NASウイスキーの魅力と誤解について
偏見や思い込みを排除し、
自ら一歩歩み寄ることで得られる得は計り知れない。
はじめに
fcamです。
この記事を読んでくださり、ありがとうございます。
さて、ウイスキーに関する他の記事をすでに読まれている方の中には、実際にバーに足を運ばれている方もいらっしゃるかと思います。
バーマン、マスターに自分の好みについて色々聴き始めているならウイスキー愛好家に一歩ずつ近づけているはずです。
ウイスキーについてもっと知識を蓄えたいと思われているなら、今回の記事はお役に立てるはずです。
バーや雑誌、カタログでよく年代が書かれていないウイスキーボトルを見たことはありますでしょうか。
近年のウイスキー業界で次に流行ると噂の「NASウイスキー」と呼ばれるものです。
NASウイスキーに対する印象は人それぞれですが、個人的にNASウイスキーに対するマイナスなイメージを持つ人があまりにも多く、よく知りもせずに雑だの味わいがないだの言う人(特にバーの知ったか客や個人ブログ)を散見し、暗い気分になることも幾度かありました。
今回はそもそもNASウイスキーとは何かを説明し
・なぜNASが普及したのか
・NASに対する勘違い
・NASの魅力
について順を追って書きます。
NASウイスキーを知らない人でもなるべくわかりやすい表現で書き記していくつもりですので、最後まで読んでいただけると幸いです。
この記事を読み
・NASウイスキーをそもそも知らない。
・NASウイスキー自体は知っているが違いがよくわからない。
・NASウイスキーは安酒・風味がない等あまり良いイメージがない。
こんな状態から
・NASウイスキーについて理解した。
・NASウイスキーの良さを知った。
・NASウイスキーへの誤解が溶けた。
NASの魅力を知り、NASに対する誤解がなくなった人が1人でも増えればこの記事の存在意義が生まれます。
もちろん、熟成年数が高いウイスキーも魅力的です。
僕も仕事の節目や祝い事によく熟成年数が高いウイスキーを好んで飲みます。
ただ前提として、NASの方がいい・年数表記があるものの方がいいと比べられるものではないという前提でこの記事を読んでいただきたいです。
それでは本題に入ります。
※この記事は「ウイスキー学初心者」向けの記事です。
※10分程度を目安に時間を頂戴します。
1.そもそもNASとは
NAS ( non-age-statement ) とは、熟成年数を規定・表記しないウイスキー銘柄のことです。
日本では
・ノンエイジ
・ノン・ヴィンテージ
・ナス
と呼ばれることもあります。
前提として、ボトリングしてからの瓶熟成は年数に含まれないため、樽熟成年数の目安として表記が行われます。
ラベルの年数表記(樽熟成年数)は、「その瓶にボトリングされているウイスキーのうち、最も若い原酒の年数を表示させること。」と各国のウイスキーに関する法律で定められております。
例え一滴しか含んでいなくとも、その一滴が最も若い原酒であればその年数を表記しなければなりません。
NASは、各国で製造されているウイスキーの一種です。
特に積極性にNAS生産に富む印象であるのが
・アイルランド共和国および北アイルランドで生産される穀物を原料とするウイスキーの「アイリッシュウイスキー」
・アメリカ合衆国で生産されるウイスキーの「アメリカンウイスキー」
そもそも多くの銘柄がNASしか製造していない傾向が見て取れます。
日本で生産されるジャパニーズウイスキーも近年NAS製造に転換する動きを見せています。
NAS=熟成年数を規定・表記しないウイスキー銘柄。
定義を理解したあとは、NASの歴史・特徴を確認していきましょう。
2.なぜNASが普及したのか
NAS普及の大きな理由の一つとして「原酒不足」が挙げられます。
1980年〜90年代当時はウイスキー不況時代と呼ばれ、ウイスキー生産が滞る時代でした。
実の所ウイスキー消費が回復したのは2000年代からであり、いざウイスキーを販売しようともウイスキー不況時代の生産量低下が影響し、年数表記がある瓶を流通させるだけの原酒が整わなかった経緯です。
ウイスキーボトルに表記されている年数表記は10年からが基本ですが、この時代に樽熟成を開始しても数ある原酒をボトリングする際に使用される原酒は制限され、若い原酒を使うことによる抵抗を見せました。
