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私たちはずっと、子供を持つか迷っていた。ーー漫画家・ねむようこ×担当編集の妊娠出産のはなし/『君に会えたら何て言おう』発売記念対談①

2020年4月8日、ねむようこさんの最新単行本『君に会えたら何て言おう』が発売!働く30代女性・キリちゃんの妊娠出産ストーリーである本作は、著者であるねむさんの体験が色濃く反映されています。自身の妊娠を通し様々なことを考えたねむさんと、同時期に妊娠出産を体験した担当編集が、作品への想いや、妊娠出産にまつわるあれこれをお喋りしました。

★ねむようこ https://twitter.com/nemuyoko
2018年8月に女児を出産。漫画家。代表作に、実写ドラマ化もした『午前3時の無法地帯』はじめ、『トラップホール』ほか多数。産後、2019年4月から執筆を再開し、現在『神客万来!』(芳文社)を連載中。初夏から始まるFEEL YOUNG新連載を鋭意準備中。
★担当編集・K成 https://twitter.com/ame_kimagure
2018年12月に女児を出産。編集プロダクション・株式会社シュークリームにて『FEEL YOUNG』『on BLUE』等の漫画を編集。ねむさんの作品は『三代目薬屋久兵衛』『ボンクラボンボンハウス』『君に会えたら何て言おう』を担当。産後、2019年4月から職場復帰。

私たちはずっと、子供を持つか迷っていた。


K成 『君に会えたら何て言おう』刊行おめでとうございます〜!

ねむ ありがとうございますー。緊張しますね。

K成 そして刊行記念として、私たちがいつも打合せで喋っているようなことを対談として発表してみようということになりました。まず、なぜ私たちは子供を持つことをこんなに迷っていたかと言う話からしようと…。

ねむ それを昨日考えとったんですけど、すごい忘れとるね。 覚えとる?

K成 覚えてません!(笑)

ねむ 考えてみたら、私はK成さんより6歳上だから、迷いや怖さの種類が違うかも。私は38歳で産んだけど、34、5の時に一回めっちゃ欲しいというか、作らなきゃいかんなという気運が高まっていた時期があったんです。そこからトーンダウンして、37、8になって、もう自分が欲しい欲しくないに関わらず、リミットが近づいているという状態になった。
 今思うと、そもそも一度「子供いなくてもいい」という方向にレバーを傾けたのは、子供のいない人生への準備というか…、できなかった時に精神的なダメージを負わないための準備という感じやね…。一番深いところでは欲しかったんだと思う。

K成 よくわかります。自衛だったんですよね。

ねむ 子供がいる友達に会いに行ったりして「そうだ、子供子供」みたいなイメージをもう一回自分に取り込むような作業をしました。で、もう一段階怖いのは、その作業をして「よし子供!」ってなった先に、できるかわからないというのがね。

K成 それなんですよね…。ねむさんは、一回欲しいと思った時に踏み切らなかったのはなぜなんですか?

ねむ たぶん、一番基礎のところでは、漠然と「いつか欲しいな〜」と思っていたんだけど、その行動を起こすのがめんどくさいのと怖いのとでほっときすぎて、気持ちが離れていったのかな。気付いたら若干手遅れになっていた、ということのような気がする。

K成 なるほど。私は積極的に欲しいと思ったことがなくて…。

ねむ そうだよね、私たちは子供どうする?って何年もグダグダ言っていた仲だけど、K成さんは子供を好きになれるかわからないみたいなことをずっと言っていた。

K成 そうでしたね。まあその気持ちはもはや全然思い出せないんですけど…。娘のこと好きで好きでたまらないから…(笑)。

ねむ 本当に可愛いですよね!!!

K成 子供が近くにいなかったから、よく知らないし興味の持ちようがなかったんですよね。良きものだと思っているけれど、自分と関係がなさ過ぎて「自分が?産む??」みたいな。でも私も、できるのかわからないから踏み込むのが怖いという気持ちが根底にはありました。あと、やっぱり仕事がずっと面白いから、中断するの嫌だな~と思ってましたね。

ねむ それは本当に大きいですよね。仕事もそうやし、遊びもそうやし。子供を持ったらがらっと変わるやろうなという気がして。

K成 子供がいない人生を楽しみ尽くしたのかという。

ねむ オタクの人はそれ強い気がするよね。オタク活動って情報戦じゃないですか。調べて整理して納金してって、結構なエネルギーが必要だから。

K成 納金(笑)。わかりすぎる!

