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【同人女の戯言】一冊単価が高すぎる本を出すとストレス死する

 おひさしぶりです同人女です。何度か記事のネタにもした1000ページのクソ鈍器本を無事に発行して帰ってきました。
 あまりにもストレスフルで、財布とメンタルにつうこんのいちげきが入ったので、こいつはどこかに書き留めておかねばと思って久しぶりにnoteを書いてます。次の〆切は1ヶ月後です。note書いてる場合じゃねえよ。

 この記事の数字は全てノンフィクションです。私と同じことをしようとする人がもしこの記事を見ていたら、信じて、そして心を強く持ってください。

設定:
私(同人女)=そこそこ盛り上がっているジャンルのそこそこ大手のカップリングの中堅くらいの規模のサークルで小説同人誌を書いている元気なオタク。正社員の会社員。収入は平均程度。残業はしない。

経緯:
再録本を出そうと思ってまとめたらB6二段組で1000ページになった。

 最初にぶっちゃけるが、私の同人誌の発行部数はだいたい100部くらいである。ジャンル全盛期は二倍くらい刷っても秒で溶けてたが、最近は流行りもおちつき、まあ100あれば欲しい人にはだいたい行き渡るだろう、程度になっている。
 で、これは「格安ではない印刷所で特殊装丁しても赤字にならない」ギリギリラインくらいの部数だ。すごく多いわけではないが、弱小サークルを名乗るほどでもないと思う。

 でだ。細かい経緯は端折って、再録本を出すことになった。500ページの本2冊合計1000ページの鈍器が確約されている。どうするか。

 私が最初に考えたことは「1000ページの同人誌、安い印刷所で適当に刷ったら自重で崩壊するかもしれん」だった。
 たぶんちょっといい印刷所で刷った方がいい。そして丈夫な紙を使った方がいい。
 ちなみにtipsだが、見積もりを取る段階で、多くの印刷所は「300ページまで」もしくは「500ページまで」「背幅3cmまで」などを限界としていることを知った。それ以上もできるが外注なので特別見積もりになります、などという返信がきたこともある。
 私は泣きながら印刷所の品質や製造の限界と睨めっこし、最終的に「西村謄写堂」さんと「栄光」さんの二択にまで絞った。見積もりは、とりあえずいつもの部数(100部×2)で取った。

 西村さん「早割30%オフで80万です」
 栄光さん「装丁では西村に劣るけど早割で50万です」

 地 獄 か ?

 さすがにちょっと引いた。100部だぞ。
 100部で1冊単価4000円!? 2冊セットで8000円!?

 1000ページの同人誌ってそんなにかかるの!?

 いや刷ることはできる。できるよ。私にはエポスプラチナカードがある。
 でも、誰が8000円の再録を買う!?
 再録だぞ!?
 いつも私の同人誌を買ってくれる女神のような100人が、今回も全員喜んで8000円出してくれるって信じることができるか!?

 さすがにないだろ!?!?!??

 じゃあ部数を絞るか?
 部数絞ったら単価上がるんだわ!!!!

 ま、まあ、とりあえず西村さんで考えたけど、栄光さんだったら1セット5000円だ……ウン…5000円なら……まだ……まだ……

 実質的な選択肢はほぼ栄光一択だったので、私は栄光に入稿した。1冊単価をこれ以上引きあげることは考えられなかったので、もうどうにでもなれ〜の精神で100部で発注した。
 でも、100部は捌けない気がした。たぶん残る。100部で回収できる価格──要するに1冊2500円で頒布したら赤字になるような気がする。

 悩んで、頒布価格は約80部売れたら印刷代を回収できる「3000円」に設定した。でも、やっぱ高いと思ったので2冊セットだと5500円というセット割引を導入した。
 で、これを書店にもっていく。書店委託は掛け率が7割、要するに書店にマージンを入れなくてはいけない。そして消費税もかかる。仮に3000円バックしてもらおうと思ったら、委託価格はほぼほぼ税込5000円である。2冊セットで1万円の王台に乗る。

 諭 吉 ! (机を殴る絵文字)

 だめだ……それは私が許容できない。私の本に諭吉を入れるくらいなら公式の有償石に諭吉を入れてガチャを回して欲しい。
 書店委託価格を下げるしかない。80部で収支がトントンになるのが理想だったが、書店はもうちょっと妥協しよう……88部くらい……。うっ赤字が出る気がする……でもこれがギリギリだ……。

