妊婦と食べ物と信仰ーー漫画家・ねむようこ×担当編集の妊娠出産のはなし/『君に会えたら何て言おう』発売記念対談④【完】
『君に会えたら何て言おう』発売記念対談、ラストの更新となります。最終回はこぼれ話のようなお話たちですので、お気軽にどうぞ〜!
★ねむようこ https://twitter.com/nemuyoko
2018年8月に女児を出産。漫画家。代表作に、実写ドラマ化もした『午前3時の無法地帯』はじめ、『トラップホール』ほか多数。産後、2019年4月から執筆を再開し、現在『神客万来!』(芳文社)を連載中。初夏から始まるFEEL YOUNG新連載を鋭意準備中。
★担当編集・K成 https://twitter.com/ame_kimagure
2018年12月に女児を出産。編集プロダクション・株式会社シュークリームにて『FEEL YOUNG』『on BLUE』等の漫画を編集。ねむさんの作品は『三代目薬屋久兵衛』『ボンクラボンボンハウス』『君に会えたら何て言おう』を担当。産後、2019年4月から職場復帰。
妊婦と食欲と信仰
ねむ 妊娠中は人生で一番食べ物が美味しい時期だったな〜。あんなに食べ物に執着したことは人生でなかったし。
K成 私は元々食べ物への執着が強い人間でしたけど、ねむさんがずっと食べ物のことを考えてるのは本当に珍しかったですね。何が美味しかったですか?
ねむ あとがきにも描いたけど、千疋屋さんのマンゴーパフェが本当に美味しかった~。あんなに体重気にしなきゃいけないのに、体がどんどん食べるように指示だしてくるのマジ地獄ですよね。あれ何?物がなかった時代の名残?
K成 そうかもしれない。昔は渇望したところでそんなにカロリーがあるものを食べられなかったはずですもんね。でも、私はそこまで食欲なかった、と日記に書いてありました。つわり時期は何が食べたいかよくわからなかったし、その後もそんなに…。「果糖が食べたい」とか、「アイスが食べたい」とかはあったけど、「めちゃくちゃいっぱい食べたい」という欲望から解放されたんですよ。
ねむ そうなんや…!(驚き)
K成 妊娠してない時はお腹空いてなくても物が食べたかったんですけど、妊娠中はお腹に子供がいて胃が小さくなってるからか、さすがに空腹じゃなければ何も食べたくなかった。妊娠で消化機能が低下してたのもあると思います。
ねむ なるほど。
K成 「空腹じゃなければ何も食べたくなかった」って、文にすると当たり前のようなんですけど、皆そうなんですか…?私は食欲に踊らされていた人生だったのかしら…。
ねむ (笑)。私のは食欲だったのか、ホルモンのせいなのか、制限されているものに対する欲求だったのか微妙だなと思いました。
K成 回転寿司の話は抑圧だと思いました(笑)。
ねむ あ、どうしても回転寿司行きたかった話? 夫は隣で普通に食べてたけど、私は生モノは食べずにかんぴょう巻きと茶碗蒸しだけ食べて大満足やったよ。
K成 涙ぐましい!でも、その話を私と同時期に妊娠してた同僚にしたら「お寿司は大丈夫だよ!私は食べてる!」と言っていて、いろんな信仰があるなあと思いました。確かに、生魚のリスクは細菌や寄生虫による食中毒だから、普通にお店のお寿司ならまあ大丈夫そうではある。
ねむ そやね(笑)。本当に何を信じるか人それぞれで、信仰だよね。正直、現代日本なんて、生肉以外ならだいたい食べてもそんな大変なことにならんもんね。でも、生モノとか鰻とか、食べたことによって絶対クヨクヨするやん、我々のようなタイプは。
K成 するーーーーーー!!!(絶叫)
ねむ じゃあ食べん方がいいんやて。
K成 ううっ…、本当にそう思います。授乳中にお酒飲むのも、時間をあければ大丈夫だと知っているんですけど。後でクヨクヨするから、最初から飲まない方が私は楽。何時間前とか量とかちゃんと把握できる人は、好きに飲んだらいいと思います!
