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絶対に妊婦同士で対立してほしくないーー漫画家・ねむようこ×担当編集の妊娠出産のはなし/『君に会えたら何て言おう』発売記念対談③

第1、2回目の記事にたくさんの反響をいただきありがとうございます!4日連続更新の第3回めは、『君に会えたら何て言おう』でねむさんが描きたかったことなど、実際の作品の内容や、ねむさんにとっての「漫画」という存在にフォーカスしてお届けします。

★ねむようこ https://twitter.com/nemuyoko
2018年8月に女児を出産。漫画家。代表作に、実写ドラマ化もした『午前3時の無法地帯』はじめ、『トラップホール』ほか多数。産後、2019年4月から執筆を再開し、現在『神客万来!』(芳文社)を連載中。初夏から始まるFEEL YOUNG新連載を鋭意準備中。
★担当編集・K成 https://twitter.com/ame_kimagure
2018年12月に女児を出産。編集プロダクション・株式会社シュークリームにて『FEEL YOUNG』『on BLUE』等の漫画を編集。ねむさんの作品は『三代目薬屋久兵衛』『ボンクラボンボンハウス』『君に会えたら何て言おう』を担当。産後、2019年4月から職場復帰。

すべての妊婦さんが幸せになりますように

K成 ねむさんがこの漫画で特に描きたかったことは何ですか?

ねむ 妊娠ってとても大切な期間なのに、だましだましやってるみたいな感じがしていて。妊婦自身もそうだし、社会もそうだし。もっと大事にされていいし、もっと自分自身も向き合えていいし、もっと知ってほしいという気持ちが強くありました。妊娠前に知っていたら違ったこともあった気がするから、それを知ってほしくて。
 具体的に何がというよりも、毎日いろんなところで起こっている妊娠を、なぜ皆まるで気付かないように生活しているんだろう?みたいな。日々身近にあって、めちゃめちゃ大事にしなきゃいけない命がそこにあることを、もうちょっと社会全体が意識してもいいよね、という思いで描きました。

K成 素晴らしい〜!私も、キラキラ妊婦さんに対しての風当たりの強さとかを感じるたびに辛くなってしまうので、社会を変えていきたいです。

ねむ キラキラ妊婦も、別に毎日キラキラじゃないよね。キラキラ妊婦っていう人たちがいるとしても、同じようにめっちゃストレスフルな日々を過ごしてるはず。その上で、楽しもうとして前向きに生きれる人たちって、すっごく素敵だと思うんですよ。なんでそれを他人が見て笑えるの?だめだよって思う。逆に、自分と比べて落ち込む必要だって別にないし。

K成 本編に「つわりがある方がえらいのか」っていう話がありましたけど、どんな妊婦さんでも絶対に苦労を抱えているから対立を生むのはよくない、ということを描いてくださったのがすごくよかったです。

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ねむ 妊婦同士で争うのはやめよう、と心から思います。助け合いたい。

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K成 私は無痛分娩で産んだんですが、自然分娩で産んだ友人や上の世代の人から「無痛なんて…」という言われ方をすることもあって、そこでも対立したくないよ〜と思っていました。

ねむ 無痛を否定する上の世代の人は、自分がやってきたことを否定されるのが怖い、という感じがすごくする。自分の苦しみを「本当はなくてもよかったかもしれない」と思うのが辛いのかな?

K成 そっか…。そこで「いいなー!今は無痛があって!」と言うわけにはいかないのかな。「あなたも苦しみなさいよ」と言う必要ありますか?

ねむ その人たちは、「あなたも苦しみなさいよ」よりも、「私は苦しかったのに!」という自分の苦しみを言いたいだけのような気がする。「めっちゃ痛かったの!」ということを共感してほしいのに、無痛が一般的になると共感されなくなると思うのかな。大変さを知らないと、その苦労が評価されなくなるから。

K成 そうかもしれないですね…。共感できますけどね!お母さんは皆えらいよ!!!

ねむ 私も無痛に決めた時、知人から「赤ちゃんに麻酔かけることがどれほど危ないことか知らないの?」と言われたことがあって、本当に悲しかった。赤ちゃんに麻酔かけるわけじゃないし、そんなの当事者が一番考えてるに決まってる。そんな距離感の人が、人の妊娠出産に口出さないでと思いました。

K成 当事者の意志を尊重してほしいですよね。それが対立をなくすことに直結すると思うから。

子供ができて作風は変わる?