結果、既存の概念だけでは満足のいくウイスキーを流通させることが叶わなかったのです。
元々、バーボンやブレンデッドウイスキーは年数表記のないNASも多く生産されていました。
しかし、スコッチやジャパニーズのシングルモルトは年数表示が主流とされており、需要量と供給量が釣り合わないという課題を抱えていたのです。
そこで、樽熟成が短く若いウイスキー原酒を使用したNASウイスキーを流通させることで、ウイスキー需要のV字回復を狙った生産事業を積極的に行うことで原酒不足の問題を解消したというわけです。
NASが普及した原因の1つは「原酒不足」
次に、この背景から「NASに対する勘違い」が発生してしまいます。
3.NASに対する勘違い
原酒不足によるNAS普及の背景を知り、
・熟成しきっていない原酒を使うということは、NASは味わいが浅いウイスキーなのではないか。
・需要量に合わせた供給をするために作られた安物のウイスキーなのではないか。
年代物のウイスキーと比較するとNASは安価なものが多いが、やはりNASは年代物には勝てない貧困層が飲む物なのではないか。
こんな勘違いをする者もいるのではないでしょうか。
現に、NASに対し良い印象を持っていない人が多く存在する理由に、この背景のみの理解から軽視してしまうケースが挙げられます。
バーで「NASはなっていない」「年代物のウイスキーには到底勝てない」と蘊蓄を垂らすお客もたまに見かけます。
ですが僕は心の中でこう叫びます。
「NASウイスキーは、若く荒いウイスキーのみをブレンドした安物のウイスキーではない!」と。
確かに価格が低いものも多いですし、NASによって供給が安定した背景があることも事実です。
しかし、値段の安さ・製造のしやすさだけで収まるほどNASの魅力は浅くないのです。
「マッサン」で有名な竹鶴政孝の著書の一文でも「ウイスキーの銘柄に年数表記は望ましくない」という表記があることも有名な話です。
ウイスキーはボトリングの工程の際に、さまざまな原酒をブレンドして味を調整していくわけですが、年数表記を配慮したボトリングを行うとなると「〇〇年以上樽熟成させた原酒しか使えない」ということになります。
しかし、NASにはその制限がありません。
復習ですが
・ラベルの年数表記(樽熟成年数)は、「その瓶にボトリングされているウイスキーのうち、最も若い原酒の年数を表示させること。」と各国のウイスキーに関する法律で定められている。
・例え一滴しか含んでいなくとも、その一滴が最も若い原酒であればその年数を表記しなければならない。
ブレンダーはただ「最高のウイスキーを作るために何をブレンドすればいいか」だけに熟考することができます。
そのため、30年樽熟成させた上質な原酒を9割使おうとも、相性によって5年程度の樽熟成させたものを少し足したものですらそれはNASの表記となります。
ここまで説明すればご理解いただけたでしょうか。
結論、年数表記が「ただの目安にすぎない」ことがわかります。
この知識を持つことによって、ウイスキー愛好家への階段を一歩踏み出せます。
4.NASの魅力
NASの魅力を3つ紹介させていただきます。
4-1.上質なウイスキーを安価で飲むことができる
樽熟成年数が高いものは、年数に比例して高価になります。
それは、長年の熟成のために管理する手間や土地、環境維持等多様な手間と時間を有するため、値段が高騰化する理由は明確ですよね。
対してNASに使用される原酒には年数制限がないため、比較的若い原酒が瓶の割合を占めることもあります。
熟成年数が長い高価な原酒と比較すると安価になる傾向にあります。
もちろん、値段と味が比例するわけではありません。
自分に合う風味を探求する際にはNASを活用することをおすすめします。
製造する地域の風土、ピート感、製造方法を理解した上で、自分が好き好む味わいを探していただきたいです。
4-2.ブレンダーの手腕を堪能できる
NASには「年数表記を配慮したボトリング」という制限がありません。
これは、ブレンダーに対するブレンドの条件が緩いことと同義であり、「最高のウイスキーを作るためにどの原酒をどうブレンドすればいいか」について、ブレンダーが自由に試行錯誤できるとも言えます。
