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連載:人とお寺のあたらしいディスタンス Vol.9「賑わいの向かい岸から」輪田友博さん

こんにちは。未来の住職塾の遠藤卓也です。

「ポスト・コロナのお寺の場づくり」をキーワードに、全国各地の僧侶にお話しを伺っていく連載「人とお寺のあたらしいディスタンス」。第9回は愛知県春日井市 天台宗 日輪寺 輪田友博さんにインタビューしました。

以前、輪田さんからお寺の広報についてご相談をうけた際にお聞きした「向かいの神社の境内が青空市で大にぎわい」という話が印象的でした。賑わいの向かい岸からどのような行動を起こし、どんな変化をもたらしたのか?「お寺の場づくり」の非常に参考になる事例であるとともに、コロナ禍において"必要とされる場所"とは何か?考えさせられるインタビューでした。

インタビュー:輪田友博さん(愛知県・天台宗 日輪寺)「賑わいの向かい岸から」

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プロフィール:輪田友博(わだゆうはく)
1983(昭和58)年、愛知県春日井市生まれ。大正大学人間科学科在学中、比叡山行院にて加行。大学卒業後、平成31年3月まで、13年間公立小学校の教員と住職の二足の草鞋を履く。同年4月から寺院専業。未来の住職塾NEXT R-2修了生。天台宗日輪寺住職。

遠藤 輪田さんが住職を務める日輪寺(愛知県春日井市)は、戦後から70年以上も続く地元で有名な青空市をやっている神社の向かいにあるお寺なんですよね(笑)

輪田 そうです、道路を挟んで向かいの寺です(笑)因みに毎月5日・15日・25日の5のつく日に開催されるので、五の市(ごのいち)と呼ばれています。

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遠藤 五の市が開けば大いに賑わう向かいの境内を見ながら、どんなことを考えていらっしゃったんですか?

輪田 平成31年3月までは、公立の小学校で教員をしていました。だから実家であるお寺の法務ができるのは主に土日だけだったのですが、5のつく日だと家の前がすごくにぎやかなんですね。門を開けて境内を掃きながら、お寺はひっそりと静かだなあと。やはり羨ましく思いながら、五の市に来ている人たちがお寺にきてくれないかなとは考えていましたね。

遠藤 まあ、そう思いますよね。

輪田 お寺専業を志し、学校を退職して平日もお寺にいるようになってから、五の市の日は正面の戸を開けておくことにしました。それまでは防犯上の理由から戸は閉めていたのですが、自分も居られることだし試しに開けてみようと。そして何か案内くらい出さないと入ってくれないでしょうから、「仏事なんでも相談会」というポスターをつくって看板にして出してみたんです。五の市の出入り口からも見えるように。

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遠藤 五の市に来られている方はどんな方々ですか?

輪田 60代以上の方が多いです。

遠藤 だとしたら、仏事相談の可能性は高そうですね。いかがでしたか?

輪田 まあ最初の頃は誰も入って来なかったですね(笑)でも2〜3ヶ月も経つとお参りの流れが見えて、本堂の入り口のところで手を合わせてくれる方が現れました。私が「お茶でもどうぞ」と声をかけると「結構です〜」と言ってUターンしていくんですけど(笑)

遠藤 惜しい、あとちょっと(笑)

輪田 全然面識のないお寺の境内に入ってきてくれたというだけでも嬉しかったです。そこから少しずつですが本堂にあがってくる方も見え始めて、おしゃべりが始まりました。

遠藤 どんなおしゃべりですか?

輪田 昔話に家族の話に、通っている病院の話とか。自分は聴くくらいしかできないですが、なぜか皆さん嬉しそうに喋っていかれるんです。
すると今度は本堂で顔見知りになった人たちが、神社から一緒に買い物袋を下げてやってくるようになって「オレンジ一個持ってって」とか「さつまいも食べきれないから」と、本堂のテーブルでシェアリングをなさるようになって(笑)

遠藤 それは楽しそう!

