ生まれながらに魔法を行使できるのだろう。


◾️減って、増えた

 黙示戦争の過程で生まれた異常。
 ぽつぽつと現れ始めた魔物は、当初は数が少なかったであろうことから、広大な土地を持つ下界に集中していたことが推測できる。いつしか魔物は下界の住人の生活の一部に組み入れられるものの、神にとっては資源世界における不確定要素に代わりなく、世界を修正する際に魔物を狩る目的でファルシ=タイタンが創造される。

 黙示戦争が再び起こらなければ魔物も増えず、タイタンが仕事をこなせば不確定要素は時間経過で下界から一掃される。二度目の黙示戦争を避ける完璧なシステムの元で、不安の芽は摘み取られていったのだろう。

 しかし私たちは魔物が消え去っていないことを知っている。それどころか、魔物はコクーンでも当たり前のように蔓延り出して、その影響は人間を脅かすまでに至っている。二度目の大量死が起きていないことは、バルトアンデルスの試みからも察せられるのに、なぜ魔物は依然として世界に残り続けているのか。

 ここで、上述した「神の死」が繋がってくる。
 もし神の文明が崩壊していたのならば、これまで運び続けていた魔力資源の受け手の喪失という問題が生じていることになる。受け手がいないのだから当然送ることも出来ず、人間が世代を交代するごとに「13」の世界には魔力が溜まり続ける。時間が経てば経つほどに、つられて魔物も増えていく。
 タイタンがコクーンに設置されていないことからも魔物が以前にも比べて増加していることは明白で、神の世界の崩壊と魔物の増加が、不可分の関係であることが理解できるはずだ。

 こうして私たちは当たり前に魔物と戦えるようになる。倒してもキリがないという、いかにもゲームらしい設定を持ち合わせた上で。


◾️秩序を乱す同士討ち

 神が残した時限爆弾は、増加し続ける魔物の誕生という形で起爆し、本来起こらなくてもよかった争いを人間間に生み出した。

 魔物が出現し始めたころ、当然コクーンには魔物を排除するためのファルシは存在せず、人間がこれに対処する他なかったのだろう。単純な命令のもとで行動をしているファルシには、たとえ人間を守るためであっても介入の余地がなかったのかもしれない。
 兎にも角にも、有無を言わさず襲いくる魔物を退けるために人々は武器を取ることを余儀なくされる。本来であれば戦闘行為を行う必要がなかった人間は、しかし増え続ける魔物に対抗するために「争い」を日常の一部に組み込む必要が生まれた。

 命令主体を持たない点で黙示戦争とは異なる争い。
 それは、必要のなかった「力強さ」という物差しを人間に与えてしまうには、つまり恐怖に直結する個体差を自覚させてしまうには十分だったはずだ。差は軋轢を生み、また武器をとることに慣れたことが巡り巡って、同族同士による争いが発生。神の秩序を侵す事態へと発展していく。

 初めに人間は子孫を残すための愛を持ち、次に黙示戦争によって恐怖葛藤を覚え、そして人類の歴史において繰り返されてきた不毛な争いを獲得した。一層“人間”に近づいた彼らを、しかし秩序を維持するバルトアンデルスは良しとしなかった。

 バルトアンデルスは100年前にアニマを利用することを画策し、これをコクーンの海底から引き揚げた。居もしない神に、秩序を正して貰おうとして。


◾️追記

・「神は死んだ」は、19世紀を生きた思想家であるフリードリヒ・ニーチェの有名なフレーズだ。脱神話的な自立の意味を持つ言葉は、王道RPGを踏襲し神からの脱却を描いたシナリオとの相乗効果が高いため、敢えてこのような表現をした。

・神の世界の崩壊について。
 人間にとって、神に等しく描かれたファルシを倒した後に「本当の神様は生き続けているけどね」では、脱神話的な物語に一貫性が持たせられなくなってしまう。メタ的な観点からも、神は死んでいて然るべきなのだ。

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