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連載:人とお寺のあたらしいディスタンス vol.4「お寺の門を出て、ローカルに根ざす」小池陽人さん

こんにちは。未来の住職塾では担任という立場で塾生の学びをサポートしている遠藤卓也です。

「ポスト・コロナのお寺の場づくり」をキーワードに、全国各地の僧侶にお話しを伺っていく連載「人とお寺のあたらしいディスタンス」。第4回は兵庫県神戸市 須磨寺 副住職の小池陽人さんにインタビューしました。

内に外に多方面に活躍なさっていた小池さんが、ポスト・コロナの世界でどのように活動なさっているのか興味がありました。「今できることは何か」ということを自分なりに考えて行動しているという小池さんが「近くの外」ともいえる門前町との交流に至るストーリーです。

インタビュー:小池陽人さん(兵庫県・須磨寺)「お寺の門を出て、ローカルに根ざす」

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プロフィール 小池陽人
大本山須磨寺 寺務長 副住職。昭和61年生まれ。東京都八王子市出身。総本山醍醐寺修行道場「伝法学院」卒業後、四国八十八か所歩き遍路成満。清荒神清澄寺で天堂番として二年間修業。
須磨寺では、生涯学習の場としての「青葉会」や「須磨 夜音 音楽法要祭」などを開催。平成29年6月よりYouTubeチャンネル「須磨寺小池陽人の随想録」開設し、2週間に一度、YouTubeで法話を配信している。著書に『しんどい心の処方箋』(柏書房)

遠藤 小池さんはコロナ禍以前より、Youtube法話に力をいれていましたよね。一方、真言宗須磨寺派本山である須磨寺の副住職としてリアルな現場で、参詣者と接する機会も多かったと思います。緊急事態宣言が出てから、どのように活動なさっていましたか?

小池 2020年2月に予定していた「お砂ふみ」という、全真言宗青年連盟による大きなイベントが中止となりました。
「お砂ふみ」とは霊場寺院の「お砂」を集め、その「お砂」を寺院の境内と考えて「お砂」を踏みながらお参りすることです。実際に霊場巡りをしたことと同じ功徳を得ることができると言われています。このたびの「お砂ふみ」では、真言宗各本山の境内の「お砂」を一堂に集める予定でした。
私は全真言宗青年連盟の広報委員長として一年間準備を重ねてきました。「お砂ふみ」がメインですが、写仏・写経・瞑想など一日で密教を体感できるような企画でした。

遠藤 そこまで準備していた大きな企画を中止にするのは残念でしたね、、、。

緊急事態宣言中のSTAY HOME ルーティーン

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小池 自坊で行っていた法話会も中止にせざるを得ず、企画していた催しがことごとく中止になっていく中で、自分に何ができるかと考え続けていました。
平安時代にも疫病が流行っていましたよね。その中で、弘法大師様は当時の嵯峨天皇に写経することを勧めたと伝えられています。嵯峨天皇が写経されている間、弘法大師様はずっと護摩を焚き続けて収束を祈ったそうです。それによって疫病は収まったのですが、ならばコロナ禍の今こそ写経だ!と思って、まず写経を呼びかけました。

遠藤 STAY HOMEで写経、いいですね!

小池 須磨寺のホームページに「自宅で写経」のページをつくり、PDFファイルで般若心経の用紙をダウンロードできるようにしました。家を出られない時期はストレスも多く家庭内不和などもあったでしょうし、心を落ち着ける意味でも写経をしてくださいとYoutubeで呼びかけました。すると全国から続々と般若心経の写経が集まってきたんです。

遠藤 どれくらい集まったのですか?

