FF13考察④ / ルシ、ラストシーン

 記事は連載の形式をとっています。よろしければ記事①から参照ください。



◾️ルシ

 ここではルシの有する特徴と、またそれぞれのキャラクターが負っていた使命について考察していく。

・ルシの特徴

 これまでの記事にて、神が人間を創り出した主目的とは「魔力の生産」であると考察した。つまり魔法を使えなくとも、人間には元より魔力が内在しているのだろうと。

 ここで、内在する魔力の流出を抑える神の制限「ルシの烙印」という鍵によって解かれていたと考えてみる。命の源とも言える魔力の流出は、ルシの結末が死に結びつくことに繋がっていて、またその消耗に応じて烙印が赤みがかることもバッテリーが消費される様子と重なる。

 進み方は、人それぞれだからな。ショックを受けたりすると一気に進んじまうらしい。

ファング

 また感情が強く揺れ動いた際に、魔力が過剰に消費されていくことも判明している。
 レインズは使命を無視するほどの強い意志をもって、六人ものルシを相手どる大立ち回りをした。そしてファングは、ラグナロク発動のきっかけを作るために、最愛の友人であるヴァニラを傷つける素振りをしていた。
(内なる強い感情を呼び起こすことが、消費魔力の激しいラグナロクを発動するための引き金であることを、ファングは経験から理解していたのだろう。)

 魔力の消費量が感情に左右されるのならば、感動の個人差によって烙印の進行具合がバラバラであることにも説明がつく。

 ライトニングたちが強い葛藤を覚えた際にも、意図せず多量の魔力が消費されていたはずで、この消費を抑えるために召喚獣は自制の存在として誕生し、以降は最小限の魔力で最大限の効果を発揮する片割れとなっていったのだろう。

・飴と鞭

 ルシに与えられた二つの結末についても考察の余地がある。

 ルシは、使命を果たすとクリスタルになり「永遠の命」を獲得する。そして失敗するとシ骸になって人を襲い始める。たとえクリスタルになったとしても(ヴァニラらが復活に要した時間を鑑みて)知己の人物は他界してしまっているため、「永遠の命」は他者の記憶に残らないという点では死んでいるも同然だ。
 けれども、神としてはルシに使命を達成して貰わなければならないはずだ。上記の通りでは、どちらの結末も誘因として不十分と言える。

 結末が二択であること、また神の意図を考慮すると、ルシの結末には本来的に「飴と鞭」としての側面があったのではないだろうか。目標を達成したいと思わせる誘因と失敗を避けたいと思わせる罰こそが、他者を誘導するための最適解であることは言うまでもない。また「永遠の命」を額面通り受け取ればポジティブな意味をもつことからも、クリスタル化は飴に値するように思える。

 これまでの考察にて、ライトニングたちの世代に至るまでの人間は感情的な面で未熟であったという話をしていた。世界を維持する都合上必要の無い、本来ならば人間として持ち合わせているはずの「恐怖や葛藤」といった感情が、黙示戦争を通して後天的に獲得されたという考察だ。

 もしもこの説が罷り通るのならば、世界創造の黎明期に近づくほどに、人々の感情はより乏しく偏りがあっただろうことが予想できる。
 例えば、クリスタルとなって消費した魔力を回復し、復活しては繰り返し魔法を使えることを「永遠の命」として魅力的に感じる程度に、彼らは人間を失格していたのではないかと。例えば、人の振り見て我が振り直すができないために、シ骸には「他者を襲う」という共同体に対する脅威の役割が必要だったのではないかと。

 時間がクローンである『13』世界の住人を人間たらしめていったことで「飴と鞭」は形骸化し、本編では鞭と鞭となって一行の葛藤を促したのだろう。

・それぞれの使命

・ライトニング、スノウ、サッズ、ホープ、ヴァニラ
 以上の五名は、ファルシ=アニマから使命を与えられている。その内容は「バルトアンデルスの消滅」もしくは「コクーンを守る」のどちらかであると考えられる。