ねむ それがやっぱり子供を持つと厳しくなって、そんなに追い回せない。やっぱり若干の取り残され感はありますね。

K成 リアルタイムの情報を追いきれない感じがあります。オタク活動もそうだし、仕事でも取り残されるような気がして。一年離れたら、もう全然トレンドがわかんなくなるんじゃ…っていう不安。

ねむ わかる!休んでみてわかる、この業界の流れの速さよ。でも、それはもう保障しようがない。諦めるしかないんだなって。

K成 そうですね…。特に漫画家さんは元々が個人の感性に依っているものだから、社会が保障することはできない。

ねむ ほんとにそうやよねー。

K成 逆に言えば、漫画家さんは妊娠出産に影響を受けすぎない仕事だとも思います。

ねむ でも、読むのも描くのもちょっと距離ができてしまったな。読めなくないですか?普通に頭が悪くなるっていうか…。字が読めないっていう気持ちになる…(笑)。

K成 わかるわかるわかる~! 妊娠するとこんなに頭が悪くなるって、誰か教えておいてくれよ! と思いましたね。脳が萎縮している…。

ねむ 妊娠出産は女の人の体をゴリゴリに削っていく行為だな、と実感しました。

K成 妊娠当初のことを思い出せなすぎて、日記を読み返してみたら、ずーっと「頭がボーッとしてる」って書いてあって(笑)。「仕事しようと思ったのにやる気が起きない」とか。ダイレクトに健康を損なわれていて、すごく怖いなと思いました。あと、全然覚えてないけど、わりとつわりがあったようです。

ねむ つわり、しんどそうやったよ。ルーのメディ芸受賞(※)の時に、国立新美術館に内覧会行ったやん。2018年の6月とか、2人とも妊娠真っ最中で、私が中期、K成さんが初期くらいだったんだよね。内覧会を途中で抜けてレストランで打合せしたんだけど、K成さんは「もう…一刻も早く何か食べないと死ぬ!」みたいな感じになってた(笑)。

※夜明け告げるルーのうた…ねむがキャラ原案を担当した、湯浅政明監督の長編アニメ映画。2017年アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門クリスタル賞、毎日映画コンクール大藤信郎賞、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞。

K成 食べづわりがきつい時期だったんですね…。その「何か食べないと死ぬ」の波が1時間に1回くらい来る、と日記に書いてありました。しかも、食べたいものがその時々によって変わるから、何でも食べれるわけじゃないのがまた苦しい。一時期、醤油かけたトマトしか食べられなかったらしくて、自分のことながらかわいそうだなと思いました(笑)。

ねむ かわいそう…。私は、つわりなかったんだけど、妊娠前から女の人が女の人の体で生きる理不尽さみたいなものを感じていたんですよ。社会制度以前に生物として、神を恨むみたいな気持ちで生きていて。神に抵抗する唯一の方法は子供を作らないことだと思っていたのに、それに屈する悔しさみたいのがあった。こんな理不尽に負けてたまるかと思っていたのに、やっぱ作るんやって。
 あと、「子供を作らないとかわいそうって思われるんじゃないか」という自分の中に実はあった偏見とか、親にかけられるプレッシャーとか、子供を作ることでそういうものに屈してしまうみたいな悔しさもあって…。子供は可愛いし好きだった分、葛藤は大きかったです。

K成 私は、子供がいない立場のことはもう何も言えないんだっていうことに少し恐怖がありました。

ねむ そうなんですよね、こればっかりは一個しか道が選べないから。

K成 しかし、振り返ってみて現代社会でよかったと思いましたよ。

ねむ ほんとそう。友達が、子供の頭の大きさと産道の大きさが同じくらいって産む前にわかったからもう帝王切開にしましょうって決めたんだけど、それ100年前だったらわからんもんね。超怖くない?

K成 そしたらただ死ぬしかないですもんね…。怖すぎる。私、産後直後に尿が出ないっていうのが2日くらい続いたんですけど。コレ昔だったらどうしてたんだ?って思いました。

ねむ えっ、カテーテル入れるの?