ねむ ちょっと話ずれるんだけど、妊娠前に友達と集まった時、「子供どうするの?」という話になって。子供がいる友達から「もう作らないでほしい!作風変わるの嫌だし」と言われたんですよね。あっ、なんかそういう認識なんだなと。

K成 えっ、ひどくないですか!? その方は、妊娠出産したことで自分が変わってしまったという意識があるんでしょうね。

ねむ うーん、わからんくもないんだけど。私の作品を愛してくれてるんだろうし。でも、他の作家さんが「子供ができたらそりゃ変わるよ!」って描かれてたことがあって、その通りだなと思いました。価値観が変わるくらいのできごとですからね。多少なりとも作風には影響出ると思います。

K成 作者に変わってほしくないと思うのは読み手のエゴですよ。作者としてはついてきてほしいけど、読者は自分が好きな作品だけ愛す自由も持っているんだから。と、私も一読者として思います。

ねむ ね~。作家は作品を生むマシーンじゃなくて、生身の人間なので。作品のために子供を産まないでほしいとは、冗談でも言うべきじゃないんじゃないかなと思う。

K成 当然ですよ!(怒)

ねむ まあ無邪気なんやろというか、学生時代だったらそれくらいの軽口やジョークは全然アリな空気感だったから流せるけど。

K成 でも『午前3時』シリーズの読者の方達にも読んでほしいですね。

ねむ うん、一緒に大人になった人たちに。大きくなったよね~、ももちゃんも。ももちゃんも38歳になっているんだな。

K成 多賀谷さんと結婚していてほしい!

ねむ あそこはしてると思う。

K成 やったー!ももちゃん、子供いるかなあ?

ねむ どうやろ。少なくともあの会社にはいないよね。

K成 今『午前3時』を描いて、って言われたらどうですか?

ねむ 描きたくないし、描けないと思う。

K成 ねむさんが『午前3時』シリーズを読み返したら、今はこうじゃないって思うところも少なからずあると思うんですよ。だから、読者の皆さんにも一緒にアップデートしてほしいし、ちゃんとついてきてほしい。

ねむ でも、こちらがアップデートしても、作品は発表した時のまま年を取らないから、それは怖いことだなと思います。時代を感じずに読む人も結構いるじゃないですか。

K成 電子書籍のフェアなどで、若い人たちが「新しい作品と出会った」と思ってくださるのは嬉しいんですけど、2020年に作られた物語だと思って読まないでほしいというのはありますね。時代背景を知っていてほしい。

ねむ ほんとにね!もうブラック礼賛じゃないから、つらい仕事なら軽率にやめたほうがいい。無理する必要なんかないから、働きやすいとこで働いたほうがいいよ、絶対!と思うもんね。

K成 そう!鮮やかなアップデート!

漫画からは逃げられなかった

K成 これから子供を考えようかなと思う人や、妊娠中の人に伝えたいことはありますか?

ねむ 元気でいてほしい…。あ、妊娠中の人には、ベビーカーは今買わなくていいよって伝えたい。

K成 えっ、突然具体的なアドバイスが。

ねむ だって、わからなくないですか?子供がどれくらいベビーカーに乗るのか。どういう生活様式でいつ使うのかって、子供が産まれてみて生活が始まらないとわからないから、今買わなくていいよってすごく思います。

K成 むしろベビー用品のだいたいがそうじゃないですか? 鼻水吸う機械(メルシーポッド)とか、すべて産後で間に合うと思います。

ねむ あと、子供を産むかどうか迷っている人に対しては、私自身はそんなに変わらなかったです、と伝えたいです。

K成 作風が変わってしまうんじゃ、と言ってたご友人にも伝えたいですね。

ねむ うん。人間性はそんなに変わらない。変わる部分ももちろんあるし、生活も変わるから変わることもいっぱいあるけど。
 妊娠前に、私が迷っていたことの大きなひとつとして、作品の軸足の置き所がわからなくなっていたんですよね。今後どういうものを描いていけばいいのか迷って、若干、逃げ道として妊娠があった。人生の軸足を子育てや家庭のほうに置いたら、もうちょっと楽になるんじゃないか、漫画に向き合わなくて済むんじゃないか、と思ったけど。

K成 産んでみて、どうですか?

ねむ 全然だめだった(笑)。それとこれとは違う。やっぱり自分の人生は漫画で、新しく子育てというものが加わったけど、何も変わらなかったなと思います。漫画とは向き合わなきゃいけなかった。逃げられなかったよ(笑)。

K成 そうかあ~。それがわかってよかったですね。

ねむ 人を育てることと、自分の人生と向き合うことは、同じところにあるようで別の問題だった。自分の人生は自分の人生だなって感じです、今のところは。

K成 よかったです。私は、「母親らしくせねば」ということの呪いから意外と自由になりました。お母さんだからできないことって、そんなにないなって。ライブも観劇もいつ行けなくなるかわからない、と今回のコロナで身に染みてわかりましたし、やりたくてできることは全部やったらいいと思います。

ねむ わかります。金髪にしたらよけいそう思った。保育園には地味な服を着て行かなきゃいけない気がしてたけど、もう金髪だからいいやって。母親だからきちんとしていなきゃいけないみたいなことを、まわりも諦めてくれるし自分もそんなふうに思わなくていいなって振り切れました。

K成 1話の、夜中にカップめんにごはんをぶっこむ自由は失われましたか?

