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連載:人とお寺のあたらしいディスタンス vol.5「塀のいらないお寺」大場唯央さん

こんにちは。未来の住職塾では担任という立場で塾生の学びをサポートしている遠藤卓也です。

「ポスト・コロナのお寺の場づくり」をキーワードに、全国各地の僧侶にお話しを伺っていく連載「人とお寺のあたらしいディスタンス」。第5回は静岡県藤枝市 大慶寺 住職の大場唯央さんにインタビューしました。

コロナ禍以前・以降に関わらず境内施設に「土足で休める休憩所をつくりたい」という声をよく聞きます。なぜ土足か?についてはあとで触れますが、まさに「靴を脱がずにくつろげるカフェスペース」をお寺に備えているのが大場さんが住職をつとめる大慶寺です。どのような思想で、お寺の場づくりをなさっているのか?興味深いインタビューとなりました。

インタビュー:大場唯央さん(静岡県・大慶寺)「塀のいらないお寺」

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プロフィール:大場唯央
お寺の三男として生まれ、早稲田大学に進学するも、20歳過ぎて僧侶の道へ。藤枝市に戻りNPO法人SACLABOや一般社団法人SACLABOを仲間と立ち上げまちづくりに励む。お寺と地域の関係性のリノベーションを目指し活動している。

遠藤 新型コロナウイルスの感染拡大は、大慶寺の活動にどのような影響を与えましたか?

大場 お寺でおこなう仏事や檀家さんとのコミュニケーションについては、しっかりとスタンスと対応策を決めて、パンフレットをつくって皆さんに共有しました。法事のオンライン対応や儀式への参加者の減少などの変化はありましたが、自分としてはそこまで大きくは変わっていないのかなと感じています。
「お寺としてやらなければいけないこと」は続いていますが、お寺を開放して行う「寺子屋&マーケット」や落語などエンタメ系のイベントは中止になってしまいました。

遠藤 私の大場さんのイメージといえば、日頃から檀信徒に限らず地域の人々との交流・催しを大切になさっている印象です。
「人が集まること」がやりにくくなってしまった状況で「大場さんは元気にやってるかな?」と思って、SNS等での発信に注目していました。緊急事態宣言の最中に、地元の飲食店を支える活動をなさっていたのは「らしいなあ」と嬉しくなりました。

大場 「#藤枝エール飯」と「YUIプロジェクト」ですね。地元飲食店の方が立て続けに相談に来られたので、応えなきゃなあと。相談にきていただけなかったら、他人事になっていたと思います。「助けて」と声をあげてくれたのでよかったです。

遠藤 大場さんのところに相談にくるのはどういうことなのですかね?「お寺に相談だ!」なのか「大場さんに相談だ!」なのか?どっちなのでしょう。

大場 お坊さんだから相談がくるという感じではないと思います。僕が何か解決するというより、困りごとについて話を聞いて人をつなげるという役割に期待してくれていたのかなあと。

遠藤 普段から、地域においてファシリテーター的な役割をなさっているからでしょうね。

大場 「お坊さんとして何ができるか?」ということは特に考えていなかったかもしれません。人として、協力できることをやったという感覚ですね。
僕がよく行っているお店にも困難な状況があり、もし営業が続けられなくなったら自分の「居場所」を失ってしまうことにも繋がるので、僕は僕のために支援していたということです。

遠藤 わかります。自分もよく行っているお店でテイクアウトを活用するようにしています。

大場 「消費者」という言葉がありますが、特に個人店においては「消費者」というよりは「投資者」みたいなイメージに近いと思います。お店のものを消費しているというよりも、そのお店に続いてほしいという気持ちも含まれているというか。単なる消費という言葉で済ませられないプラスアルファがあると思います。

大慶寺の「居場所づくり」

遠藤 大場さんがそういう感覚でいらっしゃるので、周りの人も相談したくなるのでしょうね。大慶寺に人が集まりやすい要因の一つだと思います。大場さんは「居場所づくり」的な活動も色々とやっていますよね。

大場 確かに「居場所づくり」は意識してやっているところがありますね。

遠藤 2014年から大晦日に行なっておられる「年越水行」は、寒そうですが熱いですよね!笑 2020年から「冬至水行祭」として運営委員会も組織してクラウドファンディングにも挑戦したり、みんなでやってる感じが伝わってきます。
この活動も大慶寺の中の「居場所」のひとつだと思いますが、どんな方が運営委員になっているんですか?

