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クズ主人公映画①

先日、『パーフェクト・ケア (原題:I Care A Lot.)』を見に映画館へ行った。

前々から見たかった映画だった。配信もされているとのことだったが、わざわざ神奈川県から東京の有楽町まで出向いて見に行った。面白かった。

主人公は高齢者の成年後見人を半ば無理やりに勤め、財産をぶんどるという悪党である。たちが悪いことに全て合法的に行っており、家族に訴訟されても裁判官から信頼されてるだけに勝ってしまう。モラルもへったくれもない、最悪な主人公である。じゃあ何かものすごく哲学を持っていたり、応援するに値するような目標(悪に手を染めてでも叶えたい夢があるんじゃ的な)があるかっていうと、「金持ちになりたい」・・・それだけ。それだけだから中盤「正々堂々と戦え」と主人公がある登場人物に説教垂れるシーンがあるのだが、刺さらない刺さらない。というより中盤まで悪役(主人公が悪党だからこの場合の悪役は正義・・・ではなく今作の悪役も普通に悪い人)の方に感情移入してしまうほどだった。ものすごく鮮やかに財産を奪ってく様にはあきれ返ってしまうほどだった。だが後半でそんな主人公にもいよいよピンチが訪れる。それでいながらも下劣な信念を下劣に突き通す姿は、だんだんと応援したくなってしまう。・・・そんな映画だった。

映画を見ていて思い出したのは『アンカット・ダイヤモンド (原題:Uncut Gems)』という映画だった。


「似てるな」と思った。帰ったあと、改めてもう一回見た。あんま似てなかった。しかし、共通点もあるのは間違いないし、ラストなんかは似てる。
この映画の主人公も「金が欲しい」というような下劣な信念を持っている。だが、『パーフェクト・ケア』と決定的に違うのは「金持ちの成り方」が全く違う。正確には「金持ちになろうとする方法」が違う。上述のように『パーフェクト・ケア』では胸糞を悪くするほどのスマートなやり方に対して、『アンカット・ダイヤモンド』は実に短絡的でその場しのぎ、「常に綱渡り」という表現がされてたが本当にその通り。借金返済のための大事なブラックオパールを人に貸しちゃう。貸したときの担保を質にすぐいれちゃう。しかも、その金で賭博しちゃう。・・・文字で書くと物凄くアホだ。だが最後はなぜか彼と一緒に興奮しながら賭博に使ってるバスケを見てる。本当に一世一代の大勝負・・・しなくても良い、堅実に生きる選択肢をとれば十分に堅実に生きられるはずなんだけど、なんか応援したくなっちゃう。

はっきり言ってこの二作とも普通の「主人公」と違ってどうしようもないクズである。しかもこれと言って精神的・人間的な成長を遂げない。「金持ちになりたい」、これを信念に下劣に突き通していく。今年からMCUの公開が再開した。数多のヒーロー映画がこれまで作られてきた。それぞれ葛藤を抱え、命がけで人命を救助し、そして人間的な成長を遂げる、内省し、哲学を得る・・・。そういうヒーロー映画を見て、「頑張れ!!アイアンマン!!」って具合に映画を見ながら応援しているわけだが、反面でこういう映画を見ながらクズどもを応援している自分もいる。

しかし、この二作は万人におすすめできる映画かと言われると・・・それは微妙なところだ。普通にイライラして終わるって人も絶対に少なくないからだ。事実、Rotten Tomatoesの評価を見ると批評家のポイントに対して観客のポイントがこの二作は圧倒的に低い。

『Uncut Gems』
Tomatometer 92%
Audience Score 52%
『I Care a Lot』
Tomatometer 78%
Audience Score 33%

評論の中身までは読んでないが、どう考えても万人受けする「主人公」ではないのも一因にはあるだろう。映画に何か主人公などの成長を期待する(企業の新人研修みたいな文言)とかなり呆気にとられる映画であることは間違いないだろう。

だが、どんな下劣な主人公、下劣な信念だってそれを突き通しさえすれば映画の主人公になっちゃう。逆に言うと信念を突き通すのは命がけで難しい。
糸の切れた風船のような自分の信念、付和雷同である自分へのフラストレーションが多分こういったクズ映画は擬似的に解消してくれるのだろうと思った。なので割とこういったクズども映画は好きです。



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