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家庭用テレビゲーム機で用いるパッケージ版ゲームソフトの中古販売は合法

概要

家庭用テレビゲーム機で用いるパッケージ版ゲームソフトの中古販売は合法である。

導入

通称『中古ゲームソフト裁判』。2002年4月25日に最高裁判所第一小法廷で下された最終的な判決については以下を参照されたい。

平成13(受)952等 著作権侵害行為差止請求事件 (判決文全文
判決:上告を棄却する。上告費用は上告人らの負担とする。

以降は最高裁で認定された以下の事項を念頭に読んでいただけることを希望する。


  • テレビゲームは映画に類する著作物である

  • しかし、有体物(CDやROMカセットなど)に記録されたコンピュータプログラムとしてのテレビゲームは、映画と異なり大量に販売され、第一段階の譲渡時において適切な価格設定をすることで投下した資本の回収は可能であるので、流通経路の異なる映画と同じ頒布権は認められない。

  • 最終ユーザがゲームソフトを販売店に売却し、同店で他のゲームソフトを購入する行為は賃貸行為(ゲームソフトのレンタル)に類する一面もないではないが、所有権の移転を伴う行為であり、商品の自由な生産・販売を阻害するものではないから(頒布権の)権利消尽の原則が適用される。

  • ゲームソフトのパッケージに中古販売を禁止する旨の記載があるが、このような記載により中古業者が最終ユーザーから新品又は中古品のゲームソフトを購入した後に行なった販売の効力(所有権移転等の効力)を法律上否定できない。(頒布権の)権利消尽の原則は、取引の客観的態様・性 質により適否が定まるものであって、取引当事者の個別的意思表示よりその適否が左右されるものでないから、この記載により権利消尽の原則の適用を排除できない。

  • 古物営業法上はゲームソフトの中古販売は合法であると取り扱われている。


上記の最終的な判決は原審事件の判決への上告に対して出されたものであるので、ここでは2001年3月29日に大阪高等裁判所で出された以下の原審事件の判決をかいつまんで見ていくこととする。

平成11(ネ) 3484号 著作権侵害行為差止請求控訴事件 (判決文全文
判決:原判決を取り消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

一連の裁判の当事者

控訴・上告と審理が続き、控訴および上告の主体が交差するため理解を容易にする目的でそれぞれの主張を元に裁判の当事者を区分する。家庭用テレビゲーム機に用いるゲームソフトの中古販売差し止めを求める側を差止側、中古ゲームソフトの自由な販売を求める側を容認側とする。

差止側(代理人も含む)

  • 株式会社カプコン

  • コナミ株式会社

  • 株式会社スクウェア

  • 株式会社ナムコ

  • 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント

  • 株式会社セガ(旧商号 株式会社セガ・エンタープライゼス)

  • (社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会 (ACCS))

容認側(代理人も含む)

  • 株式会社アクト(ファミコンショップわんぱくこぞうを運営)

  • 株式会社ライズ

  • (テレビゲームソフトウェア流通協会(ARTS))

差止側の主張

一 映画の著作物の該当性(判決文6ページ16行)

  • 1 表現方法の要件(同6ページ17行)

  • 2 内容の要件(同7ページ7行)

  • 3 存在形式の要件(同8ページ14行)

(三) 本件各ゲームソフトは、著作者により創作された一つの作品としてC DーROMという媒体に固定され、プログラムに基づいて抽出された影像についてのデータがディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって全体と して連続した影像となって表現され、そのデータがCDーROM中に記憶されており、本件各ゲームソフトの海賊版やこれを模倣した他のゲームソフトが現われたと き、他のゲームソフトとどのように区別されるのかを明らかにすることができるから、その存在、内容及び帰属等が明らかとなる状態にある。

判決文8ページ37行

二 頒布権の消尽(同8ページ51行)

4 劇場用映画について第一譲渡行為により消尽しない頒布権が認められるにもかかわらず、映画の著作物である本件各ゲームソフトについて消尽するという解釈は取れない。

判決文10ページ13行

6 実質的にも本件各ゲームソフトには消尽しない頒布権を認めることが妥当である。

判決文12ページ1行

容認側の主張

一 ゲームは映画の著作物ではない。(判決文2ページ10行)
二 本件各ゲームソフトは頒布権付の映画の著作物に該当しない。(同3ページ6行)