ねむ ほんとそれ。どの宗派に所属するかっていうだけの話やね。何か信じるものがあったほうが楽だしね。
K成 でも、妊娠・出産に関してはなんかフワフワした説が多くて…、もっと科学的・医学的に論拠を示してほしかったなあ。
ねむ ほんとそう!産後の話だけど、乳腺炎になったらおっぱいにキャベツ貼るっていう説あるよね。私のお母さんもやっとったよ。
K成 えっ、ほんとですか!? あれ、すごい謎でした。
ねむ 今やキャベツより冷たいもの世の中にいっぱいあるからね?保冷剤あるよ?っていうね。
K成 他に適したものがない時代だからそうだったってことですよね!? キャベツはさすがに私はいいやって思いましたけど、基本的に頭がボーッとしてるから、判断力が落ちてて。ネットでいろんな説を見て「最後はあなたが思うようにしたらいい」って言われるのもわりときつかった。お医者さんに何でも決められたい、って思っていました。
ねむ そうなんやて。私はいろいろなことに関してリサーチしない人間なんで。だって迷うやん、判断力ないし、そんな調べとる時間もないし。それが病院選びを迷わなかったひとつの理由でした。選択肢ない方が楽なんですよね。
K成 わかります。何でも選べるから苦しくなるんですよね〜。
ねむ それ、最初の出産するかどうかの話に通じるんだけど、今の女の人には選択肢があるやん。それはもちろん嬉しいことでもあり、自分の責任で決断しなきゃいけないということにもなるから苦しいことでもあるよね。
K成 そう、自己責任と言われてしまうのが辛いときもあります。
ねむ 誰かが責任とってくれたらね(笑)。
K成 選ぶのだけ私やりますから(笑)。
ねむ あとよろしく!っつってね(笑)。
病院をめっちゃ適当に決めた
ねむ 私は無痛分娩を選択しつつ、やっぱり心のどこかでちょっと自然分娩への憧れみたいなものがあった気がする。
K成 えっ、本当ですか?すごい!
ねむ 「いっちょどんなもんか」って思ったけど、本当に甘かった(笑)。
K成 私はポプちゃんが出る時にもう痛かったから、絶対無痛と強く決めていました。
ねむ そうか、経験してるもんね。
K成 経験といっていいのかは微妙ですけど、あの痛みはやっぱり本当の陣痛よりは小さいんだろうと思うと、よけいに「これよりも…?こえー」って恐怖心が強まっちゃって。具体的な痛みは忘れるけど、恐怖心は残ってしまってだめでしたね。ねむさんは作中と同じく、無痛分娩の予定が結局麻酔医がいない時間に産気づいたから自然分娩になったんですよね。よくがんばられましたね!
ねむ やったー!でも、やるしかないもんね。ちょっと保留、とかできないもんね。
K成 えらい!
ねむ えらくないよ。自分のリサーチ不足だもん。病院めっちゃ適当に決めたもん。
K成 病院めっちゃ適当に決めたの!? びっくりして思わずくりかえしてしまった(笑)。えっ、24時間対応で無痛分娩できる病院が他にも近くにあったということですか?
ねむ いや、何も調べてない。友達が無痛に興味があるみたいな話をしてたら、友達の友達が系列の病院で産んでて、調べたらわりと近いとこにあったから、じゃあここにしよって。
K成 いいのでは?口コミじゃないですか。
ねむ そうかな?ややリサーチ不足じゃない?でも、最終的にはあの病院にしてすごく良かったですけどね! みんな優しくてご飯が美味しかった!!
K成 何よりです!
親がかける言葉は呪いになりうる
K成 お母様と妊娠について話されたりしました?
ねむ 子供が生まれてからつけた日記とか、母子手帳とかもらったりしましたけど、全然書いてなくてびっくりしました(笑)。第一子の兄の時はいろいろ書いてあったんですけど。
K成 わかります。私も第二子なので(笑)。
ねむ 妊娠した時に、母に報告したらすっごい喜んでくれたんですよ。でも、「自分に孫ができることじゃなくて、あなたがお母さんになることがとても嬉しい」と言われて、とても複雑でした。
別に私はお母さんにならなくても、自分でやってきた仕事のこととか、自分でいることをただ祝福してほしい。でも、母にとっては、私が「お母さんになること」が喜びで、今までの私では足りなかったんだな、と思ってしまって。
K成 うーん……。そう思いたくないですけどね。
ねむ でも、それを友達に話したら、その友達は「お母さんからそういう期待をまったく感じないから、逆にお母さんに産んでほしいと言われたらもっと妊娠することに前向きに踏み込めるのに」ということを言っていたから、いろいろだねとは思う。
K成 本当にご家庭によりますねえ…。
ねむ 私の親はすごく「子供がいることが素晴らしい」と言ってくる人たちなので、そういう呪いみたいなものはすごいあった。お母さん的には、自分がしてきた子育ての経験が素晴らしかったから私にもして欲しいって思ってるんでしょうけど。それは子供の私としては嬉しいことでもあり、でもやっぱり呪いにもなりうるんですよね。
K成 そうですね…。影響しないわけがないですもんね。今後、自分が親として子供にかけていく言葉の重みを思うとゾッとします。一生懸命考えていかなければな…。
ねむ ね。どうしたらいいか難しいけど、考え続けていきましょうね。
最終回までお読みいただきありがとうございました!対談で話題にしきれなかったことも漫画にはふんだんに盛りこまれていますので、ぜひご覧ください。この本は「妊婦、妊婦だった人、もうすぐ妊婦になる人、妊婦になろうか迷ってる人、妊婦になりたくない人、妊婦に興味がない人、身近に妊婦がいる人、身近に妊婦がいた人、妊婦から生まれてきた人に読んでもらいたい本」です。つまり…、全員です。よろしくお願いいたします!
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