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連載:人とお寺のあたらしいディスタンス Vol.11「オンラインにも息づくお寺を示す」神崎修生さん

こんにちは。未来の住職塾の遠藤卓也です。

「ポスト・コロナのお寺の場づくり」をキーワードに、全国各地の僧侶にお話しを伺っていく連載「人とお寺のあたらしいディスタンス」。第11回は福岡県 浄土真宗本願寺派 信行寺 神崎修生さんにインタビューしました。

神崎さんは僧侶同士の学びの場を継続していくべく、早くからオンライン会議の有用性に注目して「Bラーニング」という勉強会を、有志の仲間たちとスタートさせました。
コロナ以降はますますその重要性が浮かび上がり、勉強会の参加者も増えてきたようです。

同時に、神崎さんが副住職をつとめるご自坊でもオンラインコミュニケーションを様々に試され、「オンラインのお寺」の可能性を追求してこられました。
私の切る限りでは、最もオンラインでの発信に力を入れている僧侶のひとりである神崎さんに、お寺・僧侶ならではのオンラインコミュニケーションの手応えについて伺いました。

インタビュー:神崎修生さん(福岡県 浄土真宗本願寺派 信行寺)「オンラインにも息づくお寺を示す」

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プロフィール:神崎 修生(かんざき しゅうせい)
福岡県にある浄土真宗本願寺派 信行寺の副住職です。日ごろは、ご葬儀やご法事、子ども会、仏教講座などをおこなっています。

遠藤 神崎さんは2019年1月よりオンラインでの僧侶の学びの場「Bラーニング」を開催していますよね?今ではオンラインの勉強会やセミナーは当たり前になりましたが、当時としては先がけ的な取り組みでしたね。

神崎 たまたまですが、そうですね。今はひと月かふた月に一回オンラインで開催しています。前回(2021年6月)は、トランスジェンダーの杉山文野さんをご講師にお招きして「ジェンダーやセクシュアリティの多様性とお寺の未来」というテーマでお話しを伺いました。

遠藤 とても重要なテーマですし、意識していないとなかなか聴ける機会の少ない貴重なお話しだと思います。

神崎 その前(2021年5月)は、「自然災害体験プログラム 風水害24」という、大規模風水害の接近から直撃・通過までの24時間をリアルに体験することを通じて、風水害発生時に必要な知識を学び適切な判断や行動ができるような、風水害リテラシーを高めるプログラムをオンライン体験しました。

遠藤 今年も台風がきていますが、近年は各地で風水害が多発していて、被害をうけているお寺が少なくありません。知識を得たい方は多いと想像します。

神崎 そういった定期的な学びの場を通して、お寺の関係者同士で宗派や地域の違いを超えて意見交換を行っています。
宗派という包括組織がありながらも、お寺は基本的には家族運営ですので、孤独感や「このままでいいのか?」という不安感を感じている寺院関係者は多いと思います。
リアルで頻繁に集うことは難しくても、オンラインならば可能ではないか?という発想から「Bラーニング」が生まれました。

遠藤 素晴らしい取り組みです。未来の住職塾もずっとオンラインの可能性を検討していましたが、コロナが感染拡大したことをきっかけに2020年から踏み出しました。「Bラーニング」はオンライン勉強会の先輩です(笑)継続して続けておられるのもすごいです。参加者も増えているようですし。

神崎 ありがとうございます。でも私たちが始めたきっかけは未来の住職塾です(笑)運営メンバー4名は未来の住職塾で出会いました。住職塾のような学びの場を、修了後も継続したいという思いがあったので。

オンラインは良きマーケティングの場

遠藤 神崎さんご自身としては「Bラーニング」の学びがどのようなアクションにつながっていますか?