輪田 ただ開けているだけで賑わうんだ、と。

遠藤 神社に休憩する場所がないなら、利用者にとってもありがたいことですよね。

輪田 おしゃべりをしに来ているだけの方ばかりじゃなくて、仏事の相談に来られる方もいらっしゃいます。おじいちゃんが亡くなりそうとか、お墓やご供養をどうしたらいいのかとか、仏事の相談もちらほらと。

遠藤 ここにきて最初のポスターでつけたタイトルが活きてきましたね。

輪田 他愛ない雑談から、仏事の悩み相談になることもあります。とにかく顔をお互いに知っていることが大事ですよね。

遠藤 たとえ相手がお坊さんだったとしても、全く知らない人に相談はできないですからね。

輪田 開始当初に比べて、参加者は増え、必要な机と椅子の数も増えてきました。

コロナ禍におけるお寺の居場所づくり

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遠藤 コロナの影響はいかがですか?

輪田 もちろん大きな影響がありました。五の市自体は中止にならずに続いているので、お寺として開けるかどうか迷ったんです。でも、お参りしたいと言ってくださる方も多かったので、お茶の提供は控えて開けていました。すると「コロナだけど、お寺は開けとってくれた」と喜んでいただけました。皆さん一生懸命に手をあわせていかれます。

遠藤 飲食をせずに換気をしていれば、お寺の本堂は広いですしね。

輪田 五の市の利用者は高齢の方が多いので、家族に外出を止められるようなんですね。でも「お寺に行ってくる」とか「お墓参りに行ってくる」というのは、送り出してもらえるそうで(笑)お寺という場所の安心感なのですかね。

遠藤 特に一人暮らしの高齢の方は、コロナで家を出られずに孤立化しているという話もありますよね。同居していない子どもから、外出を禁止されるという。息子さん娘さんの気持ちもわかりますが、孤独もつらい。お寺でディスタンスをとりながら、誰かとおしゃべりできたら助かりますよね。
日輪寺のある地域では、菩提寺をもつ方は少ないのですか?

輪田 お寺の周辺は明治時代までは荒れ地で、農作物が作れなくて貧しい地域だったそうです。そして川を広げて、ようやく水田ができて町になっていったという歴史があります。今では名古屋市のベッドタウンになっていて、昔から住んでいる人よりは地方から出てこられた方が多いようですね。

遠藤 なるほど、そういった背景を意識しての「仏事なんでも相談会」だったわけですね。

輪田 いいえ、未来の住職塾NEXTに入って、自坊の外部環境分析をおこなって気付きました(笑)

遠藤 そうでしたか(笑)昼間人口と夜間人口の比較とか、やりますもんね。地域の歴史も調べますし。

輪田 それまでは漠然と行なっていた「仏事なんでも相談会」ですが、客観的事実に基づいた視点を持って、狙いを意識して取り組むのでは大きな違いがあると思いました。

遠藤 仰る通りです。お寺に来られている方とのコミュニケーションひとつをとっても変化があると思いますし「何のためにやっているのか?」が明確になってくるので、迷いが少なくなりますよね。

制限があるからこそ新しい発想で

輪田 相談会でつながった方々が、除夜の鐘や大掃除、花まつりなど、今までは檀家さんだけだった行事にも参加してくださるようになりました。お寺の行事にも是非さそってほしいと言っていただくんですね。お寺に通ううちに親しみが湧くのかもしれません。どうぞどうぞとお誘いしていたら、多くの方が集まるようになってきています。

遠藤 檀家さんとしてはどう思われているでしょうか?

輪田 中には、先祖からお寺をおまもりしてきている檀家だけで行事をしたい、と思われる方もいるのかもしれません。そのような方々の気持ちを大切にしながら、新しい方ともご縁をつないでいく。今は過渡期なのかもしれないと思っています。

遠藤 日本全国どこでも人口は減っていく一方ですからね。

輪田 そうですね。お寺が居場所というか、地域コミュニティのひとつの入り口になってほしいと思っています。それで最近は「二子町若旦那の会」という活動に力を入れています。

遠藤 どんな活動ですか?