小池 自粛期間中に4,600巻くらいですね。
私も様々な行事がなくなり時間があったので、緊急事態宣言中は毎日Youtubeに法話を投稿しようと決めました。全国の皆さまから写経を奉納していただいて、こちらでは毎日護摩を焚き続けると。平安時代にお大師さまがやられたことをやろうという意味で、宣言が解除となる5月いっぱいまで続けました。
Youtubeで法話を毎日配信し続けることで見てくださる方も増えていきました。写経とともにお手紙をいれてくださる方もいらっしゃいました。ですから私の毎日のルーティーンが、朝のお勤めから法話の撮影。護摩を焚いて、午後から手紙への返信を書いて、夕方に次の日の法話の内容を考えて、寝るという繰り返しになりました。

遠藤 すごい。ほぼ習慣だけの日々を過ごされたのですね。

小池 この習慣を、たまたまですがちょうど49日間続けさせてもらって、するとかなり多くの全国の人たちとつながることができて、今まで手が届かなかった人たちにも法話を届けられるようになりました。STAY HOMEの暮らしのリズムの中に、法話を聴く時間を取り入れたという方も多くいらっしゃったようです。自粛期間が明けてお参りに来られた方に「毎日の法話が心の拠り所になりました」と言っていただいたり、その声が私自身のはげみにもなったんですね。

遠藤 それはかけがえのない交流をなさっていましたね。

写経奉納で被災地支援へ

小池 それで7月になって、熊本を中心とした九州地方の集中豪雨が発生しました。コロナ禍で起きたはじめての大きな災害で、私の尊敬するお坊さんの先輩がご自身のネットワークを活かして迅速な支援をなさっていました。県外ボランティアが直接の支援に行けない中で、私も何か後方支援ができないかと考えて「御朱印プロジェクト」を思いついたんです。御朱印は「納経」と言いますが、お経を収めた証の授与品ということなので、写経を収めていただいた証として、普段授与していない特別な御朱印をお授けするのはどうだろうか。そのときに写経の奉納料として1,000円以上を収めてくださいとよびかけると。写経の奉納金を、そのまま災害支援にあてていこうと考えました。結局、近隣のお寺さんと他3か寺で共同企画にしまして、それぞれのお寺の特別な御朱印がうけられるようにしました。

遠藤 それまでやっていた写経とも紐づく、良いアイデアだと思います。

小池 既に被災地へ3回の送金をしているのですが、須磨寺からだけでも160万円くらいは支援金を送れています。被災地を支援したいという人は結構います。赤十字等を通してでも支援は可能ですが、身近なお寺で目に見える形だと支援の実感がもてて良いのかなと思います。
特に神戸は阪神淡路大震災で色んな地域から支援をいただいたご恩があるので、ご恩返しの意味もこめてお寺から「施しの循環」を作っていきたいという思いもあります。これは期限を設けずに続けていきたいプロジェクトです。

遠藤 また別の災害が発生した場合でも、同様の方法で各地に支援がしていけるといいですね。

死生観について語ることの大切さ

小池 他に、最近の活動としては「死生観探求講座」というオンラインイベントに参加しています。神戸で介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営しておられる、首藤義敬さんのお誘いで、死生観についてのお話しをさせていただいています。
昔は集落で助け合いながらお見送りをしていましたが、今はとにかく人の手を煩わせないようにと変化して家族葬が主流です。自分の家庭に不幸がない限り、死に立ち会う機会がありません。お釈迦様は「生きることの苦しみを自覚せよ。それが悟りへの第一歩となる。」と仰っていましたが、苦しみとは「別れ」や「死」ですよね。あえて「死」を見つめることで、はじめて「生きる」ことのありがたさを感じられるのではないかと。暮らしの中であまりにも「死」について考えないのは、ある意味異常なことだと思います。こういう時代だからこそ、敢えて死生観を語る場が貴重だという思いで「死生観探求講座」に参加させていただいています。

遠藤 「メメント・モリ(死を想え)」という言葉が思い浮かびますね。とても大切な、僧侶としての役割を果たされていると思います。
先ほどから小池さんのご活動をお聞きしていると、疫病退散の祈りを捧げたり、災害で困っている人たちへの支援、そして人々に死生観を伝えるという、まさしく弘法大師の時代のお坊さんたちがされていたことを、今の時代に体現なさっていると感じます。

小池 いやいやそんな、畏れ多いです(笑)「今できることは何か」ということを私なりに考えて、行動するように心がけています。

遠藤 緊急事態宣言がなされたことは大きかったと思いますが、小池さんの中で何かモードが切り替わるような劇的な変化があったのでしょうか?