大場 冬至水行祭のメンバーは檀家さんではない人たちですね。皆さん一生懸命やってくれています。

遠藤 菩提寺への奉仕活動ではなく、ボランティアスタッフとして力を注いでくださる方たちの原動力って何なのでしょうね?

大場 お寺のために、ではなくきっと自分のやりたいことをやっているという感覚ですよね。だから大慶寺では、行事ごとに協力してくださる人が変わるんですね。

遠藤 なるほど。「お寺のために」と思う人はきっと行事をまたいで何にでも協力してくださるはずですからね。

大場 もちろんお寺の総代さんとかはそういう気持ちで携わってくださっています。しかし例えば水行もそうですが、お寺の境内をつかったマーケットだけにスタッフ参加してくれるような方が複数名いるんです。
そういう方々の顔を思い浮かべていると、自分は一人だったら何もできないな、って実感しますね(笑)一人だけでやっていることって、ない。

遠藤 それはそうですよね。よくわかります。私も東京のお寺で「お寺の音楽会 誰そ彼」というライブイベントを長年開催させてもらっていますが、お寺のためにやっているわけではないんですよね。そこに自分の「役割」があるという感じですかね。「役割」であり「楽しみ」でもあります。自分が楽しんで「役割」を全うできる「場」を提供してくださっているお寺に感謝しているという気持ちです。それによって色んな人と出会ったり、自分の人生が豊かになっている実感があるんですね。それこそ家庭と職場以外の第3の居場所、サードプレイスですよね。自己実現という言葉とも繋がると思うのですが、そんな機会をつくってくれて「ありがとう、お寺!」みたいな(笑)

大場 「ありがとう」まで思うんですね(笑)

遠藤 もちろんです。私だけではなく一緒にやっている仲間たちも同じで、恩返しのために年末の大掃除をさせてくださいとお願いして、実際にやっていた時期もあります。
お寺での活動の中で、自然とそういう気持ちが湧いてきますよ。

大場 僕としても「協力してもらっている」みたいな関係性になったとしたら、大切な何かが抜け落ちしてしまいそうな感覚がありますね。だから「お誘いはするけど、お願いはしない」ということを大事にしています。

遠藤 確かに、お寺側にオーナーシップ感が出ちゃうと「なんか違うな」って思っちゃうかもしれません(笑)感覚的な話ですが。
でもそういう細かいところが「場づくり」において重要だと思います。距離のとりかたというか、雰囲気づくりというか。人々が集って、誰のためでもなく自分が楽しいと思って活動に参加できるような「場づくり」ですよね。大場さんはそういう気づかいが上手そうです。

恩送りの喫茶「一休茶房」

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遠藤 大慶寺の「場づくり」と言えば、賽銭式セルフ喫茶「一休茶房」に興味津々です。

大場 地味な取り組みに注目してくださってありがとうございます(笑)

遠藤 いやいや、私は素晴らしいなあと思って見てました。大慶寺の一角に、いわゆる「寺カフェ」的なスペースを作ったということなのですが「靴を脱がなくていい」という点が正にお寺にぴったりの工夫だなと。

大場 お寺だと「ちょっとあがってお茶でもどうぞ」ということがよくあるんです。もちろん話が長くなりそうな時はそれでいいのですが、ほんとに「ちょっと休んでいってくださいな」という時は、靴を脱ぐのがハードルになるんですよね。あがったら結局長くなっちゃったりして(笑)

遠藤 とあるお寺でも聞きましたよ。農作業のついでにちょっと護持会費を納めにきてくださった方とか「ズボンも靴も汚れているから、渡すだけで!」なんて言ってすぐに去ってしまわれるとか。せっかくお寺まで来ていただいたのに、お茶の一杯も出せずに申し訳ない、とか。お寺あるあるな悩みかもしれませんね。

大場 そうそう、ふらっと来られた方が少し休んでもらえるスペースが作りたいと思ったんです。ちょうどお寺の改修の時に、倉庫だった土間スペースを休憩室っぽくリフォームしました。ご葬儀やお通夜の時は、受付スペースにもなります。

遠藤 なるほど。実際の利用者はどのように使われていますか?

大場 御朱印をうけに来られた方が休まれたり。受験生が勉強したり、ちょっとした打ち合わせや、待ち合わせにも使われています。

遠藤 待ち合わせ!いいですねえ。お寺で待ち合わせ。

大場 おすすめの本も置いてます。ファシリテーションやグリーフケアやまちづくり等、僕の趣味で。奥にいくほど、仏教や法華の本の棚になっていくという(笑)

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遠藤 待ち合わせの間に本が読めますね。お茶も提供しているのですか?

