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【怖い話】寝言の話




「寝言に返事をしてはいけない」というのは聞いた事があるだろうか。




今ではすっかりと科学的に解明されてしまっているが、「寝ているときは魂が体から抜けている状態であり、その時発せられた言葉に返事をしてしまうと魂が帰って来られなくなってしまう」というのが先人たちの見解だった。

もちろん他の見解もあるにはある、がいずれにせよ「魂が抜け出てしまっている」という言にもあるように、この世では無いどこかに寝ている時は繋がっている、というのは変わっていない。


ちなみに寝言のメカニズムとしては、レム睡眠(眠りが浅い状態)時の記憶の整理の際に出るものであり、返事をしてはいけないというのも返事をしてしまうとレム睡眠からノンレム睡眠(眠りが深い状態)に移行できず、全体的に眠りが浅くなってしまう・・・というのがタネである。



なんのことはない、実に筋が通った理由である。





「僕ねぇ、独り言もマァ酷いんですけど。それより寝言が酷いんですよね。」


19歳の夏、頭から煙が出るまで勉強をしてなんとか入った大学の夏休み。サークルに入ったはいいものの半ば幽霊部員状態、しかも授業の課題も半ば終わらせてしまったことにより死ぬ程暇になってしまったため、自分は深夜までやっている喫茶店に入り浸るのが日課になってしまっていた。 


店も閉店に近い時間の頃、何回か入れ替わった隣席の男性とひとつ目があってしまい、何となく声を掛けてしまった。

柄にもない、

そんな言葉の通りぐらいには人見知りの自分が見も知らない、初対面の人間に話しかけてしまった。

その時はまぁそんな気分に知らないうちになってしまったのだと思っていた。

「いや・・もともと寝言が子供の時から激しいタチだったんですよね。親と一緒に寝てる時に叫び声に近い感じで寝言を言って起こしちゃったり」

「叫び声ですか?それはまた・・・」

「意味のある言葉じゃなくてただ単に『う“ぅーーーーん』みたいな感じの事を爆音で言うみたいな時もあれば急になんの前触れもなく『おかし!』みたいな意味のない単語をこれまた爆音で叫ぶ・・・みたいな事があったみたいなんですね」

「え、うなされているって事ではないんですか?」

「まったく。なんなら夢とかも見ないくらいグッスリ寝てるもんだと。」

「自分では思ってたと」

「そうですねぇ。ホラ、あと寝言がひどいと寝相もひどいみたいにたまに言うじゃないですか。寝相も綺麗なもんですよ、まったく乱れなしって感じで」

「なんか・・言うちゃ何ですけど迷惑ですよね」

「ホントに(笑)親からも『お前は普通に寝れんのか!』って怒られたりね」

「それはまぁ・・言うても無意識でしょうし、仕方ないっすね」

「まぁまぁ」


ここまでの話だけ聞いていると愉快な子供時代のようだった。


「え、でもそれ家ならまぁいわゆる・・・被害?は家族だけで済みますけど、友達の家に泊まるときとかは大丈夫だったんですか?ほら、学生の時なら修学旅行とかもあるじゃないですか」

「それね、僕も家族から言われてたんですよね。『お前は寝た後本当にエラい事になるから気をつけなさい』って。 無意識の状態でどうすりゃいいのよって話なんですよね(笑)」

「え、その・・対策とかって」

「まぁ親からそこそこ口酸っぱく言われてたんで、よっぽどだろうなとは思っていたので寝ませんでした。修学旅行は友達とトランプやったりいろいろ話したりしてやり過ごしてましたよ」

「あ、結構平和に解決したんですね」

「でも次の日とか結構しんどかったですね〜 なんせ一睡もしてないですし」

「ウワしんど。次の日とか相当しんどくないですか?」

「目ぇ霞んでしょうがなかったですね。先生の話とかも頭に入ってこないし」

「そりゃまぁね・・なんにせよ聞いてると結構酷いもんですね」


「そうなんですよねぇ、まぁそれこそ物心ついた時からの付き合い?ってとこもあるんでさほど気にはしてなかったんですよね」


「ただね、怖い・・っていうかちょっとおかしいなって思う事があって」




「霊感とかはないんだけどさ、生まれてこの方寝言がひどいなっていうのは自覚してたんだけど自分でそれを聞いたことがないなって思ってさ。まぁ寝言なんだから当たり前かもしれないんだけど。

