契約社員への寒冷地手当の不支給 東京地判R5.7.20


「寒冷地手当」について、正社員には支給する一方、契約社員には支給しないとの措置について、不合理とはいえないと判断した例として、日本郵便(寒冷地手当)事件(東京地判R5.7.20)をご紹介します。

事案の概要

Xは、Y社と有期労働契約を締結している時給制契約社員である。
Y社においては、無期労働契約である正社員に対しては、勤務局所の地域区分によって寒冷地手当が支給されていたが、時給制契約社員に対しては支給されていなかった。
Xは、寒冷地手当が自らに支給されていないのは労働契約法20条(改正前)に違反すると主張し、Y社に対し、寒冷地手当相当額などの支払を請求した。

本稿で扱う争点

寒冷地手当の不支給措置が、旧労契法20条にいう不合理性を有するか

判旨

裁判所は、まず長澤運輸事件(最判H30.6.1)を引用し、旧労契法20条の不合理性の判断基準を示しました。

有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。また、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになる・・・。

そして、本件の寒冷地手当の趣旨について、①正社員の基本給には勤務地域による差異が設けられておらず、②寒冷地手当が所定の寒冷地域に在勤することを条件に支給され、その額が地域の寒冷及び積雪の程度等により定められることから、寒冷地域に在勤する正社員に対し、寒冷地域であることに起因して暖房用燃料費等に係る生計費をその増加が見込まれる程度に応じて補助することにより、勤務地域を異にすることによって増加する生計費の負担を緩和し、正社員間の公平を図る趣旨であると解釈しました。

一方で、時給制契約社員については、基本給が地域別最低賃金額に所定の加算をしたものを下限として勤務地ごとに異なる水準で決定されていること、この地域別最低賃金額が「地域における労働者の生計費」が考慮要素の一つとされ、勤務地域ごとに必要とされる生計費も考慮されているといえることから、勤務地域を異にする者の間に、基本賃金に勤務地域による差異がないことに起因する不公平が生じているとはいえず、寒冷地手当の支給により公平を図る趣旨が妥当するとはいえない、としました。

以上より、正社員と時給制契約社員との間に職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲につき相応の共通点があることを考慮しても、正社員に対して寒冷地手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理と評価できるものではない、と結論付けました。

コメント

本判決は、現パートタイム・有期雇用労働法8条における均衡待遇に違反しないものと判断した新たな一例です。
まず、寒冷地手当が正社員に支給されていた趣旨を確認した上で、その趣旨が契約社員にも妥当するか否かを検討し、その趣旨が妥当しないものとして均衡待遇原則に反しないと判断しました。
なお、寒冷地手当の支給趣旨について「正社員間の公平を図る」との点を捉えた上で、契約社員間に勤務地域上の不公平がないことをもって、上記支給趣旨が契約社員に妥当しないとした点は、やや特徴的に思われます(水町雄一郎・ジュリ1593号108頁は、労契法旧20条において考慮されるべき事情は、正社員間の公平・不公平や契約社員間の公平・不公平ではなく、正社員と契約社員間の労働条件の不合理性の有無を基礎づける事情である旨批判しています)。
仮に寒冷地手当の趣旨、すなわち寒冷地であることに起因した生計費増加の負担緩和との趣旨が契約社員にも及ぶのであれば、契約社員の基本給の基礎となる地域別最低賃金においてその地域における生計費が考慮されていることも踏まえて均衡的な賃金給付がなされているか、という観点での検討を要します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?