スーパーコンシェルジュ 8-①
8、伝える力
①
着任して、まもなく半年になろうかという頃だった。久しぶりに「招集」が掛かった。最初に集まった時以来、嶺谷マネージャーとの打ち合わせはあるし、森川さんとかと休憩時間に喋ったり、あまり接点はないけど、衣料服飾品のコンシェルジュの宮原さんとも大分親しくはなってきて、軽い世間話くらいはするようになった。
そうそう、やっぱり仕事の都合上、コンシェルジュの3人は食堂や休憩室で会うことももちろんだけど、意外にPOP室で鉢合わせることが多かったりする。
販促物、自分で作ったり書いてみたりするのはもちろん、POPさんに依頼に行って、そのまま詳細を詰めていたり、時間があればその場でちゃちゃっと作ってもらってたりしたら、そこにやってきて、……みたいなことも結構あるんだよね。
で、その日のミーティングで。
「ネットを使って……今流行りの、というからではないんだけど、情報発信をしていくことを考えようかと思ってて」
口火を切ったのは嶺谷マネージャーだった。
「SNSですか?」
「そう、で、やっぱり中心になる……やってほしいのはこのメンバーなので、集まってもらいました」
思わず左右を見てしまう。興味があるかないかと言えば、そりゃあるんだけど、ツイッターでの失言で広がっちゃったりとか、ネットのトラブルとか、色々考えると、何も考えずに「はい!」って手を挙げる気にはとてもならない、かなぁ。
「SNSと言っても、色々あると思うんですけど」
最初に発言したのは、宮原さんだった。
「そうなのよね。それについても、私なりに思う所はないわけではないんだけど、まずはみんなの考えを聞いてみようかと思って」
みんなは何かやってたりするのかな。っていうか、色々あるからなぁ。私はフェイスブックとLineはやってるけど、フェイスブックはほぼ放置、だし。
「フェイスブックはやってますけど」
と、芹沢さん。
「昔、ちょっとブログをやろうと思って、やってみたことはあるんですけど、結局続いてなくて……」
と言ったのは、宮原さん。森川さんはLineだけ、ってことだった。
「そうかー。誰か一人、バリバリやってる人でもいればな、とか思ったんだけど」
ちょっと首をすくめて笑う嶺谷マネージャー。にやっと笑って一言。
「じゃ、芹沢、頑張ってみようか」
「えっ、私!? 私ですか?」
「販売企画だし、この中で一番若いし、妥当な線じゃない?」
「あー、えー、あー、はい」
しばし芹沢さんは天を仰ぐ。小さく息を吐いて
「まぁ、そう、ですかね」
少し苦笑するような口調で承諾した。その顔には嶺谷マネージャーには逆らっても仕方ないし、と書いてある気がして、少し笑ってしまった。
「でも私、文章とか書けないですよ」
「知ってる」
「Line? で画像アップしていきますか」
「それはやってもらって構わないんだけど、どうもあれって『人』を感じないでしょ。ツイッターくらいが芹沢さんだといい線じゃないかなと思ってるんだけど」
「もしかして、マネージャー最初から決めてました?」
「そういうこと、やってるっていう人が誰もいなかったらね」
「そうっすか……」
少しひきつった笑顔の芹沢さん。
「情報発信かつ、とりあえずやってみるってのにはいいかなと思うんだけどね」
「一応個人でアカウントは持ってるんで、――発信することはめったにないですけど、ちょっと考えてみます」
「そうしてもらえる?」
「発信、かぁ」
不安げな芹沢さんの表情。ちょっとほっとした感じの森川さんと宮原さん。きっと私も少しほっとした顔をしてるんだろうな。
「ネタはみなさんからもらいますからねー」
私たちのそんな表情を見て、芹沢さんは少し不満そうに口をとがらせる
「そりゃもちろん、協力はしますよ」
なんせこの半年、新しいことに挑戦ばかりだったんだから、この上さらにそういうことにまで挑戦しろと言われたら……そりゃ必要だってのはなんとなく分かるけど、さすがにきついなと思ってたから。
「もともと、販売企画で考えようとは思ってたのよね、着任した時から。ほら、ここって本部も近いから、他の店に比べたら色んなネタも手に入れやすいかなと思ったり。でもスタッフも忙しくしてるし、かと言って、SNS専任を雇うのもなんか違う気がするし、そんなわけでで実行できていなかったから、……でも、このメンバーなら出来るかなって」
少し嬉しそうな顔で、嶺谷マネージャーが言った。
「割と今、3人ともお客様との接点を大事にしてもらってるじゃない? SNSで一番大事なのも、それだと思ってるのよね。今ってリバティマートのサイトあって、それは本社の販売企画が一応管轄してるけど、どうしても無難なものになりがちで、個人の顔が見えないのよ。お客さんから遠いというか、よそよそしいっていうか」
なんとなく、分かる、かな。今のリバティマートのサイトって、中心は採用とチラシ情報だもんね。
「ということで、野分店がやるSNSは、顔が見えるっていうのを目標に。プライベートなことまでダダ漏れにしろっていうことじゃなくね、働いている人の体温が感じられるというか……分かる?」
「分かります」
うなずく一同。で、芹沢さんがちょっと頭を抱える。
「言いたいことは分かる、理解できるんですけど……どうしよう」
すごく気持ちは分かる。
「ごめん、私もじゃあ具体的にどうしろって、分からないのよ」
「えー」
「でもこのメンバーだったら、出来そうな気がしない?」
ちょっといたずらを企てているような表情で、嶺谷マネージャーが笑った。
「一人じゃないから、大丈夫よ」
私たちの顔を見回す。はい、がんばります。確かに芹沢さんにだけ背負わすのはかわいそうだと思うし。でも出来ることって、何があるんだろう?
とはいえ、確かにこのメンバーなら出来るかも、そんな気がするのも事実だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。お役に立ちましたら幸いです。 *家飲みを、もっと美味しく簡単に*