モーリス
あらすじ
20世紀初頭のイギリス
ケンブリッジ大学に在学中のモーリスは同じく学生のクライヴと出会い意気投合した2人は友情を深め合う
ある日クライヴに愛を告白されたモーリスは戸惑いながらも自身もクライヴを愛している事を告げる
クライヴの強い希望により2人の関係はプラトニックなままだったが、卒業後ケンブリッジの同期だったリズリー卿が同性愛の罪で逮捕され地位も名誉も全て失ったのを目の当たりにしたクライヴはモーリスに別れを告げる
その後クライブは結婚し、失意の中モーリスは自身の同性愛を矯正しようとさえする そんな中結婚したクライヴ夫妻の家に招待されていたモーリスは猟場番を務める青年アレックと出会う
(物語の重要な部分と結末に触れています)
数多く作られたLGBTQの映画の中で不滅の輝きを持ち続けているモーリス この映画は主要人物が不幸な結末を迎える訳ではなく、それぞれが己の信じた生き方を貫くというとても力強さに溢れた映画だと思います
モーリスは同性愛が処罰される時代に生きながらも自身の愛を決して諦めようとせず、それはモーリスが最も愛したクライヴの心を動かす事は出来ませんでしたが、自身の気持ちに素直なアレックの心に届きあのラストに繋がりました
クライヴという男性も同性愛を肯定しながらも自身の将来や当時の時代背景、そして友人だったリズリーの逮捕によってモーリスとの関係を終わらせましたが、ラストの窓の扉を自らの手でしっかりと閉め、自身の同性愛に蓋(クローゼット)して、妻であるアンとの人生を貫くと誓うような場面でわかるように、モーリスとは違う信念を持った男性ですが、この先人生の岐路において、自身の選択は正しかったのかと自問自答していくであろう事も伝わってくるような、クライヴという人間の悲しみが見事に描かれた場面だと思います
この映画の舞台は20世紀初頭のイギリスが舞台ですが、現代においても性的指向や性別関係なく続いているテーマであり、自分軸で生きるか他人軸で生きるかと迷い続ける人間にとっての普遍的なテーマがこのモーリスという映画の根底には流れています
モーリスがクライヴへの愛をはっきりと自覚し、窓からクライヴの部屋に忍び込んで愛を告げたように、モーリスの部屋に忍び込んだアレックに愛を告げられる場面は、モーリスの愛が報われた瞬間であり、人は人を愛したぶん人から愛されるという事を見事に象徴した場面だったと思いますし、この映画はLGBTQだけではなく多くの人の心に灯火を与えるような作品になり得ると思います
クライヴの妻のアンについて直接の心理描写は無いものの、アンの表情だけで彼女が全てを察しながらもそれを飲み込みながらクライヴと生きていく覚悟が観ている我々にもはっきり伝わってくるように、全ての登場人物の心理描写が見事としか言いようがなく、配役、音楽、背景も全てにおいて完璧と言える名作中の名作だと思います
クライヴ役のヒューグラントの美しさはもう伝説の域ですが、モーリス役のジェームズウィルビーの繊細さを持ち合わせたある種の男性らしさ、アレックス役のルパートグレイヴスの粗野さの中に秘められた情熱に魅了され、惹き込まれる作品であるのも間違いないでしょう