 セラが冒頭で述べた「コクーンを守る」が正しい使命であった場合を考えてみる。
 結末においてコクーンを支えたヴァニラは、使命を達成した報酬としてクリスタル化を獲得する。しかし同時に、命令主体であるアニマをも失っているわけで、セラ同様クリスタルから解放されたとしても不思議ではない状況でもある。
 もしも烙印の消失に伴ってクリスタルが解かれてしまった場合、クリスタル化によって支えていたコクーンは再び墜落を始め、達成したはずの使命は失敗となり帳消しになってしまう。「コクーンを守る」では、このパラドックスが、ヴァニラを結晶の姿に留めたのだろうと考察する。

 使命が「バルトアンデルスの消滅」であった場合、上記のようなパラドックスは端から生じない。したがってクリスタルからの解放に伴い、使命に含まれないコクーンは当然墜落してしまう。
 この墜落を防いだ一因として「融合したファングが使命を負っていない」ことが挙げられる。作中にて、ヴァニラと異なり使命を負う描写の存在しないファングは、奇跡によりラグナロクの一部として融合を果たしている。本来起こりうるはずのない融合という非常事態が、正しくクリスタルから解放される結末を阻害したのではないか、と考察する。
(この考察は「コクーンを守る」の場合でも通用してしまうけれど。)

・セラ
 同じくアニマによって使命を与えられている。その内容は「ライトニング(もしくはスノウか、その両方)をアニマに導く」というものだ。セラはライトニング達がアニマに到着した段階で、クリスタルへと変異した。このため第三者を連れてくることが使命であると分かるが、セラのために異跡に赴いた人物とは家族である二人だ。

・ドッジ
 エウリーデ峡谷のエネルギープラントにて、ファルシ=クジャタにより使命を与えられている。内容は「下界のルシを捕らえる」であり、サッズとヴァニラを聖府軍に引き渡した際に判明している。

 また「下界のものを探し当てる能力」を持っているとされるドッジだが、これはブラフである。というのもバルトアンデルスは、黙示戦争後に造られたアニマを端から認知していた可能性が高く、またそもそもアニマが纏う外郭を異跡として海底より引き揚げた張本人でもあるからだ。
 神が定めた秩序の下、聖府代表として適切に振る舞うためには、下界のファルシを野放しにしていた事実は隠蔽する必要がある。ドッジは、バルトアンデルスの隠れ蓑として、ありもしない能力をでっち上げられ、都合良く利用されたのだろう。

・ファングとレインズ
 ファングに至っては、再び使命を負っている描写がないため使命がない可能性が高い。ただ刻印はあるため、黙示戦争中に使命を与えたファルシは下界で健在であると考えられる(もちろん達成済みであるため旧い使命に強制力は無い)。
 レインズは本人が語っていた通り、「下界のルシに手を貸す」ことである。


◾️ラストシーンの問題

 本編13章、最終盤でのラグナロクに纏わる演出には不可解な点が多い。まずは、その流れを整理してみる。

  1. 最終決戦に際して、ファングがオーファンに絆される。仲間とコクーンを天秤にかけたファングは、ラグナロク発動を決意した。

  2. ヴァニラを傷つける素振りをして、乱心したと思われたファングは立て続けに仲間を攻撃。ヴァニラ以外がシ骸になる。

  3. ファングがラグナロクを発動するものの、失敗。

  4. 打ちひしがれたファングの背後では、何故だか仲間がシ骸から復活しており、流れるように一致団結する。また復活した仲間の烙印は、ファングと同じように白く変化している。

 何故、烙印の進行具合がバラバラであったはずの味方が、同時にシ骸化したのか。
 何故、ヴァニラだけはシ骸にならなかったのか。
 何故、ラグナロクは失敗したのか。
 何故、味方は復活したのか。
 何故、烙印は白く変化していたのか。

