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わたくしじゃ、お勃ちにならないですって?! 【♯1 Feeling good ever! お相手はポルノ依存症】


 早朝から撮影があると先に出掛けていくタケシさんの背中を笑顔で見送りながら、わたくしは握りしめた右手を震わせておりました。


 なぜ、なぜ勃たぬのです?

 怒りと悲しみに打ち震えながら、預かった部屋の鍵をガラスのテーブルの上に置くと、大きな音が部屋に響きました。

 前に付き合っていた元モデルの女に比べ、貧しい乳房をしているから? それとも、この下腹の柔らかいお肉のせい?

― B88、W58、H89、Fカップ。

 タケシさんから借りた大きめのTシャツを脱ぎ、全身鏡の前に立ったわたくしは、SNSで調べたタケシさんの元恋人のプロフィールを思い出し、ため息をつきました。

身長173センチで48キロしかないなんて、どうせ豊胸か体重公表詐称に決まっています。

 わたくしは、全身鏡に映る勝負下着姿の自分の体を繁々と見つめました。

 昨晩も勝つことがなかったのに、なにをもって勝負下着と呼ぶのでしょう。
イケメンカメラマンのタケシさんが以前付き合っていたのは、若いモデルや女優ばかり。

 彼女たちに比べると劣ることくらいわかっていますが、わたくしだって日々努力して参りました。


どんな仕草が美しく、お上品に見えるのか。髪型、洋服、靴、カバン、アクセサリー、化粧品などを駆使して培った努力の結果は、学生の頃からアップし続けているブログや動画を見て頂ければ一目瞭然でございます。

‘千春流・美人風スタイル’というセルフプロデュース本をはじめ、著書は七冊出版させて頂きました。中でも、‘異性とお金に愛され続ける方法’は二十万部以上のヒットを生み、メルマガ数は五千人超。オンラインサロンも軌道に乗り、ECサイトの化粧品も好評です。最近では美人女性起業家の一人としてマスコミに取り上げられ、情報番組のコメンテーターにレギュラー出演していた身。

 ただでさえも問題のある母親がいるのに、付き合っている男性にボッ、いや、欲情されないことが世間にバレたら、どうなるでしょう。
女としてだけでなく、今まで築いたキャリアまで失われてしまいます。

 わたくしはやるせない気持ちのまま紺色のワンピースに腕を通し、さっきまで一緒に夜を共に過ごしたベッドに腰を下ろすと、タケシさんの部屋を見渡しました。

 下高井戸駅から徒歩十二分。築四十年以上のアパートの一室がタケシさんのお部屋です。
わたくしのマンションに比べお家賃が安いのは歴然ですが、趣味のいいインテリアや家具のお陰で‘ノスタルジック’、‘ヴィンテージ’という単語がよく似合っております。
フリーのカメラマンとして活動していたタケシさんは経済的な理由から、つい最近、会社勤めのカメラマンになりました。


身長一八〇センチの均整の取れたカラダ。きめの細かい肌。すっきりした顔立ち。冷たそうに見える表情と笑顔のギャップ。

幼い時から母親譲りの容姿にコンプレックスを抱いていたわたくしは、自分に足りていない部分をタケシさんで補うべく、出会った瞬間、彼の遺伝子が欲しいと思ったのです。


年齢も収入もわたくしより低いですが、気が付けばいつも歩道側を歩き、重たい荷物を持ってくれるタケシさん。
高身長、細マッチョなタケシさんと一緒に歩いていると、大抵の女性は振り返ります。

彼となら、文句はございません。

結婚に焦りがないと言い切れないわたくしは、生まれて初めて自分から殿方にアプローチをしたのでございます。
文句どころか、引け目を感じて粗を探していたくらいです。が、まさか、こんな形で見つかるとは。

 予期せぬことでした。

 過去の恋愛では、わたくしが恋人からの夜のお誘いを断っていたくらいなのに、いったいどういうことなのでしょう?
五歳年下のタケシさんは現在二十九歳。性欲が衰え始める年齢には少し早い気がいたします。


一度も結ばれていない原因は、やはりわたくしなのでしょうか。

いや、でも、新しい会社に就職したばかりです。環境の変化が原因かもしれません。

冴えない学生の頃のわたくしを知るお友達とは全員縁を切ってしまいましたし、社交の場である女性起業家仲間の皆さまに、こんなプライベートなお話しはできません。
相談したくても、誰にしていいのでしょう? 


わかりません。

わたくしはベッドにうつ伏せになると、シーツに顔を埋めました。

タケシさんの匂いを探れどシーツに残るは、清潔な洗剤の匂いのみなのでございます。
わたくしは顔を上げ、グレーのシーツをぼんやり見つめました。
モノトーンでそろえられた部屋にはパソコン以外、物が見当たりません。
どうしたら、こんな風に物がない生活ができるのでしょうか。


‘恋も仕事も品よく呼び込む! 淑女のためのモテ風水’。

タケシさんの無機質な部屋を見渡し、ふと、寝具会社に依頼されたタイアップ広告記事を思い出しました。
インテリアの位置や寝具などを変えることで運気を呼び込むという内容でしたが、あの風水は、殿方にも効くのでしょうか。

わたくしは携帯を取り出すと、過去に配信した記事を熟読いたしました。
玄関に飾ってあるドライフラワー、浴室に置かれたプラスティックの石鹸置き、グレーのバスマットやタオルなどなど。
方位がわかるアプリを起動させ部屋中を調べると、次々にタケシさんの精気を失わせる原因が判明します。

やはりそうです。


悪いのは、わたくしではなく、このお部屋なのでございます!





つづく。


第二話はこちら▼



【ポルノ依存症奮闘記】が電子書籍化されました!

noteで連載していた【ポルノ依存症奮闘記】。やっと出版まで行きつくことができました。

noteで発信していた際は、少しでも目を引くタイトルにしたいと思い、「ポルノ依存症」というタイトルを大々的に出させて頂きましたが、本当のタイトルは「feeling good ever!」と言います。

How to本ではなく、あくまでも小説として性を語りたかったのは、情報ではない自分の心で身体の、命の声を聞きたかったからです。

今の目標は、この本を書籍化すること。

そして、性について悩んでいた当時のわたしに届けられるよう、できる限りこの本を広めていきたいと思っています。

そのためにも、一人でも多くの方にこの本を読んで頂ければ光栄です。

身勝手で申し訳ありません。でも、エゴ全開で。これからは遠慮せずに生きたいと思っています(*´▽`*)

電子書籍▼


書籍出版しました!▼


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詢川 華子(じゅんかわ はなこ)
「性、ジェンダーを通して自分を知る。世界を知る」をテーマに発信しています^^ 明るく、楽しく健康的に。 わたし達の性を語ろう〜✨