メンヘラとして生きるみたいな話

 こんにちわ、同人女です。
 今回は同人とかの話ではなく、最近同居人(私の戸籍上の配偶者ですが恋愛感情がないので私は彼を同居人と呼んでいます)と話していて、ふと感じた、持病にまつわる悲しい気持ちのことを書いてみます。

 さて、私はメンタルに持病がある人間です。
 思春期から気分の変調があり、鉛様鈍麻という「体が重くなって動けない」という症状に悩まされ、たびたび癇癪を起こして親とケンカし、常に「周りの人間は私の思考を読んで裏で嘲笑っているのではないか」という疑念が消えず、何度か自殺未遂を繰り返し、人間不信と憂鬱を抱えて生きていました。
 そして、細かい経緯は端折るのですが、二十代後半のある日、何度目かの自殺に失敗した私に友人が「精神科へ行け」と言いました。
 で、精神科にかかって、一発目は「鬱病ですね」と言われました。
 その翌週、薬の副作用に耐えかねてもう一度同じ病院を訪ねたところ医師が「これはもっと別の病気かもしれないね」と言い、病名は告げられなかったのですが、エビリファイやシクレスト、インヴェガといった薬を転々としました。私は薬剤師資格を持っていたので、病名告知がないまま出てきた薬たちの顔ぶれで「カルテに統合失調症と書いてあるな」ということには気付いていましたが、確認は取りませんでした。
 その後またちょっと紆余曲折あって、別の病院で「これは双極性障害」という診断を受けました。今は双極性障害の患者として治療を受けており、思春期以来感じ続けてていた症状や情緒不安定はほとんど完璧になくなって、いっそ健康な人より穏やかなのではないかというレベルで元気に日常生活を送っています。

 とはいえ、病院に通わなくていいわけではありません。私は1日2回、抗精神病薬と呼ばれる種類の薬を飲み続けています。飲むのをやめると体が動かなくなったり、生活が荒れたりします。
 真っ先に出てくる症状は鉛様鈍麻で、とにかく地面に張り付いて動けなくなる。お風呂にも入らなくなるし、食事も食べられない。更に薬を飲まずに放置していると「世間の人は私のことを憎んでいるに違いない」という謎の妄想が顔を出す。

 幸いにして、薬を飲んでさえいれば症状は消えます。
 この病気によって被っている不利益は、最近だと、ローンを組むことができない、民間の生命保険に入れない、年間10万円くらいの医療費がかかる、程度です。
 あとは、「いつ持病が突然悪化するかわからない」という不安はあります。あまりないことかもしれませんが、年齢と共に薬の効き方が変わる可能性や、他の精神疾患を発症する可能性は否定できません。だから周囲の人や同居人には「私の人格が変わったなどの違和感があったら『怒る・嘆く・耐える』ではなく、真っ先に精神科に連絡してほしい、診察券、お薬手帳、自立支援医療証はここにしまってある」「仮に必要があったら障害者手帳の申請はこう」「最悪施設にぶち込め」とあらかじめ伝えてあります。

 持病はありますが、同居人には「現状はしっかりしてるし、いざという時の対応もわかっているから信頼している」と言われます。
 健康な人だって事故に遭って突然障害者になる可能性がある世の中ですから、「逆に福祉が手厚すぎて羨ましいくらいだ」なんて言われる始末です。

 まあそう思って貰えるように生きてるんだけど、
 仮にも結婚した相手にそれを言われるのは、つらいな、と思いました。

 私は会社員をやっているけれど、会社では持病について「てんかん」と説明しています。転職活動している時にエージェントが「持病は隠してください」と強く要求してきて、後ろめたいながらも言う通りにしたからです。
 エージェントの人が「話してみたけど、あなたは普通の人で、精神に持病があるようには見えないから、余計な偏見を与えて転職が困難になるだけだ」と言うわけですよね。まあ採用されないとエージェントにもお金入りませんし、不都合は隠したがるわけです。
 私の会社は医療系なので、周囲は元薬剤師や元看護師だらけです。半端な嘘はバレます。でも双極性障害の治療に使われる薬は一部てんかんの薬と共通しているし、てんかんも自立支援の対象疾病で、無症状で定期通院が必要なもんですから、プロの思い込みを逆手に取れば、嘘を最小限に減らしながらも、綺麗に騙すことができます。

 よーするに、嘘をつく必要があり、「まとも」だったら「双極性障害だと言うと損」って言われるのが現実です。

 私の会社は医療系なので、抗精神病薬も取り扱っています。クソ上司がクソみたいな提案してきたり、ボケたり、非常識なことを押し付けようとすると、「○○(弊社取り扱い薬)でも飲んだら?」と陰口をたたかれるのが日常です。
 べつに医師が診断した精神病でもなんでもない、ただ性格が悪いだけの上司にそういうこと言うんだふ~~~~~ん、と思いながら苦笑いして濁す。その薬わたし飲んだことあるよ、とか口が裂けても言えない。正直「性格が悪い」とか「論理が破綻している」と「精神病である」は必ずしもイコールではないのに、世間の人は精神病というものをそういう目で見ている。
 性格が悪い奴はローンも組めるし保険にも加入できるし、毎日薬飲んで病院に通って経過観察されるためにお金を払う必要もないのに、何故か「あいつが頭がおかしい」という悪口を私達と共有している。