 思いつく限りでも以上の疑問が浮かび上がる。公式の考察では、これら全てが奇跡により解決したとされているが、展開は合理的解釈のもとで再構成できると考えている。以降、妄想にも近い辻褄合わせをしていく。

・展開の再構成①

 初めに取り上げるのは、ファングがヴァニラを傷つけようとした場面だ。上述した通り、多大な魔力を要するラグナロクの発動には強い感動が欠かせない。ファングはヴァニラを傷つける素振りをして、内なる感動を引き起こしラグラナロクのきっかけを満たしていた。ここまで筋は通っている。

 問題はその後の展開であり、ファングが立て続けにライトニングたちを攻撃したことが違和感を生んでいる。メタ的な視点をもって言及すると、こと物語を展開する上で、最愛の友人を攻撃した時点でラグナロク発動への説得力は十分に満たされている。矛盾こそしないが、ライトニングたちへの攻撃は、弱い展開の焼き直しと捉えられるわけだ。

 ではこの展開が、(シナリオ原作が不在だろう物語終盤にて)後付けされたものだと考えてみよう。開発者たちは、それ以降に用意されていたプロットを参照して違和感を覚えたはずだ。詳しくは後述するが、そのプロットこそが「仲間の唐突なシ骸化」である。
 私としては「ファングのラグナロク発動に伴い、仲間が唐突にシ骸化する」展開が正規のプロットだと考察している。そして記事を読んでいるあなたが、まさに「唐突に」という部分に疑問を覚えたように、開発者たちも説明の足りないシナリオに頭を抱えたはずだ。大衆に届ける以上、最低限の説得力を用意したいと考えた彼らは「ファングの攻撃を受けたからシ骸化した」と動機づけをして、プロットを改変をしてしまう。

 では、どのようにして「唐突なシ骸化」という展開に根拠が示されるのか。これについては確と伏線が用意されていて、最終シーンを参照することで補完が可能となっている。

 ヴァニラが発動した最終兵器は、その組成の過程で、エデンに召喚されていた下界の魔物たちを吸収するようにして拡大していった。この場面から、ラグナロクには「周囲に存在する魔力を吸収して力を増していく」という特徴があるのだと理解る。
 当然ライトニング含む仲間たちも、魔力を有する生物であることに変わりはないわけで「ファングのラグナロク発動に際して周囲の仲間の魔力が吸収されていた」としても何ら問題はないのだ。またこれにより、進行具合がバラバラであったはずの仲間の烙印が同時に限界を迎えて唐突にシ骸化したことについても、矛盾なく説明付けができるようになる。

・展開の再構成②

 次に、作中を通して語られなかった「ファングの烙印が白い」理由だが、これは登場人物それぞれの相違点から推察できる。ファングと仲間を差別化する唯一の違いとは、過去にラグナロクを発動している点に他ならない。

 作中におけるファングの様子から、「永遠の命」とは「復活者が、使命に囚われることなく魔法を使い続けられる」ものであると理解できる。この際、復活の度にラグナロクという強大な兵器を使えてしまっては、世界維持の観点からも望ましくないはずだ。わざわざ視認できるよう烙印を白く変化させていることからも、烙印には「ラグナロクは一度しか発動できない」という使用権の存在を明示する目的があると推測できる。
 一人が一度しかラグナロクを発動できないのであれば、ファングにとっての二度目の挑戦が失敗したことにも説明がつくだろう。

 そして元より失敗が定められていたのならば、その誤りを訂正するようにして、吸収されていた魔力が返還されても良いはずだ。逆転現象を起こした魔力は、ライトニングたちをシ骸から復活させる。
 また、一度はラグナロクに魔力を組み込まれていたわけで、返還に伴いラグナロク使用の判定を受けたとして、ライトニングらの烙印が白く変化したのだとしても不思議ではない。
(最終シーンでは、ヴァニラが率先してラグナロクを発動していたが、そもそも他のメンバーが発動できなかったとすると見えない整合性が補完される。)