3 頒布権と大量流通
    頒布権が与えられるべき映画の著作物は、少量の複製物しか製作されず、 製作された複製物の経済的効用が劇場用映画のオリジナルプリントに比肩するものに限定される。ゲームソフト(の複製物)は、大量に生産され、大衆に対し大量に販売される(平成九年のゲームソフト新品売上本数は一億本を超えている。)ので あって、極めて少数の複製物が製作され、映画館にのみ供給される映画の著作物とは著しく流通形態が異なっている。また、大量に生産され大衆に対し大量に販売される動産の流通経路のすべてにわたって製作者にコントロール権を与えることは実際問題として非現実的である。仮にそのようなコントロール権が貫徹されるとすれ ば、我が国の民法・独占禁止法等を含めた法秩序・法体系が保障しようとしている商品の自由な流通が根底から脅かされ、商品の自由な流通を阻害し、権利者に過大な保護を与える弊害が生じることになる。複製物が多数製造され、公衆への譲渡が予定される著作物には本、音楽CD、プログラムなど他にもたくさんあるが、本件各ゲームソフトのみに頒布権を認めるのは他の著作物と比較して保護内容に均衡を 失することとなる。

判決文3ページ24行

5 頒布権と貸与権
    昭和五九年に貸与権が創設されたことをゲームソフトの頒布権肯定に結びつけることは誤りである。貸しビデオは、貸与権によって規制することができ、映画の著作物の頒布権による規制の必要性がない。ゲームソフトは、映画の著作物に当たらないとした場合でも、公衆への貸与につき貸与権で規制でき、不都合はな い。

判決文4ページ6行

6 頒布権と投下資本回収
    頒布権は、投下資本の回収一般のために認められているわけでなく、劇場用映画の利用・流通形態の特殊性すなわち配給制度が頒布権の認められる根拠であり、配給以外の多様な機会など存在せず、想定もされていない。

判決文4ページ12行

三 頒布権の内容及び消尽(同4ページ21行)

 仮に万が一、本件各ゲームソフトにつき頒布権が認められるにしても、頒布権は第一頒布に適用されるのみで、その後の再頒布には及ばない。本件各ゲームソフトの複製物が最初に適法に流通に置かれた後は、その複製物について頒布権は消尽する。

判決文4ページ22行

2 ベルヌ条約における映画の著作物に関する頒布権は、最初の公衆への頒布行為に適用されるのみであり、いったん頒布された後の再頒布には及ばない。

判決文4ページ42行

3 著作物の複製物の譲渡について著作権が及ぶ形になっている法制度を取る国では、例外なく、第一販売で権利が消滅する消尽やファーストセールドクトリンなどの法理が認められている。このことは、米国や欧州連合諸国のみにとどまらず、韓国などのアジア諸国やロシアなどの旧共産圏諸国でも例外でない。また、WIPOなどの国際会議でも頒布権が国内消尽することは当然の前提となっており、 WIPO著作権条約もその前提のもとに頒布権の規定が設けられている。

判決文5ページ3行

4 ゲームソフトのレンタルは貸与権の規定でカバーできるし、外国(特にドイツなど)における消尽理論は、当初著作権について判例で認められ、その後特許権等について認められたものであり、被控訴人ら指摘の立法の経緯や著作権審議会の報告書は、単に、頒布権の消尽について、立法府や行政府が明確な解釈を示さず、司法にその解釈をゆだねたことを示しているにすぎず、頒布権が消尽しないとする根拠にならない。

判決文5ページ9行

四 他の法律、制度等との関係
   中古品の所有権の帰属にかかわらず、これを販売することが違法という主張は、極めて特異であって、憲法、独占禁止法、民事執行法、古物営業法と矛盾するものであり、我が国の法制全体の中で整合性を有しない。

