見出し画像

一切ggらない うろ覚え映画評論 2

某所で配信をした時、アンケート機能を使って視聴者に聞いてみたことがあります。「どんなジャンルの映画が見たいですか」というベタなものだけど意外な結果が出ました。サスペンス・ホラーに次いでドキュメンタリーが上位を占めたんです。筆者はあまりドキュメンタリー映画を見ない、というかこの手のジャンルに懐疑的なところがありまくる。理由はなんだか高圧的で説教臭い感じがするからで、言わばユニセフのCMじみてるのが嫌いなんです。自然をテーマにしたディープブルー(サミュエルがサメに食われない方)みたいなのは好きですけど、よくこんなの撮れたなあって言う制作サイドに感心してしまう。自然や動物は好きですけどね、映画で見るもんじゃないなって思います。人のドキュメントに至ってはテレビで腐るほどやってますし。

食わず嫌いせず見てみるかー、という事でインドのシク教の生活にスポットを当てた本作をチョイス。1時間位の作品です。


冒頭にシク教とは何ぞやって人のためのテロップが出ます。そのまま人々が往来して祈りを捧げる日常をバックに黄金宮殿が映し出される。

人の密度が凄いです。みんな真顔で同じ表情をしています。男性は髭を蓄えターバンを巻いています。白シャツを着てる人も目立ちます。女性は色とりどりの服を着ていて、頭部は隠してますがラフな格好です。おばさんは割と太っています。子供が例外なく可愛いです。

これら街の人を撮り続けるカメラ、それをガン見するインド人。これが数分間続きます。ガン見インド人をガン見する時間が。

大きい麻袋を担いでくる男性。中には芋やら粉やら。続いておそらくミルクが入っているであろうローソンのマークみたいな容器をオンボロ車で運んでくる。とにかくいろんな食材を調理場に運びこんで、カレーや謎のスープやらをバカでかい鍋で作り出す。

ナンを作ってる場所。まず材料の入った袋を雑然と床に置く→その中の粘質な何かを一定の大きさに丸くしてポイッて投げる→そのチネリ玉を棒で伸ばして薄皮状にする→鉄板の上でジュージュー焼く→焼いて積まれたナンを重ねてカゴに入れる。

このように細かく分担して多人数で作っているんですが、合理的なようだけど効率わっるいなーっと感じます。なんだかダラダラやっているし暗いし地べただし殆ど外だし、大量の虫が飛翔しているし。おそらくコバエかショウジョウバエでしょうけど、あれって仕切りくらい作れないのか。宗教上の理由があろうがなかろうが不衛生すぎる。

街路上で作業している人もいます。その中で目を腫らして泣いてる人がいました。作業が辛くて泣いてるのか?と思ったら大量の玉ねぎを素手で剥いていました(笑) 目が大きいから硫化アリルをもろに食らうだろう。なんか工夫すればいいのに。

食事はシク教の本堂、冒頭に映った黄金宮殿内で行われるようで。若い連中がモップで床を掃除して、後からロール状の絨毯をコロコロと敷いていく。どうやらこの敷物の上で列を成して食事をするらしい。堂内は広く等間隔に並んで、ざっと1000人以上は入るだろう。

参拝を終えたシク教徒達が身を清めて本堂内にぞろぞろと集結。手には銀のステンレス皿を渡され、先程敷かれた絨毯の上に雑然と座っていく。それから複数の配膳係がやって来て、皿にボンボンと雑によそりはじめる。日本の給食みたいに皿を渡した時にやれば効率いいのに、って言うのは邪推だろう。これがシク教スタイル。メニューはカレーだと思う。そこにナンを浸して食す。あと豆サラダみたいなのがあった気がする。どれも質素だ。

会話は厳禁なのだろうか、無言で手食をする。足りなさそうな人に配膳係が有無を言わさず、いや気を利かせて補充してくれる。まだ食ってる途中でしょうがあ!と思っても言うことはない。更におかわりを希望する者は無言で挙手。すると配膳係が颯爽とやってきてナンをぶっきらぼうに渡す。受け取る側は両手で有り難くいただく。配された食事は残さず食べるのがマナー。映像を見る限りでは残飯は見られなかった。食べ終わった食器類は本堂入り口の係りに渡して各々帰っていく。この行程を一日に何セットも行うらしく、食事量もその作業量も半端ではない(シク教徒はインドだけでも1000万人以上いる)。当然、人数に比例して発生した途方も無い数の使用済み食器を洗わなければならない。

まず係りが食べ終わった食器を乱雑に樽の中に投げまくる。金属特有の甲高い爆音を立てながら不均等に樽内に溜まっていく。これをまとめて洗い場まで運び出す。ちなみに食器はすべて同じ形をしている。放らずにそのまま重ねて揃えた方が確実に手間は省けるはずで、しかもあれだけ雑に扱えば変形は免れない。だがこれは凡俗な日本人の発想であり陳腐な戯言。そう、これがシク教スタイル。

色とりどりの服を着た女性が一列に並んでいる。女性たちの前には直線状に置かれた洗い場があり、中の溝に水が満たされ何製なのか何処製なのか不明な洗剤が投入されモコモコ泡立っている。運ばれてきた大量の食器がそこに放り込まれ、黙々と洗いまくる作業が始まる。

皿の傷なのか汚れなのか分からないのだろうか。天に翳して確認する人がいた。そもそも洗ってる水が・・と思うのは邪推を超え邪険なので控えよう。その間も次々とブツは送り込まれる。気を利かせることなく無造作に投げ込まれるため、奥側の女性に洗剤混じりの水しぶきが掛かることもしばしば。

