スーパーコンシェルジュ 10

 10)終章 ――未来へ

 新年度が始まった。年度代わりの常で、異動もある。私の周りではサービスカウンターとか販売企画の異動もないし……なんて思っていたら、びっくりの異動が。
 なんと、食品フロアコンシェルジュが二人体制になってしまった。
 
 突然と言えば突然だし、定期異動の時期なんだからおかしくないと言えばおかしくないんだけど……なんと、そのもう一人は社員。
 以前に木谷店長に「若くて結婚もしていない社員より」という発言をされたことがあるのだけど、ふとそのことを思い出した。
 
 中野さんというその子は、大卒で5年目。入社してからずっと、住生活コーナーを回ってきたという。回ってきたと言っても、そんなに沢山異動してきたわけじゃないんだけど、野分店の前は梅ヶ枝店に入社、野分店ではリビングキッチン、梅ヶ枝店では文玩と割となんでもやってきた感じの子だったみたい。
 「まじめな子よー。今回の話が出るまで、知らなかったんだけど、元は食品希望だったみたい」
 「え、そうなの?」
 森川さんの情報に少し驚く。大卒で食品希望ってあまり聞かないかなと(特に女の子では)思ったから。
 
 「で、食品希望なのに最初文玩になって、せめてリビングキッチンに変えてくれってお願いして、で、うちのリビングキッチンになったみたい」
 「あー。ま、食品と関係があるのはリビングキッチンだよね」
 「そういうことみたいなんだけど」
 
 「そっか、じゃぁこの異動はうれしいだろうね」
 「じゃないかな。まぁ食品希望って言っても、どんなことを思って希望してたのかなんて分からない――っていうか、聞いてないんだけど」
 「たしかに。鮮魚やりたいっていうんじゃ、ちょっと違うかもだよね」
 
 ちょっとの不安と、思い出した「三田村部長の言葉」
 「やりたいという人にやってもらうのが一番だと思ってる」
 
 うわ、実は強力なライバル誕生なんじゃないの、なんて思ってた矢先、久々に店長室に呼ばれた。
 「失礼します」
 「どうぞー」
 店長の声。そして開けるとそこには……三田村部長。
 「久しぶり。元気にしてるみたいだね」
 「ありがとうございます」
 
 勧められて椅子に座る。
 「今日呼んだのはほかでもない、今回の異動のことなんだけど」
 「中野さんのこと、ですね?」
 「そう、明日が着任だろ。もう話はしたかい?」
 「えっと、軽く世間話程度に」
 「そうか」
 
 「うまくやれそうか?」
 そう聞いてきたのは木谷店長。
 「はい、明るいし、なんていうか、本人がやる気まんまんなので、こっちも嬉しいというか、頑張らなきゃっていうか」
 「そうだねぇ」
 三田村部長が目を細めた。
 「その言葉を聞いて安心したよ」
 思ってたことを聞いてみる。
 「彼女は、希望したんですか?」
 「ま、そういうことだね」
 「やっぱり」
 
 だよね。あいさつに来た時も、すごく嬉しそうだった。聞いたら食のブログとかもやってるって言うし。
 「彼女は、社員だから」
 「え?」
 「佐藤さんが頑張って育ててくれなきゃいけないよ」
 「あ、はい」
 唐突な言葉に、気持ちがぴっと引き締まる。世間話をしに来たっていうわけじゃないんだ、多分。
 
 「社員と言うことは、異動がある、ということだ。分かる? この店で学んだことを、他の店で活かしてもらう。他の店で広げてもらう、その第一歩だから」
 そうか、中野さんにとっては、私と一緒に仕事をするっていうのは「修行」なんだ。
 「もちろん本人にも少しはそういうことを意識するように伝えてあるけど、佐藤さんもそこをしっかり考えて、中野さんには佐藤さんが学んだことをしっかり伝えてほしい」
 「分かりました」
 そうだ。そもそも私がこの前の発表会で「他の店にも」って言ったんだし。
 言ったことの責任はきちっと取らされるなぁ、なんて思わず苦笑してしまう。
 
 「知識とかね、そういうものは後からでもついてくる。そうじゃなくて、その根っこにある心髄というか、そういうもの。それを教えてあげてほしい」
 
 人に伝えていくこと。伝わっていくこと。
 一人じゃないっていうこと。色んな人の想いがあって、今のリバティマートがあって、そしてそれを伝えていくっていうこと。
 学び続けるっていうこと。人に教えてるつもりで、教わってること。本気で向き合って、思いをつなげていくっていうこと。
 
 その根っこにある「志」
 リバティマートのお客様に、もっと食を愉しんでほしい。豊かな生活に近づいてほしい。そんなこと。
 
 「はい、分かりました」
 改めて、私は私に誓った。
 
 ―――――― Fin.

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