 ちなみに、同時並行で考えなくてはいけないのがイベントの搬入だ。印刷会社に聞いたら「100部でダンボール6〜8箱になるよ」と言われた。
 イベントに8箱搬入したら高確率で誕席、下手を打ったら壁である(壁経験者の大手サークル数人に聞いたのでたぶん間違いない)
 だが、知名度がそんなに高くないサークルの誕席・壁配置は諸刃の剣だ。同カップリングの島から外れてしまうと、島配置より集客力が落ちることになりかねない。
 島配置がいい。そう思った私は書店と分納にして、イベントに搬入する部数は限界ぎりぎりまで少なく削った。これまでの経験上、通販:イベント現地の比率はおそらく4:6でいける。今回はイベントが二ヶ月連続で続くので、次回イベントにも流すことを考えて5:5。つまり50部をイベントに入れて50部を書店に入れればなんとかなるはず。
 必死の計算の末に、私は島配置を勝ち取った。マジ一生分頭使った。

 さて、イベントが近づいてくる。
 印刷会社から「無事に発送しました〜」なんていうメールが届き、書店(私はフロマージュブックスにお願いしている)から受領書が届き、通販ページが作られる。
 今回はそれがイベント前日の土曜日の出来事だった。土曜日の16時くらいに書店委託がはじまった。

 ここでフロマージュさんのシステムの説明だが、フロマージュさんの売り上げ報告はリアタイではない。午前5時くらい(だったはず)に過去24時間分の注文数が集計されてマイページに表示される。

 書店委託価格は4600円。2冊で9200円送料込みでギリ諭吉を割る。
 いざ動き始めると、「だ、誰も買わねえのでは……?」という不安が強くなってくる。誰か注文してくれてるのか気になる。でも売り上げの更新はリアタイではない。

 100部の同人誌が完売する時の在庫の動きはだいたいわかっている。書店委託はじまったとき、初動で20〜30部動く。同時にイベントの現地でも30部程度動く。そのあと1〜2ヶ月かけてじわじわと減り、半年後には残部が10〜20くらいになっているはずだ。おそらく再録でも、同じ動き方をするはずだ……じゃないと困る……。ほら、85部くらい売れないと赤字になるわけだし……。

 ところで。
 1セット単価が5500円の同人誌の売れ行きが、想定と10部ズレたら赤字はいくらだろうか。
 正解は5万5000円である。
 20部ずれたら11万の赤字になる。

 お前の先月の手取りはいくら?

 このへんから、私の情緒は不安定になりはじめた。
 イベント前日なので関西から遠征してきた親しいフォロワーと茶をしばいていたのだが、お茶の味がわからなくなってくる。吐き気がして食欲がない。

 夜、眠れない。明日はイベントである。イベント会場でも30部は動いてくれないと赤字が見えてくるわけだが、再録だから半分くらいになるかもしれない。5500円の本なんて誰も買わないかもしれない。
 実際に吐くほどではないがマジで吐き気がする。ずっと胃がぎゅるぎゅるいってる。
 明け方の5時に、フロマージュのマイページを見ようかと思ったが、怖くて見れなかった。

 一睡もせず、吐き気でげろげろになりながらイベントの朝を迎える。

 朝ごはん食べたら絶対吐くわ、と思ったので、コンビニでキレートレモンとゼリー飲料を買い、イベント会場へ。
 ここではじめて同人誌現物と対面する。

ハードカバーである。

 めっちゃ綺麗に刷られていた。
 本の仕上がりは最高だった。装丁は全てデザイナーさんに頼んだのだが想像以上にオシャレに仕上がっており、私が読者だったら絶対欲しいと思える仕上がりになっていた。5500円でもいいかもしれない。いやどうだろう……うっ吐き気が。

 金や儲けのために同人活動をしているわけではない、赤字だって10万くらいどうってことない。推しが完凸するまでガチャに突っ込んだらすぐ溶ける。同人活動は自己満足だ。楽しければいい。
 でも、10部読み誤ったら5万が消し飛ぶイベントがスリリングなのは、そういう精神論とは一切関係がない。わたしギャンブルとかやらんから。パチンコとかやる人ってもしかしてめちゃくちゃメンタル強いんじゃない?
 特に、金や部数のことは、金や部数のことであるだけにフォロワーには言えない。ひとりで抱え込むしかない。

 朝からツイッターでげろげろ言いすぎて、フォロワー数名が「大丈夫?もしかして妊娠とかしてる?」と心配そうに聞きにきた。

 いやそうじゃないんだよ

 マジで自分の同人誌が不安すぎてメンブレてるだけなんよ

 イベントが終わって、37セット74部の再録本がお嫁に行ったことを数えて、やっと生きた心地がした。フロマージュの売り上げは予約開始から1日で25部という、いつもの順調な初動と全く同じ綺麗な数字を叩き出していた。
 片付けが終わったイベント会場で、半分泣きそうになりながら朝買ったウィダーを飲んだ。

 結論:1冊5500円の本は生きた心地がしない。


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