これこそがNASの自由度の高さにおける魅力です。
裏を返せば、年数表記を配慮したボトリングを行うとなると「〇〇年以上樽熟成させた原酒しか使えない」という条件があるということです。
風味や香りの調合に必要となる足枷が単純に1つ増えます。
この足枷がない状態で作られるウイスキーは、まさにブレンダーの腕試しとも言えるのです。
NASの飲み比べをぜひしてみていただきたい。
そのウイスキーが完成するに至ったこだわりを舌や鼻で体感することで、そのブレンダーの実力がわかるでしょう。
4-3.初心者からも好まれやすい
低価格な原酒をブレンドできるため、NASは比較的バランスの取れた味わいに調整されたものが多い傾向にあります。
年代物は樽熟成による独特な風味を持ち、調合する際に相性が良い原酒を厳選しなければなりません。
熟成年数が高い原酒は値段も高額です。
ウイスキーにはさまざまな特徴があり、表現者によっては軽く100を超える特徴があります。
低価格でウイスキーの生産地や風土、製造法の違いによって生まれる特徴を掴むのにNASはまさにうってつけです。
まだそれぞれの違いがそこまでわからないウイスキー初心者にも手が届きやすいウイスキーであり、飲み比べを積極的に行えるでしょう。
特徴や個性を理解し始められたら、バーマンやマスターに自分の好みについて話し、そこから熟成年数の高いウイスキーにシフトして行くことで、ウイスキーの年代の違いについても理解して句ことができます。
・上質なウイスキーを安価で飲むことができる。
・ブレンダーの手腕を堪能できる。
・初心者からも好まれやすい。
NASの魅力をご理解いただけたでしょうか。
5.NASウイスキーの研究
NASはブレンダーの手腕だけでなく、原料や製造法の工夫についてさまざまな研究が行われています。
ウイスキー製造におけるこだわりのポイントは多数存在します。
原料や製造のための蒸留器等の機器、熟成に用いられる樽など、さまざまな条件の上に上質なウイスキーが成り立っているのです。
特に樽の研究が多い印象です。
原酒が若くても十分深い味わいが出せるよう、ウイスキーを名産品として挙げる各国にて今も研究を続けています。
今後のNASの成長に期待し、僕自身とても楽しみにしています。
ウイスキー産業の発展から、どんなウイスキーが生まれ、自分好みのウイスキーがどの程度存在するのかを一つの趣味としてぜひ追加してみてください。
おわりに
いかがでしたか。
・NASウイスキーをそもそも知らない。
・NASウイスキー自体は知っているが違いがよくわからない。
・NASウイスキーは安酒・風味がない等あまり良いイメージがない。
こんな読者のために
「1.そもそもNASとは」で
NASとは熟成年数を規定・表記しないウイスキー銘柄であると理解する。
「2.なぜNASが普及したのか」で
原酒不足の対策として普及したことを理解する。
「3.NASに対する勘違い」で
原酒不足の対策用ウイスキーとして印象付けられやすいが、年数表記がただの目安にすぎないことを理解する。
「4.NASの魅力」で
・上質なウイスキーを安価で飲むことができる
・ブレンダーの手腕を堪能できる
・初心者からも好まれやすい
上記3つを学び、NASの魅力を理解する。
「5.NASウイスキーの研究」で
現在でもさまざまなNASの研究がされており、ウイスキー産業の発展からNASの進化があることを理解する。
についてまとめさせていただきました。
この記事を読んで
・NASウイスキーについて理解した。
・NASウイスキーの良さを知った。
・NASウイスキーへの誤解が溶けた。
このような状態になっていただけると幸いです。
この記事では、僕が今まで飲んだ中でお気に入りのNASの銘柄はあえて紹介しません。
バーマン、マスターと飲みながら好みを伝え、自分に合うNASを探して欲しいからです。
バーに足を運び、自分に合うNASウイスキーを見つけ、風味や味わいを楽しむきっかけとしてこの記事を活用していただけると嬉しく思います。
追伸
ウイスキーを理解する上で、製造方法の理解は欠かせません。
ウイスキー製造の9の工程を解説した記事を参考に、ウイスキーに関する知識を補填してください。