・展開の再構成③

 残る疑問は、何故ヴァニラだけが、ラグナロクの魔力吸収から逃れていたのかについてだ。

 これまでの考察を踏まえると、最終シーンにてヴァニラがラグナロクを発動した際、空中に浮かんでいたライトニングたちは、魔力生物でありながらも二度目の魔力吸収を逃れていることになる。つまり、ファングのラグナロク発動の前後で、魔力吸収を逃れる何らかの変化が彼らの身に生じていたことになる。

 そして、ラグナロク発動の前後で彼らに生じた目立った変化とは「シ骸化」以外ありえない。シ骸とは、ルシに与えられた結末の一方であり、その姿は永遠の命と同様にクリスタルに纏わる形をとっている。結末はどちらも結晶になっている点において差異がなく、また結晶化済みという共通項を持つルシは(結末の如何を問わず)魔力吸収を逃れていることになる。
 ライトニングたちに起きた変化という必然と、変化後とヴァニラの共通項を模索した結果、ここでは結晶化経験の有無が魔力吸収を逃れる要因であると考察する。
(そもそも魔力の逆転現象がイレギュラーな事態であることは言うまでもない。結晶からの復活は、本来使命を達成したルシの特権なわけだが、ライトニングらは仕組みの穴をつくようにシ骸からの復活を果たしていることになる。)

 最後に改めて、再構成した内容をまとめてみよう。

  1. ファングがラグナロクを発動し周囲の魔力を吸収する過程で、ヴァニラを除く仲間がシ骸化してしまう(ヴァニラは結晶化経験を有するため、これを逃れる)。

  2. 発動に失敗したファングは次第に意識を取り戻し、そしてライトニングたちがシ骸になっている事実を知って、ヴァニラと共に打ちひしがれる。

  3. オーファンが再度のラグナロク化をファングに強要し痛ぶるなか、逆転現象を起こした魔力が仲間たちへ返還される。

  4. ラグナロクの使用判定を受けながらも、復活を果たした一行はファングを救い出し、最終決戦に臨む。

  5. ライトニングたちは結晶化を経験したために、ヴァニラ・ラグナロクの魔力吸収を逃れ、見事エンディングを迎える。


◾️追記

・アニマの未来予測
 ここでは、ファルシ=アニマが未来を予測していた可能性について考察する。

 早期に舞台を退場してしまい、活躍の機会の少ないアニマ。記事では、その役割をコクーンでラグナロクが発動されるため用意された楔としてきたわけだが、その実績は「使命を与えた」だけとも言い換えられてしまう。これでは使命を与えながら、独自の役割もこなすファルシたちと比べて幾分か見劣りするだろう。そして世界維持の根幹を担うアニマの役割が「使命を与える」それだけとするのは不自然でもある。

 作中の描写から、アニマは人間をルシにする過程で対象を選別していることが分かる。例えばセラは、ライトニングたちとは異なる使命を与えられ、身内を異跡へと連れてきている。異跡の調査に向かったPSICOMに至っては、使命を与えられることすらなくシ骸にされて、第2章では敵として登場していた。
(聖府の軍用魔獣が異跡に登場するのも、調査が行われたことを表現するため。)

 誰をルシにすれば、目的は果たされるのか。
 世界維持の根幹を担いながら、パージでは碌な反撃もできずに破壊されたファルシ=アニマは、その能力の大半を「未来予測」のために使っていた可能性が考えられる。少なくとも、少年ドッジに防衛の使命を与えたクジャタと比べても、ルシにする対象を慎重に選別していることは間違いない。
 また神の世界が滅んでいることからも、これは絶対の予知ではなく、あくまでコンピューターが弾き出す「未来予測」に近しいものだと考察する。予測である限りは、プレイヤーの自助努力も肯定されるだろう。

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