金娘龍ガリア
路地裏に二つの人影。何かが、女を突き当りに追い詰める。
それの瞳は爬虫類のように鋭く、身長は2メートル半、異常発達した筋肉と鱗。異形だ。人と呼べるものではない。
少女は蛇の怪物を見つめている。黒いショートに、金の瞳。右手にジェラート。最後の晩餐かの如く、甘味を口に運ぶ。そして、口を開いた。
「味、よく分からなかったんだけど!」
彼女を見よ、両腕に金炎が走る。路地裏が、一瞬メインストリートよりも明るくなる。絢爛なる魔法都市の影で、それは異形の力を焼かれ、散った。
路地裏から少女が出てくる。痩せぎすの男が残される。マギアポリスを震え上がらせた〈女喰龍〉の、あっけない幕切れであった。
煌びやかな街灯と小走りな人々が、マギアポリスを眠らせない。喧騒を通り抜けるように、少女が歩く。
お気に入りのカフェに到着し、一際苦いコーヒーを注文する。いらぬ邪魔が入ったが、ここからは至福の時間だ。そのはずだった。
青色の炎が、カフェを飲み込む。全てが焼き払われるのは一瞬だった。
🐉
金炎が薄れ、少女と、煤けたからっぽの男だけが残る。彼の体から青の残り火が溢れ、どこからともなく吹いた風に運ばれていく。時計塔から見下ろす三つの影が、それを目で追った。
影の中で炎が揺らぐ。緑、紅、そして黒。少女が振り返ると、影は闇に溶けた。
否、緑が出遅れた。少女が金炎ジェット噴射で時計塔へと到着し、緑の影を時計塔の床に叩きつけたのだ。
二度の災難、カフェの喪失。少し前から、このような襲撃ばかり続く。この前はブティック、さらにその前は自宅が消滅。もはや我慢の限界だ。
金炎が緑影を覆い、燃やし尽くし、緑の残り火が風に混じる。背後から迫る紅と黒の影、少女は回し蹴りで迎え撃ち、反撃の金炎放射を叩き込む。残り火の色が四つになった。
彼女は何者なのか。全てを語る時間はないが、一つだけ明かせるものがある。
嵐の子、金娘龍ガリア。それが少女の名だ。
【続く】
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