大場 喫茶営業ではないので、ウォーターサーバーやティーバッグを置いておいて、セルフで淹れていただきます。飲んだら代金を支払うのではなく、お賽銭をしていただくという方法にしています。そのお賽銭が未来の誰かのお茶になる「恩送りの喫茶」ですね。ティーバッグは地元のお店のお茶を置くようにして、宣伝も兼ねています。
今のところ経費的には赤字にならずに運営できています。

遠藤 素晴らしい。うちの近所にも大慶寺があればいいのに(笑)多分、常連客になっていると思います。

究極のバリアフリー寺をめざして

大場 遠藤さんみたいな人ならすぐに常連になってくれるかもしれませんが、お寺にはもう一つの大きなハードルがあります。

遠藤 あ、確かに。そもそも境内に入っていいの?って思いますよね。神社はなんとなく公園のように通過できますが、お寺はどうも「檀家さんオンリー」みたいな先入観がある。

大場 そうなんです。それで、境内にベンチを増やしているところです。ベンチは置いてあるだけで「いてもいいよ」というメッセージを発せられます。

遠藤 なるほど、それで大場さんは以前からしきりに「ベンチ、ベンチ、、、」って言ってたんですね(笑)門の外からでもベンチが見えたら「あそこは座ってもいい場所だ」と、認識されますよね。

大場 ベンチだけではなく色んな設備に言えると思います。「お年寄りから赤ちゃんまで誰でも来てください」と口で言うは易いですが、それなら段差の所にスロープを設置するとか授乳室を備えるとか、目に見える形で「来てくださいね」「居ていいですよ」というメッセージを表すことができます。

遠藤 お寺に限らずのことですが、お寺で意識したことは無かったかも。

大場 それで最近、境界を明確にしている塀がいらないなって思えてきました(笑)

遠藤 塀がなくなったら究極のバリアフリー寺ですね。もはや公園に近い。

大場 お寺を誰かの「居場所」にしたいなら、空間づくりから検討しなければですね。

地域とお寺のディスタンスのとり方

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大場 この話とつながっているかわかりませんが、僕が地域とのつながりにおいて大事に考えていることがあります。地域活動にも携わる中で、様々な企画やイベントのアイデアがもちあがってくるのですが「なんでもかんでもお寺でやらない」ということを大前提として意識しています。確かにお寺が便利なことは多いのですが、地域にも様々な場所や施設があります。他にも最適な場所があるはずなんです。

遠藤 なるほど、お寺が便利だからといって全部お寺でやってしまったら、考えようによっては地域の他のスペースや施設の可能性を奪ってしまうことにもなりかねないですね。

大場 もちろんお寺を便利に活用していただきたい気持ちはありますが、一度立ち止まって他の可能性も検討するようにしています。地域の中でお寺はあくまでも一要素です。地域コミュニティの中にお寺があるという認識を忘れてはいけません。

遠藤 大場さんの他にも、お寺を主語にせずに地域を主語として考えるお坊さんが増えてきていると感じます。周囲の共感も得やすいですよね。

大場 そうですね。これは、地域とお寺のディスタンスのとり方として、僕は大切にしたい考えです。

遠藤 以前お話しした際にも「お寺で何かをやる」ことにこだわらずに「大慶寺のある地域を良くしていきたいです」と仰っていたのが印象的でした。行政との協働もできるようにと、一般社団法人も立ち上げられましたよね。大場さんは藤枝というローカルコミュニティのファシリテーターだと思います。
将来的には塀もとっぱらってしまって、公園のように地域に溶け込んでいる未来の大慶寺がたのしみです!常連さんも増えることでしょう。

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お寺のこと

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名称:大慶寺(だいけいじ)
宗派:日蓮宗(にちれんしゅう)
住所:静岡県藤枝市藤枝4丁目2−7
HP:https://www.daikeiji.jp

インタビュアープロフィール

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遠藤卓也未来の住職塾ではクラス担任をつとめる。共著書に『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。「お寺の場づくり」をテーマに、IT・広報・イベント制作の分野でお寺をサポートする。また「音の巡礼」というプロジェクトでは「音がつなぐ、あたらしい巡礼の旅路。」をコンセプトに、お経からはじまる新しいご縁のあり方を探求中。
note|https://note.com/taso_jp
Twitter|https://twitter.com/tasogarecords


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