輪田 町内の同世代である着物屋と畳屋とお寺の3人が、Youtubeで「和の文化」について発信しています。

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遠藤 着物のたたみ方や、畳の替え時、厄除けの御札のいわれ等、テーマが日常的なのがいいですね。それぞれの特色を活かしたコンテンツになっています。

輪田 昨日はちょうど春の「若旦那まつり」の日で、若旦那会として初めての試みだったのですが地域の和食屋さんにお願いして精進弁当を出してもらったんです。和食屋さんも同年代なのですが、やはりコロナの影響で苦しいので少しでもPRになればという思いもありました。
本堂でお弁当を食べたのですが、コロナの心配もあるので黙食としました。事前に、お料理の内容についての説明を収録しておき、漆喰壁にプロジェクターで映した映像を見ながら食べたんです。

遠藤 それなら例え黙食であっても充実していますね。

輪田 若旦那会でアイデアを出しあいました。もしコロナでなければ本堂でお弁当食べておしまいだったかもしれませんが、制限があったからこそ「動画で説明する」という面白い発想ができたのだと思います。

遠藤 「我慢しなければいけない」ばかりでは気疲れしてしまいますし、ハンデキャップを活かすことで良いアイデアがでることもありますよね。
お寺も地域を構成する一つの要素と考えれば、お互いに助け合うのは自然なことですね。いざお寺が困ったときにも、手を差し伸べてくれるコミュニティがあるということですからね。

輪田 20年前のお寺のやり方だったら「檀家にならなければ関われない」みたいな、「こうあるべき」があったと思いますが、今はだいぶ変わってきましたよね。何が正解かはわかりませんが、未来の住職塾で色んなお寺の活動をみることで「こういうやり方もあるんだ」という柔軟な心構えを持つことができました。
◯か✕かのテストではなくて、記述式の加点方式で自分のアクションを採点できるようになったというか。

遠藤 実に元教員らしい例えですね!でも、よくわかります。

地域に根ざした “助け合いの輪”

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輪田 実は私が最後に教職を務めていた学校が、この日輪寺の寺子屋として始まった学校なんです。もうすぐ創立150周年になるのですが。

遠藤 え!それはすごいことですね。今、鳥肌が立ちました。ちょっと出来すぎた話のようですが(笑)運命を感じますね。

輪田 教員って、自分が担任している子どもたちに道でばったり会うことは少し嫌だったりもするらしいのですが(笑)私はお寺に子どもたちが遊びにきてくれるのは、反対に凄く嬉しいんです。

遠藤 本当ですね。

輪田 やはりお寺にとって地域とのつながりは一番大事だと思いますね。新しくご縁を結んでくださる方もほとんどが徒歩圏内で「足が悪くなってもお参りにこれるから」と仰っています。私としても近ければ、気にかけてあげられますからね。あのおばあちゃん最近見ないなあと思って電話してみたら、入院されていたこともありますし。お参りの人同士のつながりもできるので「お寺とご縁があってよかった」と思っていただけたら。

遠藤 このインタビュー連載を続けながらつくづく思うのですが、お寺はやはりローカルに根ざすことが何よりも大切です。日輪寺さんの場合は、五の市や寺子屋の歴史などをうまく活かして、お寺ならではの地域に必要される役割にうまくはまってきていると感じました。
お寺だけ、檀家さんだけでなんとか頑張って続けていくのではなく、地域の人たちともつながりながら、お寺を必要と思ってくれる人を徐々に増やしていくとよいですね。”助け合いの輪” のある日輪寺を目指して。

輪田 日輪は「太陽」という意味がありますから、地域を微力ながら明るく照らせたらいいなあと思ってます。

お寺のこと

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名称:日輪寺(にちりんじ)
宗派:天台宗(てんだいしゅう)
住所:愛知県春日井市二子町2丁目12ー3
HP:https://www.nichirinji.jp

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インタビュアープロフィール

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遠藤卓也:未来の住職塾 講師。共著書に『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。「お寺の場づくり」をテーマに、IT・広報・イベント制作の分野でお寺をサポートする。また「音の巡礼」というプロジェクトでは「音がつなぐ、あたらしい巡礼の旅路。」をコンセプトに、お経からはじまる新しいご縁のあり方を探求中。
note|https://note.com/taso_jp
Twitter|https://twitter.com/tasogarecords

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