梶浦由紀大先生の楽曲のコード進行を分析してみた話

1. 導入

今回は曲分析についての話。長文になりそう。

私が大好きな作曲家「梶浦由紀」の楽曲を素人ながらに分析してみた。
大好きというか最も尊敬するといってもいいかもしれない。

アニメ「fate」「ソードアートオンライン」等の人気作品で「梶浦由紀」の楽曲は結構みんな聞いたことあると思うが、最近だと「鬼滅の刃」の"炎"が有名ではないだろうか。

いずれの曲もすごく特徴的で、聞いててハラハラドキドキ興奮するような曲が多い。
この方のすごいところが、「梶浦由紀」作であることを全く知らずに曲を聴いても、開始数秒で「あ、この曲梶浦由紀が作ってるな」というのがわかるくらいに特徴的で聞く人を惹きつける魅力があるところだ。

作曲を始めて「この方のような曲を作りたい」とずっと思っていて、今まで曲をがむしゃらに作ってきたがどうしても「梶浦由紀味」を出すことができない。
まあ、「梶浦由紀」ではないので「梶浦由紀味」を出す必要はないんだけども。

ということで、がむしゃらに作っても埒が明かないので、一度しっかり分析してみようと思った。

!!!注意!!!
素人分析なので誤ってる可能性があります。
あくまで参考程度にとどめておいてください。

2. 分析楽曲

分析してみた楽曲は下記の3曲。

  • to the beginning / kalafina (「Fate/Zero」 OPテーマ)

  • magia / kalafina (「魔法少女★まどかマギカ」 EDテーマ)

  • 炎 / LiSA (劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」 主題歌)

3. 分析手法

ネットで"楽曲 コード"で検索すると、だいたい上位に「U-FRET」さんがヒットする。今回はそこに記載されているコードが正しいと仮定し、分析を進める。また、「梶浦由紀」は転調をよく使用しているが分析しやすいという理由からメインとなるキーは全曲Cメジャーに置き換えて分析する。
今回の分析は触り程度に収めたいのでAメロのみ分析対象とする。今後さらに深く分析する際はイントロ、Bメロ、サビを含めた形で実施する。

4. to the beginning

コード進行は次に記載の通り。
Am→G6→F→G→C (あと一度だけ奇跡は起こるだろう)
Am→G6→F→G→Asus4→A (優しい声で描く歪んだ未来)

これを度数表記とカデンツになおすと、
Ⅵm(T)→Ⅴ6(D)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)→Ⅰ(T)
Ⅵm(T)→Ⅴ6(D)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)→Ⅵsus4(T)→Ⅵ(T)
となるわけですが、
ここで早速「ん!?」ってなるわけです。

「Ⅴ6(D)って何者だ?」と。

カデンツを知らない方のために超超超簡潔に説明すると、(D)の後は(T)が必ず来なければいけないんですが、この楽曲ではⅤ6(D)の後にⅣ(SD)が来てるんですね。
これはいわゆるルール違反になるわけで、このルールに違反すると心地よさがなくなったり違和感を感じます。

いやいや、「梶浦由紀」大先生ともあろうお方がそんな初歩的なミスをするはずがないし、聞いてて違和感もない、むしろ心地よいのはなぜだと思い、G6というコードを詳しく調べてみた。

G6は構成音としてはソ・シ・レ・ミとなる。これを転回させて、ミ・ソ・シ・レという風に考えるとどうなるだろうか。これはEm7というコードになり、Cメジャーのダイアトニック・スケール上ではⅢ7(T)になる。

つまり、先ほどの度数表記はこのようになる。
Ⅵm(T)→Ⅲ7(T)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)→Ⅰ(T)
Ⅵm(T)→Ⅲ7(T)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)→Ⅵsus4(T)→Ⅵ(T)

なるほど!これでルール違反は解決でき、違和感のなさや心地よさの証明ができた。
この状態でさらに詳しく見ていく。

頭のⅥm(T)→Ⅲ7(T)はトニックからのトニックなので1つのトニックとして見てみる。仮にⅥm(T)に集約したと仮定すると、
Ⅵm(T)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)→Ⅰ(T)
Ⅵm(T)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)→Ⅵsus4(T)→Ⅵ(T)
となり、皆さんおなじみの小室(6451)進行になりました。
つまり、この楽曲のAメロは小室進行にいろいろ音を付け加えたものであることがわかりました。

5. magia

同じように分析をやってみる。
コード進行は次に記載の通り。
Am→F→G (いつか君が瞳に灯す愛の光が 時を超えて)
Am→F→G (滅び急ぐ世界の夢を確かに一つ 壊すだろう)
F→G→Am (ためらいを飲み干して君が望むものは何?)
F→G→F→G→E (こんな欲深い憧れの行方に儚い明日はあるの)

ちょっと長いですね。(汗)
しかし、これも丁寧に分析していきましょう。

まず冒頭のAm→F→G、Am→F→Gですが度数表記とカデンツになおすと、
Ⅵm(T)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)
これは先ほども登場した小室進行のⅠ(T)を省略した形ですね。

続いて、F→G→Amを度数表記とカデンツになおすと
Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)→Ⅵm(T)
となり、これも有名な456進行になります。
カデンツとしての役割も優秀かつ4→5→6と1音ずつ音が上がっていくので
曲の盛り上がりも増します。