 だから、「まとも」な私は病名をひた隠しにして「てんかんです><」っていう嘘と共に生きる必要がある。

 仮に薬を飲まなかったとしても、私は、ちょっと生活が荒れ放題で卑屈で鬱っぽい人間になるだけです。発病から20年ほど経っていると思われるけれども、無治療放置状態の時でさえ、私は私の病気が原因で、他者を加害したり、暴力を振るった経験はほとんどありません。まあ親相手にキレ散らかしたり、自宅でものを壊したり、あと自殺未遂とかは数えきれないくらいやらかしてしまっているのだけれど、最低限、公衆の面前で暴れるタイプではなかったとおもう。もちろん「警察の前でやったらお縄になる」レベルの行動は一度も取ったことがないはずです。
 病状が悪化したら、人に迷惑がかかるのをわかってるから仕事もしないし家からも出ない。おとなしく療養している。まあ、しんどくて動けないっていうのが一番大きいんだけど。
 でも、「頭がおかしいやつ」というのは、イコール迷惑噴霧器であり、公衆の面前で暴れる奴のことであり、わけもなく他人にいちゃもんをつけたり、線路に突き落とそうとしたり、理不尽に他者を脅かす奴に対して使う悪口なんだよね。

 なあ、そいつらは本当に精神病か?
 「頭がおかしい」健常者じゃないと断言できるか?
 それは病気のせいなのか?
 病気の人間全てがそういう振る舞いをすると誰が言った?

「やるかもしれないんでしょ? 病気なんだから」ってことか?
 同じ口で「まともだから病気は隠した方がいいよ」って言うの?

 なんで精神病患者に対する社会の福祉が手厚いか、理由なんて「頭がおかしいから」なのだ。
 私は一生「頭がおかしい奴」というレッテルから逃れられない。善意の人間が、善意の笑顔で「普通だから病気のことは隠した方がいいよ」とアドバイスしてくる。そして結婚した男に「全然普通なのに福祉が手厚くていいな~」と言われる。普通、普通、普通、普通、……。
 薬で肝臓に負担をかけ、副作用でゲロ吐きながら普通でいられるように努力してんだよ……こっちは病気なんだ……お前ら、「頭がおかしいやつら」は他者に暴力を振るって気持ち良かったり楽しかったりする異常者だと思ってんのか? 中学生の私がヒステリーを起こして家の鏡を叩き割った時、母に怒鳴り散らして泣き喚いた時、苦しんでいなかったと思うのか? 自分が殺される、狙われてる、あいつもこいつも私に暴力を振るおうとしているという妄想に取りつかれている時、すれ違う人すべてに怯えてる時、「やられる前にやるしかないのか」とぶつぶつ呟きながら部屋の隅で震えているとき、人を殺してしまう前に私が死ぬべきかもしれないと決断して自殺を図る時、どんだけ追い詰められていて、つらくて死にそうだと思ってんだ。

 もちろん、どんなに辛くても公共の場所で暴れちゃいけないんだけどさ。いけないんだけど、「なんで精神に異常があると認定された人は暴れたとしても無罪になることがあるか」っていうのはちょっと想像力働かせてほしいんですよ。
 「福祉が手厚くていいな~」じゃないんだよ……。福祉を手厚くしなきゃみんなに迷惑、っていう社会的な常識が共有されてるからこうなってるんだ。

 「本当に頭がおかしい」人間の苦労も知らず、この世には「ただの性格が悪い奴」とか「単なる犯罪者気質の奴」が跋扈していて、しかも健常者はそのふたつの区別がついてないんだな、って思いました。
 考えてみりゃおかしいじゃん、「精神病患者であれば」「迷惑行為をする」っていう論理の対偶は「精神病患者でなければ」「迷惑行為をしない」なんだよ。そんなもんが真なら、刑法も民法も裁判所も弁護士も何もかも必要ないじゃないか。心神喪失状態で犯罪を犯してしまう人の存在は確かに否定しないが、犯罪者の大半は正気のまま犯罪を犯してるから、罰する法律があるんだよね。なんでそこの「頭のおかしさ」を同一視されなきゃいけないわけ?
 いやわかんない。そういう人もそういう人で、別の病名ついてるのかもしれないし。ケーキの切れない非行少年みたいな話なのかもしれんし。私はそのへんプロではないからハッキリ明言できない。
 でも、所詮は「頭がおかしい人」の話だからね。世間がそういうこと言うのも仕方ないのかもしれないね。
 今日も私は薬を飲みながら、まともな人ですって顔して会社に行く。

 かなしいね、っていう話でした。オチはない。

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