場面が変わり、次はカレーなどを作っていたデカイ鍋の清掃シーン。大の大人が中に入ってゴシゴシと布で擦っている。見ているだけでも腰が痛くなってくる。ふと千と千尋の神隠しで千尋が風呂釜を洗っているシーンを思い出した。引き合いでアニメしか出ないのが悲しいが、何しろあんだけデカイ鍋は見たことがないのだから仕方ない。刹那、中国で犬を屠殺する時に使われていた湯釜が浮かんだが、鮮烈なトラウマなので記憶の闇に封じ込める。

息抜きにガンジス川で沐浴、と思いきや大人数で宮殿バケツリレーが開幕。料理を使う際に使用したカゴや容器、絨毯やマット類などに水をバシャバシャとぶっかけていく。ここでは洗剤などは使わないらしい。水浸しになった地面で軽く水気を払い整理整頓していく。マット類に関してはそのままクルクルと巻き始めた。どこに置くか知らんけど次の日までに乾くのかそれ。

辺りはトワイライトなオリエンタル風景。沈む太陽に向かい、また黄金宮殿に向かい、祈りを捧げる人々で溢れかえっている。こうしてシク教徒の一日が巡り、フェードアウト。テロップでセーワー(無償労働者)の凄みと有難みを視聴者に諭して終幕。


とてもシンプルな映像構成でした。それでもなぜだか引き込まれる。おそらく異文化ながら尤も人間らしい日々の生活を重んじている、シク教のパワーを感じたんだろうなと。その生活の断片から、メッセージと言いますか、この映画の真意を見ることが出来ました。

インドではヒンドゥー教が7~8割を占めています。そのヒンドゥーから分派したのがシク教。イスラムと同様にヒンドゥーはカースト意識が根強く、低層の人は苦しい生活を抜け出すため改宗することも多い(しかし親のカーストを受け継ぐ決まり、男尊女卑も著しい)そこで人々に平等な社会生活を与えるべきだということで生まれたシク教は、言わばカーストアンチです。映像で働いてる人たち(セーワー)は決まった配属も上下関係も無く平等に生きている。食べるためには皆で働かざるを得ない、まさに働かざる者食うべからず。インドは国教が無くてセキュラーなので多宗徒が混在しています。そこにはカースト制度の影響が強くあるんでしょう。

冒頭から最後まで人々のしつこいくらいのカメラ目線。これは意図して盛り込んでますね。そして水を使うシーンを不断(ふんだん)に使っています。貧富問わず生きとし生けるものは水なしには生きられない。そんな生存必需品な水にフォーカスを当てた作品なのではと勝手に解釈してます。

端々で冗談交じりにツッコんではいましたが水は重要です。食事を作る。手を洗い身を清める。食器を洗う。掃除をする。喉を潤す。水は人の暮らしの循環を成しています。

忌憚なく言いますがガンジス川は汚いです。神聖で母なる川だと敬虔な信徒達は濁りきって雑菌だらけの聖域にありがたやと身を委ねる。ましてや川の中では体も洗うし歯も磨く。半裸のおっさんが腰に手を当てうがいをしてそのまま川にペッ!下からもペッ!なんてのは日常。そしてヒンドゥーでは死者を焼いて遺灰を川に流す慣習があります(シクも多分一緒)焼くにも段取りがありマネーが掛かる。身分や死に方によっては焼くことも叶わずそのまま川にドボンなんてこともあり得る。カーストの底辺層では争いや諍いが絶えないだろうから、思わずヤっちゃった、なんてこともあるはず。そんな時は聖なる川へ沈めて浄化させ、記憶も悪事もついでに生活ゴミも水に流すのが手っ取り早い。そんな混沌としたインドのパワースポットに行けば流行病のCOVID-19もダッカの如く、ではなく脱兎の如く逃げ出すだろう。

余談。海外から物見遊山為らぬ物見遊川で珍奇な風習を嗤って川に飛び込む神も仏も知らない不知なタワケ者がいる。川辺でBBQして騒ぐ輩と遜色ないので是非とも自重してほしい。何でもやればいいってもんじゃない。この際、沐浴料を徴収してその金でガンジス川のクリーン事業に寄与できないだろうか。って、これが行き詰まっているから環境汚染に発展しているわけだけど。

ヒンドゥー教徒達はゴクゴク川の水を飲んじゃう。悪役商会も舌を巻くレベルでだ。まずい、もう一杯!とは言えない状況で健康被害が深刻な問題であります。謎の病気に罹っても行き着く病院がまた不潔であったら元も子もない。インドでは家庭用浄水器の導入が必須となっている。浄水装置をレンタルして水ボトルが毎月運ばれてくるブルジョワなものじゃない。きったない川の水を入れて濾過して使う安価で小型のものだ。地域によって水道は普通に通っているけど殆どメンテナンスされておらず、経年で壊れてもそのまんま。修理の目処も立てず政府が無視している始末。云億円もの費用を浄水・水道インフラに充てているのに遅々として工事が進まずに先行き不透明。これが現実。都会ではまだマシかも知れないけど。

水と言えば日本。インドのお水事情に力添えしようと手をスリスリ参入しようとしたらしいが、既にフランスのスエズがシェアを牛耳っていて、権利問題も重なり新規参入は絶望的。この間にもガンジスの聖なる汚物がどんぶらこっこと海へ流れ海洋汚染問題を引き起こし、未曾有のアクアハザードが発生するかも知れない。ガンジスパワーが宿った生物達が巨大化して生態系を揺るがしかねない。鼻が象で、手が無数に生えてて、首を横に揺らしながらインド産ゴジラが海中から現れ、アルカイックスマイルで真っ赤なカレーを吐きながら街を破壊するかも知れない。こんな窮地にスエズもエビアンもへったくれもない。世界中で手を取り合って問題解決していくことこそが望ましい未来だと思いませんか。

要約するとそんな映画でした。(長えよ)











この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?