小池 私は自分で「はじめよう!」と思って始めたことって少ないんですね。Youtube法話にしても、映像クリエイターさんからのお誘いで始めたことですし、「夜音」という音楽法要祭も元ザ・ブルーハーツの梶原徹也さんとの出会いから始まりました。自分が意図して仕掛けているのではなく、目の前にあらわれてくる縁を自分なりに活かしたいという思いで取り組んできました。

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「エピソード1」をめざして

遠藤 小池さんが中心となって企画している「H1法話グランプリ」もそうでしたよね。

小池 そうですね。私がゼロから生み出したのではなく、たまたまニュースで若手僧侶による法話大会が行われたことを知り、そのひと月後にたまたま主催宗派の宗務総長さんとお会いする機会があったという。それもご縁ですね。
「未来の住職塾」に行ったことも影響が大きいですよ。住職塾に行ってなかったら法話大会を超宗派で行なうという発想には至ってなかったと思います。

遠藤 それは嬉しいです。

小池 実行委員会のメンバーにも住職塾で出会ったお坊さん達が入ってくれていますし、最近は出会うお坊さんが住職塾出身者だったということがよくあります(笑)松本さんに誘われて、行っておいてよかったなあと実感しています。

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遠藤 「H1法話グランプリ」は、コロナ以降どんな感じで進めているんですか?

小池 大きな大会を予定していたのですが、緊急事態宣言をうけて中止にしました。そこでもやはり「こんな時だからこそ何かできないか?」と考えて「法話巡礼33」という企画をはじめました。西国三十三か所巡礼にあやかって、”動画で巡る法話の旅”をコンセプトに三十三か寺のお寺の本堂から法話動画をお届けするという取り組みです。今ちょうど進行中で、年内には三十三か寺満願としたいですね。

遠藤 この活動が、リアルイベントにもつながっていくといいですね。

小池 そう思っています。前回は「エピソード0」と題していたのは、法話をするお坊さんが自薦他薦だったからなんですね。公募制が本来的なあり方だと思っています。参加者の母数も多いほど盛り上がりますからね。予選はYoutube投稿形式にしたいので、そういう意味では「法話巡礼33」で下地作りを狙っているわけです。

遠藤 来年は公募制にして、いよいよ「エピソード1」として開催したいですね。巷にお坊さんYoutuberも増えてきて、去年は想像もできなかった時代がきていますよね!

小池 感染者数の推移を見ながらですが、リアルとオンラインでの開催を検討しています。

ローカルに根ざし、利他的に動くこと

遠藤 小池さんはこれまでYoutubeなどオンラインにも力をいれてこられていましたが、コロナで会えないという状況になってますます加速してきたように感じます。怒涛のご活動ですね。

小池 なんか、駆け抜けている感じですね(笑)

遠藤 逆に、リアルな現場としての須磨寺のお参りの状況などはいかがですか?どのようにコミュニケーションされていますか?

小池 感染は拡大している状況があっても、今けっこう皆さんお参りには来てくださるんですよね。9月のお彼岸は例年以上にお参りに来てくれたかもしれません。皆さんお参りにきたくても我慢なさっていたんだなあと感じました。
最初にお話しした写経の取り組みで同封してくださるお手紙の中にも「時をみて収束したら必ず行きます」と書いてくださる方が、全国にいっぱいいらっしゃるんですね。そんなお便りをいただくので、それならばこの地域のことを発信しようと思ってYoutubeチャンネルで「須磨寺散歩」という新コーナーをはじめました。
須磨寺の門前の商店街が疲弊している状況もあるので、門前町が寂れるとやっぱりさみしいです。Youtubeで門前町の面白いお店や人を紹介することでお参りの時にお店を利用してくださる方が増えたり、私自身も門前町の皆さんともっと関わっていきたいという思いで始めました。

遠藤 私も以前、須磨寺にお参りさせていただきましたが、門前町を歩きながらワクワクしたことを覚えています。

小池 もうひとつの狙いとしては「顔の見える本山」というのを目指しています。うちみたいに小さい規模の本山ですと「顔の見える」が可能なんですよね。私の顔と名前はYoutubeなどである程度知っていただいているのですが、うちにいてくださっている他のお坊さんにもご出演いただくことで、ご覧になった皆さんに親近感を持っていただきたいなと。
それで私と、もうひとりのお坊さんが商店街を歩くというそれだけの企画なのですが、商店街の皆さんがすごく喜んでくださるんですね。それが何よりも、この企画をやってよかったなと思う価値です。これを始めたことで、商店街の方々も「お寺のことをもっと知ろう!」という機運が高まり、商店街の店主たちが須磨寺ツアーを組むということにもなりました(笑)

遠藤 それはすごい(笑)

小池 私が須磨寺の歴史やお参りの作法とか細かく案内するツアーを始めまして。

遠藤 私も参加したいです!