判決文5ページ15行

3 古物営業法上の取扱
    古物営業法は、古物の買受けなどの場合に、原則として、相手方の住所・ 氏名などを確認などする義務を定めつつ、一定の金額未満のものなどを例外とし(一五条一項)、さらにその例外として「特に当該確認又は文書の交付の必要があるものとして国家公安委員会規則で定める古物に係る取引をする場合」を定め(一 五条一項一号括弧書)、古物営業法施行規則は、「確認等の義務を免除する古物等」について「国家公安委員会規則で定める古物」として「専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物」を定め(一六条二項二号)、「専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物」とは、「テレビゲーム、パソコンゲーム等のゲームソフトのことで、カセット式、フロッピー式等型式を問いません。」とされており(警察庁生活安全局生活安全企画課監修・財 団法人全国防犯協会連合会編著『新古物営業法 ー実務の手引きー』(東京法令出版一九九六年)、また、古物営業法施行規則は、古物営業法五条一項三号に関し、 二条で「古物の区分」について一号から一三号まで規定しており、一〇号で「道具類(…磁気記録媒体、蓄音機用レコード、磁気的方法又は光学的方法により音、影像又はプログラムを記録した物等)」と規定している。ゲームソフトがこれらの規定に該当することは明らかである。すなわち、古物営業法はゲームソフトの中古販売が合法であることを前提にしている。

判決文5ページ38行

大阪高等裁判所の判断

第三 当裁判所の判断(判決文12ページ39行)

当裁判所は、争点1、2については、原審と同じく、本件各ゲームソフトは 「頒布権のある映画の著作物」に該当すると判断するが、争点3については、原審と異なり、本件各ゲームソフトについて認められる頒布権は第一譲渡によって消尽すると判断するものである。

判決文12ページ40行

一 争点1(映画の著作物性)についての判断の理由(同12ページ45行)

       ストックホルム会議の公式提案は、いわゆるテレビジョン著作物の保護を目的として、映画に類似する視覚的効果を生ずる方法で表現された著作物で固定されているものを映画的著作物とみなすものとしていたが、同会議は、単なる影像の連続を感得せしめるものとしての映画との類似性よりも、より著作物性に重点を置いた影像のモンタージュやカット等の手法的な類似性によって映画類似の著作物を捉えようとしたものである。このことによって、著作物の例示の上ではテレビジョン著作物をも含めて固定のいかんにかかわらず映画に類似する方法で表現されているものは映画としての保護の対象となるが、国内法は保護の要件として固定を要求することができるものとなった。

判決文13ページ22行

エ 現行著作権法は、以上のベルヌ条約ブラッセル規定に即応し、同条約ストックホルム改正規定をも踏まえて立法されたものであり、保護すべき著作物の一として映画の著作物を明示的に規定し、独創性を有する映画と独創性を欠く映画とを区別しないこととし、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的方法で方法で表現されたものであることを要するとともに、テレビの生放送番組のように放送と同時に消えて行く性格のものを映画の著作物として保護しないということで固定の要件を規定し、現行法二条三項を設けた。

判決文13ページ31行

二 争点2(頒布権の有無)について(同14ページ35行)
三 争点3(頒布権の消尽等)について(同15ページ35行)

1 前記のとおり、当裁判所は、本争点については、消尽を積極に解する控訴人らの主張に左たんするものである。
    すなわち、被控訴人らは、本件各ゲームソフト(各パッケージに中古販売を禁止する旨が記載されている。右取扱いは一般的に平成一〇年頃から始められた。)を一次卸店を通じて、卸店、小売店を経由して最終ユーザーに譲渡されるまでの各販売につき許諾(黙示的)をしたものであるところ、控訴人ライズは、フランチャイザーである控訴人アクトの指導の下に、ゲームソフト販売店を開設して営 業し、本件各ゲームソフトを最終ユーザーから購入した上、一般公衆に対して販売したことが認められる(前記引用に係る原判決記載の前提となる事実、検甲一ないし六の各一、弁論の全趣旨)から、本件各ゲームソフトは、小売店を経由して最終ユーザーに譲渡され、いったん市場に適法に拡布されたものということができ、そうすると、権利消尽の原則という一般的原則により、被控訴人らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡につき頒布禁止の効力を及ぼすことができないというべきである。

判決文15ページ36行

2 著作権法の領域において消尽の原則が適用されるのは同法も当然の前提とする商品取引の自由という原則に基づく。

判決文15ページ51行

3 被控訴人らは、現行著作権法の条文の構造、法二六条の立法趣旨、法二六条の二、三の制定経過等に照らして、本件各ゲームソフトに消尽論を適用する余地はないと主張する(前記第二の被控訴人らの当審主張二1ないし4)ので、検討す る。

