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第三夫人と髪飾り

WOWOW録画で鑑賞。ネタバレ注意

北ベトナムの富豪のもとへ嫁いできた14歳の第三夫人を主人公に、彼女を取り巻く愛憎や悲哀、希望を、美しく官能的につづったドラマ。ベトナムの新鋭アッシュ・メイフェア監督が自身の曾祖母の実話をもとに描き、世界各地の映画祭で数々の賞を受賞した。19世紀の北ベトナム。14歳の少女メイは、絹の里を治める大地主の3番目の妻として嫁いでくる。一族が暮らす大邸宅には、唯一の息子を産んだ穏やかな第一夫人と、3人の娘を持つ魅惑的な第二夫人がいた。出演は「青いパパイヤの香り」のトラン・ヌー・イェン・ケー、「クジラの島の忘れもの」のグエン・ニュー・クイン。映画.comより

2018年製作/95分/R15+/ベトナム
原題:The Third Wife

19世紀のベトナムの郷家には一夫多妻が当たり前にあり、嫁いできた3番目の妻メイはまだ14歳。結婚の宴の翌日、初夜の証ですよ!とばかりに血のついたシーツが庭にはりだされ、それを確認する第一夫人・ハ。うぶなメイに「演技すればそのうち本物になる」「気持ちよさはみつければいい」とあだっぽく指南する第二夫人・スアン。一定の距離で夫人とこどもたちをみまもる女中のラオおばさん。30代後半にみえる旦那様(イケメンだが免罪符にはならない)の存在は最初だけで、本作は女性を中心とした物語です。第一夫人の息子もこの世界では特権を握れるはずが、愛した女性とは結ばれず、また愛すべき妻(こちらも13、14歳という幼子)を拒否し死においやってしまう。家父長制は女性だけでなく男性からも自由を奪っている、といえる点です。

本来一夫多妻制度は「すべての妻を平等に扱わなければいけない」のですが、この時代のベトナムでどれだけ実現されていたかはわかりません。

第二夫人・スアンの子どもは娘ばかり。次女リエンはまだ5、6歳で新参者のメイを姉のように慕うし、2人で散歩したり髪をすいてあげたり、とかくほほえましい。リエンは「将来男になってたくさん奥さんをもらうの」なんていうくらい、大人びた一面もみせます。女性は若くして嫁に行かねばならず、なおかつ男児を産まなければ立場も下になるという世界。使用人ですら「スアン様は男児を産んでないから本当の夫人ではないのです」と嫁いできたばかりのメイに言うのですよ。鬼か。幼いころからこんな差別に身を置いて入ればリエンの発言も納得。


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メイ、にぱっと笑った時の雰囲気が超若いころのUAっぽさがあるんですよね…好き!!!


研ぎ澄まされた画像に唸らせるので、東南アジア独特の空気が好きな人にはオススメ。「青いパパイヤの香り」や「夏至」などを手掛けたトラン・アン・ユン(Tran Anh Hung)氏が美術監修を務め、「ブラック・クランズマン」などのスパイク・リー(Spike Lee)氏が資金援助をしています。

川辺で水浴びをする女性陣を自然光の中で天女のように映す手腕はお見事。監督が自然光にこだわったのか、夜もろうそくや月の光をメインに撮影されているもよう。カーテンを揺らす風、アオザイ、葉の上をはいずりまわる蚕、蓮の浮かぶ水面、闇を飛ぶてのひらの蝶、鳥と緑、祝いの食卓、死の衣装。どこをとっても絵画のような、たおやかな美しさの中に生と死をたっぷり詰め込んでいるのが、高く評価された理由なのではと思っています。葬儀から最後のエンディングにいたる10分間はひとコマひとコマから映画の本質が匂いたってくるようで、目を離せなかったです。




ベトナムでは未成年のセクシャリティが描かれる点から上映中止になってしまった本作。監督はインタビューで述べています。

映画は女の子の成長物語であるわけですが、女性の成長の中で感情的な旅路があり、身体が成長していく、変わっていく、そしてまた欲望も目覚めていく、ということは女性であることの一部であり、そういう意味ですごくフェミニスト的な映画ですし、女性であることを祝福しているというふうに思うんですね。官能や欲望について3人の妻たちが話をしたりするというのも、私にとっては真実であり美しいことだと思っているので、それはそのまま心配せずに出しました。


たしかに14歳のメイが妊婦となり子を産み、ほかの夫人とキスをかわす場面はセンシュアルでショッキングだったかも。

家父長制に縛られたトルコが舞台の映画「裸足の季節」にどこか通ずるところがありました。


特に好きだった場面をふたつ。
①弱ったロバに毒草を与える第一夫人、ハ様。「息子の結婚式に死なれたら困るの」といいつつ、看取る目は優しく。

②息子に拒否され家にも戻れず首をくくった、メイとそう歳の変わらない「花嫁」と、死装束を整える第一夫人・ハの横顔が一枚の絵のよう。

どちらもハ夫人です。私の趣味が駄々洩れだわ。


アッシュ・メイフェア監督の次回作を楽しみにしています。

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