神崎 例えば、LGBTQの勉強会の時はゲストとしてトランスジェンダーの方にご登壇いただくにあたって、自分も詳しくなければと思い事前に色々と勉強させていただきました。学んだことを一般の方向けのオンラインの集いでお話しさせていただいたことで、LGBTQに関心を持ってくださったり、また実際にトランスジェンダーの方が「ここなら安心」と思って、カミングアウトしてくださることもありました。

遠藤 オンラインの集いでカミングアウトできるような、安心の場づくりをなさっているのですね。

神崎 オンラインの場づくりといえば、個人的には「ヘルシーテンプル・コミュニティ」の朝の会をファシリテートさせていただくことになったのも大きな変化です。毎朝、日替わりで各地のお坊さんが登場して、部屋でできる簡単な運動やマインドフルネス瞑想を一緒に行なうという取り組みですが、毎朝100名から200名くらいの方がリモート参加なさっていてそれが参加者の朝の習慣になっています。

遠藤 もはや一大コミュニティになっていますよね!

神崎 時間や空間を超えられるのはオンラインならではの利便性ですよね。例えば会の中では「幸せって何だろうか?」とか、それぞれの意見を言語化してチャットに気軽に書き込んでいきます。100名の意見があがってくるので、我々宗教者としても皆さんがどのような悩みを抱えていらっしゃるのか?、どのような思いで日々を生きているのか?そういったことを知ることができるのは、大きなインプットになっています。

遠藤 言葉は相応しくないかもしれませんが、お坊さんとしてのマーケティングをしているようなことですよね。

神崎 はい。そういうこともあると思いますよ。
私の活動のテーマは、まず「仏教やお寺を身近にする入り口をつくること」。そして「人々がより良く生きるための学びの場をつくること」の2つです。仏教的な価値観やお寺ならではの特徴が、今の人々の求めのどこにマッチングするのかを探り、翻訳していくようなことだと思います。自分はまだあまり出来ておらず改善の余地があります。そこがエキサイティングで楽しいところだと思っていますが、オンラインの接点がすごく役に立っていますね。

遠藤 なるほど。神崎さんはYoutubeをつかっての発信も頻繁に行われていますが、宗教者としてのメッセージを発信した上で、またオンラインの集いやチャットでフィードバックをもらう。そういうサイクルをまわして、トライ・アンド・エラーを重ねているのですね。

神崎 まさに、その通りです。

お寺は自然に「伝達可能性の伝達」をしたくなる場所

神崎 現代社会において、一日のうちでスマートフォンをさわっている時間は長いですよね。オンラインだけの人間関係もありますし、ネットの情報に触れている時間は日常的にあたりまえのことになっています。その時に、お寺や仏教がオンラインにないということは不自然だと思うんです。普通にあっていいのではないかと。
逆に、リアルでしか体感できないこともあります。お寺であれば、お香のにおいや本堂の空気感。お寺に行くまでの道中の風景や、ご当地名物の味ですとか。そういったリアルな魅力は再現できませんが、お寺を身近に感じて実際に来ていただくための入り口として、オンラインは活用できると考えています。

遠藤 よくわかります。私も以前、神崎さんのいる福岡の信行寺にお参りさせていただいた時のことは覚えています。お寺に行かないとわからない情報や実感がありますよね。
先日、私が取材に伺った東京のお寺では、たまたま境内で小さな市が開かれていました。鰹節や佃煮を販売する屋台が出ていて、どこか懐かしくて素敵な光景でした。なんとなく自然にすれ違う人に「こんにちは」なんて挨拶が出てきたりして、久々に「お寺にいるなあ」と嬉しい実感がありました。

神崎 いいですね!

遠藤 そこのお寺の住職さんとお話ししている中で「伝達可能性の伝達」という言葉を教えていただきました。哲学者のヴァルター・ベンヤミンによる考えだそうですが、言葉というものは情報を伝えるという機能だけでなく、”伝達可能性を伝える”機能もあると。つまり挨拶で「こんにちは」と言葉を交わした場合「私はあなたに伝達をする可能性がありますよ」と示すことになります。その空間においてお互いに「あなたの存在を認めていますよ」という了解をとりあうような機能があるということですね。それを聞いて、お寺の境内って自然と「伝達可能性の伝達」をしあうような特別な空気感があると思いました。お寺ならではの特徴だと思います。

神崎 確かにそうですね。街の中だと個人は全体の一部としてとけこんでしまうところを、お寺の中だと一人ひとりとして接しあえるというか。

遠藤 一歩外に出たらただの通行人になるところを、境内の中では知らない者同士でも「伝達可能性」を示しあいたくなるのですよね。不思議です。
この「伝達可能性の伝達」というキーワードを出してみると、神崎さんのオンライン活動はある種、神崎さんの「伝達可能性の伝達」でもあると捉えられそうです。

神崎 ああ、そうですね。

遠藤 先ほど、トランスジェンダーの方がカミングアウトしてくれたという話しもそうですが、きっとお寺への相談なども増えているのではないですか?