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ねむ うん。

K成 あれ?それはないんだ!

ねむ うん。子供の生活に合わせなきゃいけなくなって、夜中の時間はなくなりました。

K成 ねむさんは、今はどんなスケジュールでご執筆されてるんですか?

ねむ 保育園行ってる時間だけ。夜もやりたいんだけど、今のところ夜はないです。
20時に寝かせて、20時半と22時に起きるんですよ。それぞれ30分~1時間寝かしつけにかかって、0時には私も寝るから、本当に時間がない。夜間断乳したらもうちょっと時間とれる気がするんですけど、まだ踏み切れず。
 でも、23時に寝かしつけたら2時頃まで寝てくれるんで、めちゃくちゃ忙しかった時は、その3時間or徹夜でやってた時があるんですけど、やっぱりだめですね。寝ないと。

K成 とてもえらいですけど、本当に寝ないとだめですよね…。私も夜に仕事し過ぎると、朝子供が飢えた声を出しているのになかなか起きられなくて、自己嫌悪が止まらないから、ちゃんと寝て起きるようにしています。

ねむ 自分が好きに生きられるところと無理なところがあって、無理なところっていうのは子供にしわ寄せが行くところなんですよ。そこは、子供に我慢させていいじゃんにはならないんですよね。

K成 空腹とおむつと睡眠は我慢させちゃいけない。

ねむ 我慢させる自分が嫌いになるもんね。

K成 嫌い…。そこは母親らしくとかじゃなくて、人間としてやばいってなりますもんね。

ねむ でも、良き母親になりたいじゃないですか、やっぱり。カップめんごはんがだめなのも、「ちゃんとしてたい」という自分に対する抑制もある。私はフリーランスなんで、ちゃんとしないとどこまでもちゃんとしないんですよ。油断するとすぐちゃんとしなくなるから、余計に意識的にちゃんとしなきゃいけないと思うのかもしれない。母親になってしまったから。

K成 ご自分の理想に近付こうとするのはいいことだと思います。

ねむ でも昼にはたまにやってるよ、カップめんごはん。

K成 私も!昼はあり!

普通の妊娠を描いたエンタメ作品として

K成 どういうふうに読んでほしいですか?

ねむ あんまり妊娠漫画と思わずに、エンタメの1つだなと思って読んでほしいです。
 妊娠出産を神聖視せずに、たまたま妊娠中の1人の女の人の物語だと思って読んでもらえるのが一番いいです。「妊婦さん」ていうよりも、フリーランスの、デザインの仕事をしてる30代の働いている女性が妊娠して、夫とちょっとすれ違ったりすれ違わなかったりしてる話だと思って読んでもらえると良いなって思います。

K成 うんうん。

ねむ …でも本当は、妊娠した経験のある人に読んでもらって「わかる~!」って言ってほしい。あと、欲を言うと、妊娠中の人が読んでホッとしたような気持ちになってもらえたらめっちゃ嬉しい。

K成 私が思うねむさんの漫画の良いところは、やっぱり読みやすいこと。本作でも辛さや苦しさをそのまま出さないで、ちゃんとエンタメとしてポップな読み口で描いてくださったことがとてもよかったと思います。ねむさんより下の世代で、『午前3時』シリーズをすごく楽しく読んでいたという人にも、延長線上で読んでもらえる作品なのではと私は思っています。

ねむ そうあってほしい。妊娠を迷っている人に、妊娠て楽しいこともあるかなと思ってもらえるといいな。妊娠がすごく怖いとか、変わることに不安がある人が読んで、ちょっと安心できるような「普通の妊娠」を描いた漫画として存在していたい。でも、やっぱりしんどい話も読んでおいてよかったです。

K成 はるな檸檬さんがマタニティブルーを描かれたコミックエッセイ「れもん、うむもん!―そして、ママになる―」は、我々のバイブルですもんね。

ねむ うん。MAXしんどくなることに備えられたし、実際そうはならなかったけど、そういう人もいることを知れたのが本当によかった。妊婦さん全員に、優しくしたいと思うもんね。私の漫画も、そういうことを考えてもらえるきっかけになれば嬉しいです。

→④へ続く。第4回目は2020年4月10日更新!次回が最終回です!

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