K成 そう、導尿。力を入れられないというか、排尿のやり方がわかんなくなっている感じだったんですけど。尊厳も失われているし、ひたすら生物としてつらいし。100年前だったら死んでるよな…と恐怖でした。

ねむ ねー!だからそういうのがむかつくんやて。だってさ、かなりの確率で死んでたと思うのよ、出産で。一方で、男は狩りをして戦をして命をかけてるっていうの、まじで違うからな…って思う。戦争しなくても生きていけるけど、出産がなければそもそも命始まらないじゃん。

K成 ほんとですよ〜。命がけで産み落とされた命で戦争がない社会を作るべきなんだよ…。

ねむ 狩りで命をかけるシーンより、出産のほうが絶対多いはずだし。出産がなければこんなに人間社会は続いてこなかったのに、なんなんだよって本当に怒りが止まらない。でもこれは、男の人にぶつけてもしょうがない怒りで。絶対的に理不尽なんですよ、生殖自体が。その理不尽さを社会制度でカバーするべきなんですよ。して欲しい〜!!

K成 本当にそうですよね!

扉を開いたのは、最初の「君」。

K成 ねむさんは自主的に「よしやろう!」ってなったんでしたっけ?

ねむ いえ、ポプちゃんの…。

K成 あっ、そうか。ポプちゃんの話していいですか?

ねむ ぜひしてください。

K成 ありがとうございます。私は「子供欲しい!」とは意志決定できないままに、「妊娠するかな、したらいいな」くらいの気持ちでいたら、2017年に一度授かったんですよね。いざ妊娠できたら嬉しかったから、「よかったなあ」と思って。大好きな『ポプテピピック』のポプ子から名前をもらって、赤ちゃんをポプちゃんと呼んでワクワク過ごしていたんですが、10週めで赤ちゃんの心臓の鼓動が聞こえなくなってしまって…。稽留流産(※)になりました。

稽留流産…出血や腹痛などのいわゆる流産の徴候がないが、超音波検査で発育が停止(流産)していると診断されるもので、本人には自覚症状がない。妊娠12週までの流産の原因のなかには、受精時に偶発的におきる染色体異常によるものが多く、初期の流産は、予防・治療し得ない、自然淘汰という自然現象と考えられる。

K成 ねむさんは、妊娠の報告をした時も、だめだったって伝えたときも、すごく一緒に泣いてくださった。本当に嬉しかったです。

ねむ うん、妊娠の話を聞いた時は、とても嬉しかったです。すごい衝撃ですよね。
 私たちは「子供を作っていこう」という方向にゆっくりながら向かいつつも、長らくイメージのまんまで。K成さんが妊娠したことで、ようやく「人間て本当に妊娠するのか!女の人が妊娠して出産するって噓じゃなかったんや~」と思った。扉を開けられた感じが、すごくしたんです。ポプちゃんが心臓を動かしてくれていた時期は短かったけど、K成さんだけやなく、私にも多大な影響を与えてくれた。そうやって影響し合うのって、命そのものやと思うんです。ポプちゃんが来てくれたことで、命って長さじゃないなと心から思いました。

K成 ありがとうございます…(泣)。よかったねポプちゃん。こういうことが起こるから、あまり妊娠初期で人に妊娠を伝えないほうがいいことになっているのだな、と実感したのですが…。言わなかったら、この命はなかったことになるのかなって思うと悲しくなります。

ねむ K成さんの中で、ポプちゃんと娘ちゃんはどういう関係ですか?

K成 ポプちゃんを喪った時に「ポプちゃん、また私のとこに来てね」ってお願いしたから、同じ魂なのかなとぼんやり思ってました。でも、妊婦健診のカウンセリングで、助産師さんから「上の子のお話を聞かせて」って1人の子として認識されたのが嬉しかったので、別の魂でもいいです。

ねむ 勝手なことを言うんだけど、私の中では、今育ってるK成さんの娘ちゃんとポプちゃんは、違う存在なんです。人と人が関わることで命の意味がうまれると思うんですけど、そういう意味で、ポプちゃんはすごい私と関わってくれた。ポプちゃんはすごいものを与えて去っていったなという感じがしてるんです。短かったけど、すごい意味があって。