神崎 Youtubeで私が発信している仏教講座や仏事作法Q&Aを見てくださったご門徒さん(檀家さん)が、お会いした時に「Youtubeいつも見てますよ」と言ってくれたり、わからないことを聞いてくださったりしますね。私のチャンネルは65歳以上の方が多く見てくださっており、比較的高齢の方に見ていただけているという手応えもあります。これまでは月に1回とか年に数回くらいしか会うことのなかった方との接点が、オンラインによって増えているということですよね。

遠藤 ご門徒さん以外の方についてはいかがですか?

神崎 これまで全く縁のない方でもYoutubeやホームページを見てくれて「顔が見えるから安心する」と言って、ご葬儀を依頼されたり納骨堂を利用してくださることがありますね。相談に来てくださることも増えました。

遠藤 仏事についてもオンラインで情報発信していくことは大事ですよね。

神崎 お寺への明らかな顕在ニーズは葬儀・法事・お墓であり、これは宗教者だからこそ相応しい固有の役割です。僧侶が死にむきあっているということを知っていただいたり、葬儀についての考え方や思いなどもしっかりと発信しておくことが大事だと思います。

遠藤 例えばお経を配信することも、葬儀・法事を依頼する側としてはすごく参考になります。

神崎 大切な人と別離していく苦しみ「愛別離苦」は、人間にとって大きな「苦」です。ご葬儀やご法事には、その愛別離苦を和らげたり、受けとめたりする場としての役割もあるということを伝達していくべきだと思います。

遠藤 そしてコツコツと続ける「継続性」こそが、お寺への信頼につながりますよね。特にお寺は続いていくことが期待される組織なので、どんな活動でもちゃんと続けていることが伝達されると、安心感につながりますよね。

神崎 お寺も仏教もお坊さんも「身近なものではない」という方が大多数だと思うんです。だからこそ、お寺がちゃんと動いていると見えることが大事です。どなたでも参加できる会があることを知っていただいたり、「お寺が息づく」様子を見せるというか。実際は息づいていたとしても、ご門徒さんにしか見えていないということもあるかと思うのです。総代さん(お寺の役員)ですら「お寺の敷居は高い」と思われていることもあると聞きます(笑)伽藍が重厚だったり、檀家制という仕組みがあることも影響しているかもしれません。「誰かが支えてきた場所だから私は立ち入れない」と思われることもあるでしょう。
だからこそテンプル・モーニング(お寺の朝の掃除会)のように、「お寺に居ていいんですよ」と言ってもらえるような場があったり、御朱印のようなツール等お寺に入っていけるように様々なアクセスポイントを持っておくことが重要だと実感していますね。

遠藤 すごく共感します。オフラインでも「伝達可能性の伝達」を示していくということですね!
様々な境界を飛び越えていくような神崎さんの活動に期待しています!!

お寺のこと

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名称|教證山 信行寺(きょうしょうざん しんぎょうじ)
宗派|浄土真宗本願寺派(じょうどしんしゅうほんがんじは)
住所|福岡県糟屋郡宇美町宇美1丁目2-1
HP|https://shingyoji.jp

インタビュアープロフィール

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遠藤卓也:未来の住職塾 講師。共著書に『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。「お寺の場づくり」をテーマに、IT・広報・イベント制作の分野でお寺をサポートする。また「音の巡礼」というプロジェクトでは「音がつなぐ、あたらしい巡礼の旅路。」をコンセプトに、お経からはじまる新しいご縁のあり方を探求中。
note|https://note.com/taso_jp
Twitter|https://twitter.com/tasogarecords

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