副業労働者の長時間労働と安全配慮義務 大阪高判R4.10.14

副業を行う労働者が合計で長時間労働となった事例で、使用者の安全配慮義務違反を認めた例として、大器キャリアキャスティングほか1社事件(大阪高判R4.10.14)をご紹介します。

事案の概要

Xは、24時間営業の給油所の運営業務を行うYと労働契約を締結し、給油所作業員として深夜早朝時間帯に就労していたが、同業務を営むAとも労働契約を締結し、深夜早朝以外の時間帯にも就労するようになった。なお、Aは、Yの上記業務の再委託元であり、Xの両業務は同一の店舗で行われていた。

その結果、XのY・Aに係る合計の労働時間は、Yを欠勤するようになった直前3か月で月270~300時間にのぼり、また157日間にわたって休日がない状況となった。

Yは、Xに対し雇止めを行ったところ、Xは、雇止めの無効を求めるとともに、YがXの長時間労働を軽減等すべき注意義務を怠ったことは安全配慮義務に違反する等と主張した。

本稿で扱う争点

Xの長時間労働に係る安全配慮義務違反の成否

判旨

裁判所は、次のように述べ、Xの長時間労働に係るYの安全配慮義務違反を認めた。

控訴人が同一の店舗(d店)で給油所作業員として就労していたことに照らせば、被控訴人Y1社は、a社に問合せをするなどして、a社との労働契約に基づく控訴人の労働日数及び労働時間について把握できる状況にあったのであるから、控訴人のa社における兼業は、従業員が勤務時間外の私的な時間を利用して雇用主と無関係の別企業で就労した場合(雇用主が兼業の状況を把握することは必ずしも容易ではない場合)とは異なるということができる。
Y1社は、控訴人との間の労働契約上の信義則に基づき、使用者として、労働者が心身の健康を害さないよう配慮する義務を負い、労働時間、休日等について適正な労働条件を確保するなどの措置を取るべき義務(安全配慮義務)を負うと解されるところ、上記のような事実関係によれば、控訴人は被控訴人ら両名との間の労働契約に基づいて、157日という長期間にわたって休日がない状態で、しかも深夜早朝の時間帯に単独での勤務をするという心理的負荷のある勤務を含む長時間勤務・・・が継続しており、被控訴人Y1社は、自身との労働契約に基づく控訴人の労働時間は把握しており、業務を委託していた被控訴人Y2社との労働契約に基づく就労状況も比較的容易に把握することができたのであるから、控訴人の業務を軽減する措置を取るべき義務を負っていたというべきである。
しかるに、被控訴人Y1社は、平成26年3月末頃には控訴人がa社との兼業をしている事実を把握したにもかかわらず、兼業の解消を求めることはあったものの、控訴人のa社における就労状況を具体的に把握することなく、同年7月2日に至るまで上記のような長時間の連続勤務をする状態を解消しなかったのであるから、控訴人に対する安全配慮義務違反があったと認められる。

また、Xの長時間労働についてX自身の積極的な選択の結果生じたとの点については、次のように述べ、過失相殺の中で考慮されるにとどまると判断した。

なお、・・・被控訴人Y1社及びa社との労働契約に基づく控訴人の連続かつ長時間労働の発生は、控訴人の積極的な選択の結果生じたものであることは否定できず、控訴人は、連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。
しかしながら、使用者である被控訴人Y1社には、労働契約上の一般的な指揮命令権があるのであり、控訴人が法の趣旨に反した長時間かつ連続の就労をしていることを認識した場合には、直ちにそのような状態を除去すべく、Cが控訴人の希望する被控訴人Y1社における勤務シフトを承認しない等の措置をとることもできたのであるから、上記のような控訴人による積極的な行動があったことは、安全配慮義務違反の有無の判断を直接左右するとはいえず、過失相殺の有無・程度において考慮されるにとどまるというべきである。

コメント

本判決は、労働者が副業の結果として長時間労働に陥った事態について、使用者に安全配慮義務違反を認めた先例的判断です。

本件では、YはXに対して兼業の解消を求めていたようですが、本判決はそれにとどまらず、兼業先での就労状況を具体的に把握し、(勤務シフトの不承認など)長時間の連続業務を解消する措置を講じるべきであったとしています。

もっとも、本件の具体的な安全配慮義務(Xの業務を軽減する措置を取るべき義務)を導く前提として、兼業も同一の店舗であり就労状況が比較的容易に把握し得る状況であったことが重視されているように思われます。兼業先が全く無関係な事業者・就労先である場合の安全配慮義務はどのように構成されるのかは不透明です。

いずれにせよ、厚労省ガイドラインを参考に、兼業先の就労状況を把握した上で長時間労働の是正措置を講じる必要性に留意すべきでしょう。

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