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「東京自転車節」で見た、愛くるしい人たち

企画メシをきっかけに、セルフドキュメンタリーを見てきた話

企画メシ第2回、九龍ジョーさん(ライター・編集者)をゲストにお迎えした講義に参加してきた。

講義前に更新された、阿部広太郎さんのnoteでは九龍さんをこんな風に紹介している。

手のなる方に呼ばれて、九龍さんは、縁をつなぎ、これからも縁起のいい企画を生み出していくのかなと思う。
阿部さんのnoteより)

これを見て、「あぁ、こういう人になりたかった」と思った。

私の中で、「自分の書いた言葉で誰かをつなげる、そこからポジティブなものが生まれる」というのは、できたらいいな、と思いつつ、憧れのまま終わっていたことだった。

どうすれば九龍さんに近づけるのだろう、と思いながら講義を聞いた。

私なりに九龍さんのお話を解釈した結果、
良いつながりを作っていく、というのは、自分にいろいろなものをぶつけてみて、自分フィルターを通して出てきたものを、細々とでも、発信し続ける。
発信することで、たくさんの種を植えていく。
いずれその種がどこかで芽を出し、その芽のうちのいくつかが、少しずつ花開いていく。
そんなイメージなのかな、と思った。

今まで、やろうやろう、と思ってできなかった、発信し続けるということ。企画メシをきっかけに、もう一度トライしてみたい。

今回は、その発信の第1弾として、講師の九龍さんがコメントを寄せていた「東京自転車節」を見てきたレビューを、講義のアンサーとして書こうと思う。

「東京自転車節」とは?

東京自転車節は、コロナをきっかけに東京でUberEatsの配達員の仕事をはじめた青柳監督自身が、厳しい現状にどん詰まり感を感じながらも、日々自転車を漕ぎ、日銭を稼ぎ、生き抜いていく。そんな様子を写したドキュメンタリー映画。

東京はポレポレ東中野のみで上映中。今後全国で順次上映される予定のようだ。

今回たまたま九龍さんがリツイートしているのを見つけて、
大学時代に自転車サークルに入っていた私は、「自転車」というワードに惹かれた。

そして、「小さな映画館」「セルフドキュメンタリー映画」など、私にとっての初めて、も多くて、少し心が躍った。

はじめての、小さな映画館

私はこれまで大きな映画館ばかりで映画を見てきた。
小さな映画館はディープな印象があり、映画通がいくところなのかな…と勝手なイメージで近づけずにいた。

今回はポレポレ東中野という小さな映画館。平日の仕事終わり、ドキドキしながら映画館の前まで行くと、陽気なおじさんが三人たむろしている。ちょっと入りづらい。

地下への階段を下りていくと、フライヤーや新聞記事、写真など、壁にたくさん掲示物がある。世の中には、こんなにたくさん、私の知らなかった映画があるんだな、と思いながら、上映時間が迫っているので、急ぎ足で階段をおりていく。
次はもっと余裕を持った時間に来ないとな。

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(↑これはシアター前の掲示)

階段を下りたところに、UberEatsのバックを背負った人がいる。「誰だろう?」と顔を見ると、監督だった。なんと、こんなに監督との距離が近いのか、と驚き。

シアターの中に入ると、パラパラと入ってくるお客さんたち、そしてなんだか独特な匂い。嫌な感じではなくて、なんだかおばあちゃんの家に来たような安心感のある匂い。

そして、上映時間。スクリーンの前にかぶさっていた緑の幕がカラカラと音を立てながらあがっていく。

青柳監督とその周りの人々の愛くるしさ

「東京自転車節」を見て、その映像の疾走感とか、UberEats配達員の労働条件問題とか、いろいろ感じるところはあったものの、私が個人的に一番推したいポイント、それは青柳監督とその周りの人々の愛くるしさ、だ。

青柳監督は、コロナ禍で職を失ったことをきっかけに、緊急事態宣言下の東京で自転車配達員として働きはじめる。奨学金返済額550万、無一文、友達の家に転がり込む。稼ぐんだ!といいつつ、働かずゴロゴロしてしまう日も。
稼いだお金をリアルに映画中に表示してくれるので、稼いだお金0円の日が続くとこちらがヒヤヒヤしてくる。

そんな中、青柳監督の周りには、偶然ばったり会った人や昔からの友人など、いろいろな人が集まる。素直に人の話を聞き、一生懸命に生きていく姿に、手を貸したくなったり、話をしたくなったりする人が多いのだろう。

映画上映後の舞台挨拶では、東京から山梨まで本当にすべて自転車で走り切った、という裏話も。道中の山道の撮影は、カメラを設置して録画ボタンを押した後、一度下って撮影し、カメラを取りに再度山を登っていたのだという。それを当たり前のように、サラッと話す青柳監督。その撮影の様子を思い浮かべると、なんだか愛くるしいし、手を貸したくなる。

映画の中では青柳監督の周りの人々も印象的に映されている。

マスクを縫ってくれる、実家のおばあちゃん、
地元の有名人、ひいくん、
映画関係の友人、土くん、
偶然出会った俳優のおじさん…

どの人も、青柳監督の目線で、愛くるしく映されている。
映画の本筋とはあまり関係のないところかもしれないが、私は土くんが家でストレッチしている場面が一番お気に入りで、マスクの下でニヤニヤしてしまった。
(土くんは完全にステイホームをしていて全く外に出ていなかったらしいが、どうやって収入を得ていたんだろう)

地元の有名人として何度か登場する、ひいくんは、青柳監督デビュー作「ひいくんのあるく町」にも主人公として登場する。ひいくんの目線から見た町の様子を描いているとのことで、ひいくん気になるので見てみたいけれど、今は上映していないみたい。

映画を見た人に、登場人物が愛されるように映されているのは、きっと撮影している青柳監督自身が、周りの人に愛情をもって撮影しているからなのかな、と思った。


コロナ禍で、人それぞれ状況は違えど、それぞれがどん詰まり感を感じてきたこの1年。その中で自分が感じた感情も思い出しつつ、青柳監督の人生を覗き見る。

映画の感じ方は人それぞれだし、コロナ禍をどのように過ごしたかも人それぞれだけれど、2020年、同じ時代を過ごした人であれば、この映画はきっと楽しめる。

映画の主題歌である「東京自転車節」の明るさと、登場人物の愛くるしさに、ちょっと明るい気分になれるかも。

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