小池 結構人気のツアーになってきていまして、何十年も門前で商売しているおじさん達が「こんな素晴らしいところだったんですね」と気づいてくださったり(笑)

遠藤 意外に知らずに暮らしておられたんですね。

小池 私たちも商店街のことを意外に知らないんですよ。撮影しながらじっくり話をしていると、気付かされることも多いです。

遠藤 せっかく遠くから須磨寺にお参りに来てくださる方がいるのですから、門前のお店も親近感をもって訪れていただけたらもっと嬉しいですよね。

小池 そうですね。相乗効果で商店街との関係性もどんどん深まっていき、ついには和菓子屋さんとのコラボで新しいお土産も生まれました。その名も「しんどい心の処方箋まんじゅう」です(笑)

遠藤 へー!小池さんのご著書のタイトルから名前をとったのですね。

小池 はい。恐らく全国初の法話付きまんじゅうということで、おまんじゅうを買うと法話の書かれた紙が付いてくるんですね。QRコードを読み込めば、動画で見ることもできます。

遠藤 それは楽しいですね!

小池 Youtubeで宣伝したら結構多くの皆さんが買いにいってくださっているようで、和菓子屋さんも少し元気を取り戻されたようでした。

遠藤 「未来の住職塾」もやりながら最近本当に思うことは、お寺だけのことを考えるのではなく地域社会全体を良くしていくという目線でお寺を考える方が増えてきたということです。住職塾で皆さんが各自つくる事業計画書の中にも、如実にその傾向があらわれていますよね。「ローカルに根ざしていく」という方向性ですね。正にそれをなさっていると感じました。

小池 なるほど。

遠藤 そしてもうひとつのキーワードは「利他」です。お寺に限ったことではないですが、一時的には自分にとって見返りがなかったとしても、利他的に行動することで良き縁を生みだしていくということ。今の小池さんのお話しを聞いていてもそうですよね。お寺も大変だけどみんなが困っている時だからこそ、周りの人を助ける気持ちで動いていくことで、新しいご縁がうまれてお寺を拠り所にしてくれる方が増えていきますよね。そういう動き方が自然にできているのが小池さんだと思いますし、住職塾のまわりのお坊さんにも多いなあと感じていますね。

小池 私も本当にそうだと思います。やはり門の外にでていくこと。知ろうとする、関心をもつということが大事でしょうね。関心をもつと、相手も関心を持ってくれるということを学びましたね。

遠藤 疫病に対して祈り、困っている人を助け、死生観を伝えるという古くからお坊さんが担ってきた大切な役割を今も果たしながら、地域に根ざして「利他」の気持ちで行動する小池さん。すばらしいご活躍だと感じました。「こんな時だからこそ」で閉じこもってしまうのではなく、インターネットを活用したり可能な限り「門の外にでていく」という心がけが良きご縁を招く秘けつだと思います。お話しを聞かせてくださり、ありがとうございました!

お寺のこと

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名称:須磨寺(すまでら)
宗派:真言宗須磨寺派(しんごんしゅうすまでらは)
住所:兵庫県神戸市須磨区須磨寺町4-6-8
HP:https://www.sumadera.or.jp

インタビュアープロフィール

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遠藤卓也未来の住職塾ではクラス担任をつとめる。共著書に『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。「お寺の場づくり」をテーマに、IT・広報・イベント制作の分野でお寺をサポートする。また「音の巡礼」というプロジェクトでは「音がつなぐ、あたらしい巡礼の旅路。」をコンセプトに、お経からはじまる新しいご縁のあり方を探求中。
note|https://note.com/taso_jp
Twitter|https://twitter.com/tasogarecords


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