今スマホでさ、録音アプリってあるよね?アレと同じ感じで寝言を記録できるアプリも出てるんだよね。」


聞くと、そのアプリというのは寝ている間に設定しておくと睡眠中に人の音声に反応して、その部分だけ記録してくれる、といった内容のものであるらしい。


「でね、ちょっと興味が出たんでね。アプリ入れてみたんだよね。寝る前にセットして、そのまま枕元にポイっとしとくだけだし」

「1回目は・・唸り声が聞こえたね。さっき言った『うう“――ん』って感じの声。自分の声自分で聞くって結構新鮮な感じだったし、ホラ、しかも唸り声だし。そこそこ楽しかったね。ちょっと怖かったけど。それが2回ぐらいに分けて録音されてたって感じかな」


「で、2回目もおんなじ様な感じ。『あ、ほんとに唸り声だし大きい声だな』って思ったしこれ家族は毎晩聞かされてたのか・・って思うとちょっとね(笑)」

「で、3回目は録音されてなかった。」

「そんで4回目、なんだけどさ、これが問題で」


「まーいつも通り。録音セットして枕元にポイっとするだけ。で、次の朝録音停止して聞くわけ」

「なんかさ、いつもなら声に反応して何回かに分けて録音してるんだけど。多くても大体3回くらいに分かれてるって感じで」




「それ見たらさ、10回くらいに分かれて録音してんの」



「10回全部めちゃくちゃ大きい唸り声なんだよね。いつもの比じゃないっていうか・・

いや、スマホの位置は枕元だし、マイクが音拾いやすいっていうのも計算に入れてもすんごい大きいの。

「ほぼ叫んでる、に近いかな。あれは」



「前までの唸り声だと『うう“――ん』って感じだったんだけど、もうね『うぅ”うぅ“―――――――ん!』って感じ。それが断続的に続いてた」

「で、最後の方の録音、10回目の唸り声の時かな」

「聞いてもらったほうが早いかな。まだあるから。聞く?」



ここまで聞いて、「ここでこっちに振るのか」というのが正直な感想だった。

でも、正直言ってここで「やめておきます」という選択肢はなかった。



今思えば、馬鹿な事をしたのだな、とも思う。



ここでは実際の録音データなどはないため文章の書き起こしとしておく。




イヤホンを付ける。再生ボタンを押すと唐突に始まった。

ゾクゾクするような、脳が警鐘を鳴らしているような、そんな感覚がした。








『うぅ“――ん!ああ“っ? うぅぅ”“ん”“・・

(約二秒間の沈黙)

うぅ“ぅ“ぁあぁあああああああ”“”“”“*******!!(解読不能)

(5秒間ほどの沈黙)

あぁぐうぅぅう““”“ぎぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

がぁぁぁぁっっぁぁっっっぁっぁぁれぇぇぇっっぇぇぇぇぇっぇぇぇ


(解読不能)

(解読不能)

(解読不能な何かを喋っている様な音声)


すくsくすくすkすsくsくうううばあああああああああああああああああああああああああああああああ““”“”あぁぁ“”“うぁ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”

いぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁなあぁぁぁぁぁみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなあみるな

みるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなみるなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ









『誰?』









そこで録音は止まっていた






「ね?」

「・・・?え?」

「やっぱりおかしいでしょ?」

「すみません、これ、なんなんですか?」

「わかんない。僕が一番わかんないよ」


「今思えばおかしなことばっかりだよ。子供の時から寝言が酷いって、そりゃ中にはそういう人もいるかもしれないんだけど家族に何を言っているかは教えてもらえなかった。

しかもそれが酷いからって友達の前では寝るなって・・そんなこと、そんなことあるか

「あの」


「何?」


この時点で僕は後悔していた。

「何か」としか言いようのないものを偶然覗き込んでしまった、聞き読んでしまった感覚が頭を駆け上がる。


「このあと、何かありましたか。その・・・」

「なんにも。いつも通りだよ。普段通り仕事行って、家帰って、寝るだけ。でも寝言を録音するのはもうやめた。

得体が知れなさすぎるんだよ。こんなの」


二の句が告げなかった






この後、店が閉店になりその人とはそれっきりになってしまった。

これより後の別日に同じ時間帯に店を訪れたりもしてみたがついに会うこともなかった。


人間が得ている情報の8割は「視覚」によってもたらされているという。

寝ている時は脳の情報整理の時間だというなら、

彼は何を見ていたんだろうか。










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