スーパーコンシェルジュ 7-③

 ③
 それから、数日後のことだった。週に二回ほど、嶺谷マネージャーと、問題が起こってないかとか、逆にあたらしい提案がないかとか、嶺谷マネージャーからのこんなことやってみませんか、という連絡や提案をもらったりする打ち合わせというか、ミーティングみたいなことをしているのだけど、その帰り。
 2階の事務所の片隅とかでやるのが恒例なので、一階に降りて、食品フロアを通り過ぎ、サービスカウンターに戻る途中。
 
 「いらっしゃいませ」
 人が立ち止まっている通路とかを外して、サービスカウンターのあるレジ外へと抜けようとした、レジ前の辺り。
 みっちゃんが、お客様と何かを話していた。手には商品を持ってる。
 なんとなく説明してるっぽい雰囲気に思えたから、寄って声を掛けてみようかなと思ったその瞬間、お客さんが笑って、みっちゃんの手の中の一つを手に取って、軽く一礼をしてちょうど離れて行ったのが見えた。
 
 「何だった?」
 「あ、うん、お客様の相談に乗ってた」
 少し照れくさそうな笑顔で、でもなんとなく嬉しそうなのは、多分お客様が満足してるっぽい顔をしてたからかな?
 「もしかしてサービスカウンターに来てた? 嶺谷マネージャーと打ち合わせしてたんだけど」
 「ううん、私でも答えられるかなと思って、……ちょっと応対してたら、ちゃんと説明できたし、なんか納得っていうか、いい感じに気に入ってもらえたみたい」
 「よかった」
 
 コンシェルジュになって割とすぐの頃。みっちゃんから案内されて来たお客様も結構いらっしゃったから、みっちゃんのその言葉は、ちょっと意外な気もした。
 「そう言えば、私が休みの日とかって、結構聞かれたりする?」
 「あー、サービスカウンターの人は結構案内されてるけど、私はその日は増えるとか、そういうことってないかな」
 「困ることある?」
 「ううん、大丈夫」
 なんだか言いたそうな顔で、でもなんだか嬉しそうな顔で、みっちゃんは軽く笑った。
 
 「サトちゃんがコンシェルジュになって、ホント最初のうちはさ、そっちに振っちゃえばいいから、ラッキーって思ってたんだよね」
 軽く肩をすくめた。
 「でも、なんかサトちゃんすごく頑張ってるし、でもって結構楽しそうだし――ごめん、最初は私、わー、サトちゃんめんどくさそうなことさせられて気の毒、とか思ってたんだ――でも、なんか見てるうちに、そういうのも悪くないかなって……」
 「そうなんだ」
 そう言えばみっちゃん「私には出来ないな~」ってよく言ってたもんなぁ。
 
 「なんていうの、そういう風に思い始めたら、逆にあんまりサトちゃんに回すのも悪いというか、あー、違うな、サトちゃんに回せばいいんだと思うんだけど、それがなんていうか……恥ずかしいっていうか、私だってできた方がいいんじゃないかっていうか、……わかる?」
 「んー」
 「この前まで同じように同じような仕事してたわけじゃん? で、私は出来ないからサトちゃんに回します、って、それでもいいんだけど、じゃあなんでサトちゃん出来るのかって言えば、頑張ってるからじゃん? なんかそれって、恥ずかしいっていうか、もうちょっと私も頑張ってみてもいいのかな、って」
 
 そこまで言って、みっちゃんは少し恥ずかしそうに視線をそらした。
 私もなんとなく気恥ずかしいけど、でもちゃんと見ててくれてて、ちゃんと評価してくれてたんだってことが嬉しくて、
 「ありがと」
 としか言えなくて。
 
 「だから休みとか気にしなくていいと思うよ。サトちゃんがいればお客さんが助かるってのはもちろんその方がいいと思うんだけど、サトちゃんがいないから、お客さんが困るっていうのは違うと思うし」
 「そっか」
 サービスカウンターの人たちも変わって来てるって言ってた。住生活フロアの人もちょっとずつ変わって来てるって言ってた。みっちゃんも変わったんだ。多分それは最初は小さな波紋だったのかも知れないけれど。
 もちろん、私たちの努力が通じない人――それは従業員にもお客さんにも――は居るのだろうけど、それは当たり前のことで。
 ちょっとずつ、ちょっとずつ、私たちがやろうとしていることを、まずは身近な従業員から理解してくれていって、ちょっとずつ広げて行ってくれて。
 
 今まで当たり前だと思ってたことを、実は当たり前じゃないと思うことはやっぱり勇気がいることだから、ちょっとずつ、ちょっとずつでいいのかも知れない。
 それでもこんな風に変わっていけることで、一つずつ幸せなこと、満足できること、そういうことが増えていってるって思えるから、多分やってることは間違ってない。
 少なくとも、今のみっちゃんは、多分前よりも仕事が楽しそうだから。
 
 「あ、でも分からない、無理って思ったら、そっちに回すからね」
 「もちろんだよ、そのために頑張って勉強してるんだし」
 軽口を返す。
 「でもみっちゃんが本気で頑張りだしちゃったら、なんか追いつかれちゃったりしたらヤダなぁ」
 「さすがにそんなことはないでしょ」
 「わかんないって」
 
 冗談半分、本気半分の応酬。
 でも、ホント負けてなんていられない。頑張らないといけないなぁって改めて思った午後だった。

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