鹿児島キャンプリポート後編「服部年宏監督の言葉」
1月27日から2月4日まで行われた鹿児島キャンプ。リポート後編は、新たにチームを率いる服部年宏監督の言葉から、2024シーズンのFC今治が目指すサッカーに迫ります。キャンプでチームは積極的にチャレンジしながら、シーズン開幕に突き進んでいます。
選手とスタッフが寝食を共にしながらサッカーに打ち込むキャンプは、チームを作るためにとても重要な期間になります。新たにチームを率いる服部年宏監督のもと、チームにとって初めての鹿児島キャンプが行われました。キャンプでのチームビルディングについてのリポート後編は、服部監督の言葉に注目して2024シーズンのFC今治がどのようなサッカーを繰り広げていくのか展望します。
キャンプ地となったのは鹿児島県南さつま市で、トレーニング会場は「OSAKO YUYA Stadium」でした。昨シーズンのJ1得点王、そしてリーグ年間最優秀選手賞となった大迫勇也選手(ヴィッセル神戸)の実家がすぐ近くという縁から、このスタジアム名となったそうです。
天然芝のピッチはきれいに手入れがなされ、夜露が下りた午前練習では水しぶきが上がるほど。それだけボールも走ります。
「宿舎も歩いてすぐ。食事や休みをしっかり取れて、食事もおいしい。とてもいい環境です」と服部監督。連日の2部練習でしたが、鍛えて休息を取り、食べて体を作る良いサイクルを繰り返しながら、充実のキャンプとなりました。
9日間のキャンプ最初に行われた鹿児島ユナイテッドとのトレーニングマッチは2-5で敗れました。しかし、この時期は結果よりも出てきた課題をチーム力アップにつなげることが大切です。その意味でも収穫の多い試合でした。
鹿児島戦では奈良クラブから移籍加入したDF加藤徹也選手、そしてMF楠美圭史選手がゲームキャプテンを務めました。
「キャプテンをまだ決めていない状況で、このキャンプ中にいろいろな選手と面談をしたいと思います。加藤は奈良での経験もあるし、今日は任せてみました。それによって何が起こるかも見てみたかったので」
長いシーズンの間には良いときもあれば、苦しく、難しいときもあります。苦しいときにどれだけチームが一つになって戦えるか。一つにまとまるために、チームにはどのようなリーダーシップが必要なのか。鹿児島キャンプは2024シーズンのリーダーを選ぶための貴重な機会にもなりました(今シーズンのキャプテンは三門雄大選手、副キャプテンは福森直也選手、マルクスヴィニシウス選手、新井光選手に決まりました)。
鹿児島戦は冷たく、強烈な風が吹き続ける風下となった開始早々に先制されましたが、チームがそれで意気消沈したわけではありません。単純なロングキックは風で戻される状況の中、ボールを奪ってからの速攻やスペースへの効果的なパスを用いながら、次第に鹿児島を押し返していきます。とりわけ相手ゴール脇のいわゆる「ポケット」と呼ばれるエリアにたびたびボールを運んで、人数を掛けながら攻略が図られました。
「練習やミーティングでやってきたこと、いろいろなサッカーのコツのようなものを、少しずつ選手たちが分かってきたのだと思います。チャンスを作るところまでは何度か行きましたから、さらに徹底して決め切ることですね。選手たちの『こうしよう』という共通の意識が出てきて、良いチャレンジになりました」
服部監督はチームの伸びしろ、質を高めていくべき部分がどこなのかに目を凝らします。
「まだまだ足りていないところもありますが、『こういうこともできるのか』という発見もたくさんあって、両方が見えたトレーニングマッチでした。特に大学や高校から入ってきた選手に関してはどんなプレーをするかまだ分からない中、良い意味で驚かされたところもありました。選手たちを知る良い機会になりましたね」
大敗した鹿児島戦でしたが、チームビルディングにおいてはポジティブなものになりました。そして印象的だったのが、試合中にベンチから服部監督が何度も大きな声で「顔を出してボールを受けよう!」「プレーに関わろう!」「テンポよくプレーしよう!」と選手たちを鼓舞していた光景です。
「ボールを取られることを怖がったり、『これくらいでやれば、パスはつながるだろう』という選手がまだいるので。そうではなくて全員がプレーに関わる。そのためのメニューを毎日のトレーニングにも組み込んでいます。理解が深まっていくと、また良い変化がチームに生まれるはずです」
「顔を出す」「関わる」「テンポ」は、服部監督が目指すサッカーの根幹を成すといえそうです。パスを受けるために味方に近寄れば、距離感が整い、テンポよくボールが動き始めます。寄るだけではなく、その逆で離れていく動き、スペースに抜け出すランニングも効果的になるでしょう。タイミングを合わせて飛び出していけばテンポアップにつながり、ボールを保持する効果がさらに増す。そしてボールを失っても、味方同士が近い距離にいれば、すぐ奪い返しに行くことができます。
どういうポジションを取って攻め、守るのか。鹿児島とのトレーニングマッチを経て南さつま市に戻ると、戦術的なトレーニングのギアがグッと上がりました。
「トレーニングマッチをすることで、いろいろエラーが出たり、自分たちに足りないところがはっきりします。そこをクリアしながら、『予定通り』という表現は少し違うかもしれませんが、チームはしっかりトレーニングして課題をクリアしながら前に進んでいます。
戦術的なことも『勝つために』というのが大前提で、あくまでも手段です。勝利という目的のための、手段をいくつか用意していきます。
選手たちにはミスを恐れずどんどんチャレンジしてほしいですね。キャンプはミスをしてもいい時期だし、うまく行けばそれが成功体験となってどんどん成長できる。彼らにどれだけアグレッシブにチャレンジさせられるかが私の役割です」
ボールを動かしていくその先には相手ゴールがあります。いかにチャンスを作り、決められるか。服部監督は、FC今治にとってフィニッシュの質を上げていくことの大切さを強調します。
「最後、ゴールネットを揺らせるかどうかは、以前からチームの課題なのだと思います。きれいにシュートを決めるだけではなく、泥臭くゴールにねじ込む。フィニッシュの質とパワーを上げていきたいですね。
そのあたりは鹿児島とのトレーニングマッチでも得点という結果にこそつながっていないけれど、狙いを持ってプレーする場面がいくつかありました。選手たちもこちらが求めることを理解して、しっかり取り組んでくれています」
鹿児島キャンプを通してチームビルディングは間違いなく加速しました。2月25日の2024シーズン開幕戦、今治里山スタジアムで開催されるガイナーレ鳥取戦に向けて、チームは着実に前進しています。ただし、服部監督が見据えるのは、さらにその先です。
「成長はいくらでもすることができます。そのためのステップの踏み方はできる限りいい形で、“最短で”ということにこだわりすぎず、しっかりと積み上げながらできることを増やしていきたいです。
完成は、おそらくないんですよ。開幕がピークだとあとは落ちるだけですし。そこからさらに良くしていかなきゃならないし、シーズンを通して成長し続けることが重要です」
輪郭がはっきり浮かび上がってきた2024年のチームは、どのようなアグレッシブな戦いを見せてくれるでしょうか。楽しみと期待が膨らみます。
鹿児島キャンプを取材中に、さまざまな選手の口から聞かれた言葉が、「攻撃も守備も相手が嫌がること、やりづらいと感じることをやる」でした。これは服部監督もたびたび言葉にして選手に求めるところで、チームの合言葉になりつつあると感じました。
サッカーを大いに楽しみ、勝負にはとことん厳しく。FC今治のJ3優勝&J2昇格のチャレンジが、いよいよ始まります。
取材・構成/大中祐二