門の向こうで戦争が始まる。

【1998年1月27日(晴)中国:大理】

古都「大理」、、、あの大理石の語源になったと言われる大理石の名産地である。らしい。

西には4000m級の山々を、東には美しい湖をたたえ、穏やかな気候と、明るい人たちと、そこかしこに生い茂る不思議なハーブ(笑)に囲まれた、桃源郷のようなところである。

ツーリストの集まる「大理古城」の中心街には1998年当時、中国最大規模クラスの外人向けツーリストカフェが無数に立ち並び、普通にどこでも英語が通じ、「没有」といわれるパーセンテージが限りなくゼロに近く、色鮮やかな民族衣装をまとった人々が笑いかけてくれるという、中国では幻のような場所であった。

長居する人が多いのもうなずける。一度ここに腰を下ろしたら、何も自ら好んで漢族と戦うために他の街に旅立つ気力も無くなるだろう。 

そんな旅立つ気力を無くした旅行者の溜まり場、「紅山茶賓館」に私はまっすぐ宿をとった。

さて明日は「春節」。爆竹好きの中国人が、中国全土で広島型原爆数十発分のエネルギー量にあたる爆竹を炸裂させる中国のお正月だ。あまりに派手にやりすぎるので今年から都市部での爆竹は禁止されたらしい。爆竹で死人がでるのもこの時期である。

今日のうちに私も明日のための弾薬を買い揃えようかと思っていたら、ホテルの服務員が言うには「大晦日から正月にかけてが一番盛り上がる」らしい。ぬぬ、今晩ではないか。

急いで私も街に出て、爆竹やらロケット花火やらドラゴン花火やらを$10分ほど買い漁る。火薬の量はおよそ1キロ。

この装備で我が自由惑星同盟軍は今夜持ちこたえられるだろうか、、、後はまかせたぞヤンウェンリー准将。

日も暮れてきたころ、今まで単発的であった市街戦は本格化した。

街中からマシンガンのような爆竹の音が四方から響き渡り、時折ダダーンと窓ガラスを振るわせる爆音がこだまする。恐怖に怯えた野良犬の鳴き声に混じり、婦女子の叫ぶ声も聞こえる。

「行かねばならぬのか、、、」と私は呟き、拳を握り締め、靴の紐をきつく結びなおす。もちろん頭の中に鳴り渡っている音楽は「ランボー怒りのアフガン」だ。

ホテルの玄関の門を出たあたり、ちょうど「チベタンカフェ」の前のところが最前線らしい。「よし、まずは爆竹だ」と私の動きが止まったところを狙い撃ちされた。後ろから忍び寄ってきた破壊工作員に足元へ爆竹50連発を放られる。

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチババチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチババチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチチチチチチ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!???!!

おい!あほかっ?!(ドキドキドキドキドキドキドキ)殺す気なのか?(ドキドキドキドキドキドキドキ)私が攻撃に移る一瞬の溜めを狙われた。くそっ出来る奴がいる指揮官クラス、、、金髪の小僧かもしれない。背後をがら空きにするのは良くない。戦線を移動させなければ。私は爆竹が炸裂し舞い上がる火の粉を手で払いながら通りを走り抜け、爆音と閃光で油断している銀河帝国軍の兵士の足元に爆竹を仕掛け片っ端からなぎ払ってやった。なめるなよローゼンリッターここに推参だ! 

、、、夜23時を回ったあたりから戦局が変わってゆき、いつのまにか「白人 VS 日本人」の構図になってきた。望むところだ。敵討ちだ!俺の!

桂林や昆明で寝起きをともにした日本の歴戦の勇士達とも「チベタンカフェ」の前で合流。爆竹を使ったゲリラ戦から、ロケット花火の水平発射によるミサイル戦に変わっていった。

、、、つーか良いのか?こんな大晦日で中国人?おごそかに除夜の鐘とか、炬燵でみかんとか、「てん、、、てろれろれろりん」とか情緒溢れるなんたらは無縁なのか?

そんな事を考えつく頃には更に狂喜の度合いは増してきて、ロケット花火を両手に持って叫びながら通りを疾走する白人兵器も登場だ。日本を代表して私は両手と口にドラゴン花火を咥え「ゴジラ」で威嚇しておいた。

戦局が長引くと裏切る奴が出てくるのはこの世の常で、和食レストランの「菊屋」で善戦していた部隊が我々に反旗を翻した。

昆明で一緒だった日本人留学生が「あの菊屋にいる人たちがダーリーズ(大理‘S)ですよ」と耳打ちしてくれた。ほう。よく見えないがあの人たちがダーリーズか、、、で、ダーリーズってなんだ?

大晦日を過ぎて、中国の新年が訪れた頃。

我が軍の弾薬も底を尽き、撤退を余儀なくされてしまった。

おもしろかったぁ。 

服に穴は開いたけど。今は爆音のため耳がキーンとして何も聞こえないけど。顔中煤だらけだけど。

夜もとっぷり更けて2時頃、ようやく興奮も冷め眠りにつく。

まだ外では爆竹が時折鳴っている。

みんな新年がやってきたのをお祝いしたい気持ちでいっぱいなのだ。

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチババチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!!!!!!!!!!!!!!パン!パパパパパパン!!!

うるせぇ!いいかげん寝ろ!

ばかっ!

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