そして最後のF→G→F→G→Eですがここでまた「ん!?」ってなるわけです。

CメジャースケールでEを使用するコードはEm[Ⅲm(T)]であるため、Eはノンダイアトニックコードになります。
これまたやってくれたな「梶浦由紀」と。

でもいったん冷静にEというコードを詳しくて見てみます。
Eのコードはミ・ソ・シで構成されています。
Eの前のコードのGはソ・シ・レで構成されています。
つまりG→Eのコードはソ・シ・レからソ・シ・ミに変わっており、構成音の一つが1つ上がっていることがわかります。

「んん!?これはさっき似たようなのをどこかで見たぞ!」と鋭い方はここでお気づきになったと思います。
さっきあえて触れませんでしたが、「to the beginning」の最後Ⅵsus4(T)→Ⅵ(T)
がまさにそれで、Ⅳsus4(3度の音を4度に上げる)からⅣに変わってます。
つまり、これも構成音が1つだけ変わっております。
ここからわかることは、「転調前は必ず(サンプル数は2つですが)前の構成音を1つだけいじる」というのが傾向としてありそうです。

6. 炎

では最後の「炎」も同様にやっていきましょう。
コード進行は次に記載の通り。
Am→F→G→C (さよならありがとう声の限り)
Am→F→G→C (悲しみよりもっと大事なこと)
Am→F→G→C (去りゆく背中に伝えたくて)
Am→F→G→Am (ぬくもりと痛みに間に合うように)

もうお分かりですね。小室進行です。
「to the beginning」と「magia」にも小室進行が登場していたことから小室進行を好んで使う傾向にあるのかもしれません。

「炎」に関してはAメロで特に言うことなかったのでBメロまで見ていきます。
Bメロのコード進行は次に記載の通り。
G→F→Em (このまま続くと思っていた)
Am→Bm7-5→E→Am (僕らの明日を描いていた)
Fm→Gm→G#→Adim→A#→G/B (呼び合っていた光がまだ胸の奥に熱いのに)

まず、G→F→Emから。
度数表記になおすと、
Ⅴ→Ⅳ→Ⅲ
となっており、どんどん音が下がっていっていることがわかります。
音が下がっていくと曲の雰囲気も暗くなっていきます。
この「炎」という楽曲は「鬼滅の刃」の業を背負っている様子を表現したものであり、歌詞の「このまま続くと思っていた」はお先真っ暗でどうしようという思いが込められており、このコード進行はそれを体現したものであることがわかります。

続いて、Am→Bm7-5→E→Amを度数表記とカデンツになおすと
Ⅵm(T)→Ⅶm-5(D)→Ⅲ(T)→Ⅵm(T)
となりますが、また、「ちょっとまてよ」と。
Cメジャーのダイアトニック・スケールにはEなんてものはなくEmだぞと。

確かにその通りなんですが、これはノンダイアトニック・スケールと呼ばれるもので、ダイアトニック・スケールのルールを大きく逸脱しなければ使用することができる音なんです。
EもEmもルート音はEで同じなのでルールを大きく逸脱していないという考えですね。

ではなぜEmではなくてEを使ったのか。ここは歌詞との関連性を見たほうが良いかもしれません。
歌詞はこの後「呼び合っていた光がまだ胸の奥に熱いのに…」と続いていきます。
つまり、悲しみの中でも希望を見出していくわけですね。そのかすかな光を表現するためにEm(暗い表現)ではなくE(明るい表現)を使用していると思われます。

んで、Fm→Gm→G#→Adim→A#→G/Bとつながっていくわけですが、
度数表記とカデンツになおすと…
なおせない!なんじゃこりゃ!となるわけです。
それもそのはず、実はここでCメジャーからD#メジャーに転調しているからです。
だからCメジャーのダイアトニック・スケールに当てはまらないんですね。
なのでD#メジャーのダイアトニック・スケールに当てはめて考えます。
AdimとG/Bはちょっと特殊なのでいったん外して考えると
Ⅱm(SD)→Ⅲm(T)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)
となり、数字がどんどん上がっていることがわかります。
つまり、曲として明るくなっていっているということです。先ほどのEmではなくEを使った裏付けにもなりましたね。

じゃあ、AdimとG/Bはなんなんだと。
これは各和音のルートを考える必要がありますね。
各和音のルートは
Fm(ファ)→Gm(ソ)→G#(ソ#)→Adim(ラ)→A#(ラ#)→G/B(シ)
となっており、これからわかるように半音ずつ(ファからソは全音ですが)上がっていってることがわかります。これによって、先ほどの
Ⅱm(SD)→Ⅲm(T)→Ⅳ(SD)→Ⅴ(D)
をもっとゆっくり、じわじわじわじわと気持ちを高ぶらせる工夫がされているんですね。

大元の話に戻して、じゃあこの曲のどのあたりが「梶浦由紀味」があるのかということですが…


正直わからんかった!!!!


分析したけど、割と一般的な要素ばかりでどこに「梶浦由紀」要素があるのかわからん!
もしかしたら、「鬼滅の刃」は多くの人に親しまれているから、曲も多くの人が好むように配慮されてこのような曲になったのかもしれないし、コード進行ではなくて「メロディ」に本質があるのかもしれない。

まあ、私の技術が未熟っていうのが大きいと思うけど。
まだまだ分析しがいがありますね。

7. まとめ

ということでまとめ。
「梶浦由紀味」を出すためにはどうしたらよいか分析した結果、

  • 小室進行大好き

  • 転調前は直前の構成音の1つをいじる

  • 「梶浦由紀」は神

という3点がわかった。これだけで「梶浦由紀味」を出すことができないことは重々承知なので、これからも詳しく分析していきたい。

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