K成 ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいなあ。それなら、ポプちゃんはもうこの世での役割をいったん終えてくれたんですね。私にとってもそうです。あのまま妊娠が続いていたら、今よりもずっと想像力が足りない人間だったかもしれない。

ねむ 全部意味があったんだね。短さも込みで意味があるかもしれないなって思いました。

K成 私はねむさんがポプちゃんのことを覚えていてくださって、それだけで本当に嬉しいし、良かったなって思えます。よかったねポプちゃん、って今でも心で呼びかけられる。

ねむ すごい身近だったから。K成さんのことじゃなかったら、こんなふうに思えてなかったと思う。

K成 ねむさんが一緒に泣いて下さったことや、ずっと覚えていてくださることで私はとっても救われました。他の悲しい思いをした妊婦さんの傍にも、心を寄せてくださる方がいるといいなあ。初期の稽留流産って、10回に1回は起こることなので…。

ねむ 多いよね。

K成 ねえ。それもやっぱり、触れてみないと知らなかったです。あと、稽留流産の自然排出があんなに痛いことはもっと教えておいてほしかった!

ねむ それー!話聞いたらすっごい痛そうで、本当にかわいそうだった。でも、今になってもあんま聞かんのやけど、痛かった人の話を。

K成 そうなんですよ!最近、「取材中にソファに経血が漏れてしまったが、実は生理ではなくて稽留流産だったんだ」っていう記事を読んで。
こんなに読みやすくフランクに書いてくれて嬉しいなって思ったんですけど、「えっ、取材中!? 痛みは大丈夫だったの…!?」とは思いました。

ねむ そうだよね、「イタタタタ」くらいな描写は見かけるけど…。K成さん、死にそうになってたもんね。

K成 そうなんですよ!手術日を予約してあったんですが、その前に自然排出が起こって。重い生理痛のような痛みだと聞いていたけれど、あれは軽い陣痛だったと思います。
「ウギャーーーーーーッッッ無理無理無理(床をのたうちまわる)」という痛みを自宅で数時間耐えてたけど、血がたくさん出て寒気が止まらないので、「おや?このまま行くと私は死ぬのでは?」と。結局、救急車で運ばれて1泊入院になりました。痛みへの怒りが強くて、「言わずにはおれない!聞いてくださいよ~!!!」と、人に話したくなるくらいの元気は湧きましたね。
 もし手術ができてたら、体はこんなに痛くなかったと思うんですけど、もっと考える時間があって、もっとずっと泣いていたと思う。全然人によると思うんですけど、私はたぶんそうでした。

ねむ うう…おつかれさま…。途中で育たなくなって出てきてしまったけど、その間は育ってきてたわけやん。なんか、すごいよね。

K成 そう〜〜。私のとこに来てくれてよかったなと思います、本当に。
あと、お医者さんから流産について、私がしたことやしなかったことのせいじゃないと言ってもらえてありがたかったです。

ねむ そういう意識がまだ浸透してない気がするんですよね。「冷やしたからじゃない?」とか、言う人いるよね?この時期の流産は、全然そういうことじゃないのに。だから、流産された方は二次的につらい思いをするんじゃないかなって思う。

K成 特に当時は仕事がすごく忙しかったから、善意から「ストレスじゃない?」って言ってくれる人がたくさんいましたけど、そうじゃない。私にできることはなかったんですよ。12週までの早期流産の原因は胎児由来の場合が多いし、そうでなくても流産は妊婦さんの努力ではどうしようもないことがほとんどで。ただただ起こりうることなんだよ、ということを伝えておきたい。

ねむ そうだよ!だって受精することすらままならない状態のわけだよ、普通だったら。育っていけることは本当に確率が低いこと…という意識が全然浸透しないのはなぜだろう。性教育のせいなのか。

K成 そうですよね~。自分が妊娠していても、なんでこんなに知らないことだらけなんだ?って思いましたもんね。

ねむ 知らなきゃいけないよね。妊娠のことを知るのは、自分がどうやってできて生まれてきたかってことなんだから。知った方が絶対みんなに優しくなれるよ。

②へ続く。第2回目は2020年4月8日更新!

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