判決文17ページ26行

     しかしながら、一方、証拠(乙五七)によれば、ゲームソフトの複製物は、大量に生産され、直接、大衆に対し大量に販売され、平成九年のゲームソフト新品は、売上本数が約一億本、販売額約五三七七億円(国内約三八九九億円、海外約一四七八億円)であり、劇場映画の配給制度とは全く異なる方法で流通していることが認められ(なお、中古品は、売上本数が約四〇〇〇万本、販売額約一三九五億円である。)、この方法による投下資本の回収ができる流通実態を取っているといい得るから、当然に流通実態の全く異なる劇場用映画と同一方法による投下資本 の回収の機会を与えることに合理性があるということはできない。
     そうすると、被控訴人らゲームソフトの著作権者は、第一段階の販売 (譲渡)の機会に、適正な価格を設定することにより、投下資本の回収を図ることが可能というべきであるから、前記の事実があるからといって、権利消尽の原則を排除する根拠とすることはできないというべきである。

判決文19ページ48行

 (二) また、本件各ゲームソフトの各パッケージに中古販売を禁止する旨が記載されているが、このような記載により中古業者がユーザーから新品又は中古品のゲームソフトを購入した後にした販売の効力(所有権移転等の効力)を法律上否定できないことは明らかであり、また、権利消尽の原則は、取引の客観的態様・性質により適否が定まるものであって、取引当事者の個別的意思表示よりその適否が左右されるものでないから、右記載により権利消尽の原則の適用を排除し得ない。

判決文20ページ2行

 (三) 新品又は中古品のゲームソフトを購入したユーザーが、これを中古業者に売却して出捐した資金の一部を回収した上、新たに新品又は中古品のゲームソフトを業者から購入する(業者が販売する)ことは、後者の購入が経済的に貸与の機能を果たすといえる面がないではないが、前者の売却と後者の購入とは別の物品について行われている上、いずれも所有権移転行為であることはいうまでもないから(自由な商品生産・販売市場を阻害しないということは法律上の問題として考えられるべきである。)、権利消尽の原則が適用されることに変わりはない。

判決文20ページ8行

5 ゲームソフトの複製物は、大量に生産され、直接、大衆に対し大量に販売され、本件各ゲームソフトは、一次卸店を通じて、卸店、小売店を経由して最終ユーザーに譲渡されたのであるから、劇場用映画におけるような例外的商品取引形態でなく、いったん市場に適法に拡布されたものということができ、そうすると、権利消尽の原則という一般的原則により、被控訴人らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡につき頒布禁止の効力を及ぼすことができないというべきである。

判決文20ページ15行

考察

家庭用テレビゲーム機で用いるゲームソフトの開発者を著作権者、ゲームソフトの新品および中古品を取扱う業者を販売店、ゲームソフトの最終ユーザを利用者とする。

状況1

著作権者は販売店に商品(新品)を卸し、販売店は利用者に商品(新品)を販売する。

著作権者が販売店に商品(新品)を卸す
販売店が利用者に商品(新品)を販売する

利用者が販売店に商品(中古)を売却し、販売店が別の利用者に商品(中古)を販売する。

利用者が販売店に商品(中古)を売却する
販売店が別の利用者に商品(中古)を販売する

著作権者は利益を逸失しない

著作権者に逸失利益は生じない

状況2

著作権者に無断で商品(違法)を複製する者を違法販売者とする。

違法販売者が利用者に商品(違法)を販売する。

著作権者に無断で違法販売者が商品(違法)を複製する
著作権者に無断で違法販売者が利用者に商品(違法)を販売する

結果として、著作権者は利益を逸失する

結論

著作権者が投下した資本に見合う正当な利益が得られる(可能性がある)商品の流通が行なわれるならば、有体物に記録されたコンピュータプログラムであるゲームソフトの中古販売は合法である。

参考文献

謝辞

記事中で『いらすとや』様のイラストを使用させていただきました。
記事中で『WaterBridge』様の立ち絵素材を使用させていただきました。