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連載:人とお寺のあたらしいディスタンス Vol.3「やわらかく楽しく広げていくこと」- 庄司真人さん(大阪府・法華寺)

こんにちは。未来の住職塾では担任という立場で塾生の学びをサポートしている遠藤卓也です。

「ポスト・コロナのお寺の場づくり」をキーワードに、全国各地の僧侶にお話しを伺っていく連載「人とお寺のあたらしいディスタンス」。第3回は大阪府 法華宗 法華寺の庄司真人さんにインタビューしました。

最近、各宗派の青年会によるオンライン研修の講師を務めさせていただく機会が続いているのですが、その中で庄司さんの5年をかけたお寺改革を事例として紹介しています。庄司さんの改革を紐解いてみると、一つ一つは地道な努力の積み重ねなので「これからお寺を変えていきたい」という方には参考にしやすいのです。

こつこつと改善を重ねてきた法華寺の姿が、感染症の影響でどのように変わったのか?昨年の未来の住職塾NEXT R-1では庄司さんの担任をさせていただいた身として、聞くのがすこし怖い気持ちと、楽しみな気持ちが入り交じるインタビューでした。

インタビュー:庄司真人さん(大阪府・法華寺)「やわらかく楽しく広げていくこと」

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プロフィール 庄司 真人(しょうじ しんじん)
40歳まで公立中学校社会科教師。現在は法華寺住職として午前・土日祝日はお寺の仕事。臨床心理士として週に3回の午後公立小中学校でカウンセラー勤務しています。人の悩みに寄り添い、共に生きる中で、仏教の智恵や神仏の守護を大切に感じています。

遠藤 庄司さんは、今年の3月に行われた「未来の住職塾サミット」で、過去5年に渡る自坊の取り組みについて総括的な報告を発表していただきました。あれから7ヶ月ですが、緊急事態宣言などもあり、すでに遠い昔のことのようにも思えますね。コロナ禍において、どのように寺院活動をなさっていたのかお聞かせいただけますか。

庄司 まず未来の住職塾のおかげで、自分ひとりでは発想できないような各地のお寺の様々な工夫を知ることができたので「固定観念に囚われなくてもいいんだ」ということが自分の身に染み込んできています。そういうベースがあったからこそ、コロナ禍における様々なチャレンジができたと思っています。

遠藤 そう言っていただけると嬉しいです。庄司さんは三度も通っていただいていますからね!

庄司 4月におこなわれた未来の住職塾のオンライン勉強会にて、神奈川県の妙法寺さんから春季彼岸会法要をインターネット配信したというご報告がありました。私としては、親しいお寺さんがネット配信を取り入れている様子を具体的に知ったことで「そういうやり方もあるのか」と認識しました。
檀家さんへのコロナのお見舞いの手紙の中で、お経を故人にお聞かせになりたい場合はインターネット配信やDVDでの送付を対応しますよ、とお知らせしました。

遠藤 春の段階で既にオンライン化を取り入れておられたのですね。DVD送付というのも、相手の環境への配慮があっていいですね。

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遠藤 各家庭への月参りはどうでしたか?

庄司 田舎なので檀家さんの中でも温度差がありましたね。「なぜ来てくれないの?」というあっけらかんとしたお家から、「うつしたらあかん」というガチッとしたお家と、本当に幅がありました。
私の方では手洗い・マスクなど対策をとった上で「各家庭のご事情にあわせます」と周知しました。
結局、7割くらいのご家庭は「来てほしい」となったんです。

遠藤 それは、都市部の実感と比べると多いですねえ。

庄司 法事もキャンセルになったのは2件くらいです。本堂でやれば広いので、ちゃんと距離もとれますしね。

遠藤 仏事の実施状況についてはやはり地域差がありますね。法華寺さんは影響の少なかった方だと思います。

目から鱗のお施餓鬼改革

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庄司 コロナ禍で一番変化したのは、夏の施餓鬼法要です。これまでは毎年8月15日の13時開始が定番でした。塔婆を入れ替えながら7〜8回のお勤めをするのですが、先着順なので13時前には境内に人が溢れてしまうんですね。近年は熱中症対策が大きな悩みでした。

遠藤 それは危険ですし、屋外とはいえ「密」な感じがします。

庄司 「密」を避け、いかにゆったり気持ちよくお参りいただけるか?と考えて、これらの課題を払拭するような方法を思いついたんです。

遠藤 おお!(驚)

庄司 どのお寺でもやられていることなのかもしれませんが、朝9時から1時間ごとに区切って予約を受け付けるようにしたんです。お参りに来れない方は、こちらでお経をあげておきますということにして。
コロナだしあまり来られないかなと思ったのですが例年比で8割の方が来てくださって、しかも「時間が決まっているので、ゆったりお参りできてものすごく楽だった」と大好評でした。

遠藤 意外にもシンプルな発想が大正解でしたね(笑)

庄司 昼食の提供もやめましたが、こういうご時世なので皆さん当然のこととして受け入れてくれました。その分、粗供養(法要参加者への御礼の品)をトートバッグなどの少しこだわったものにするなど工夫はしました。

遠藤 レジ袋有料化がありましたもんね。ナイスアイデアです。
参加者側にとっても、通例の変更について受け入れやすいタイミングだったと思います。

庄司 何十年もやってきた施餓鬼の形を「分散予約型」に変えるというシンプルなことを、なぜ今までやらなかったのか?と思いましたね。

私は元々教員をしていたので、お寺への深い関わりは退職してからになるのですが、お坊さんって「お師匠から言われた通りにやる」とか「うちの寺はずっとこうやってきた」とか、案外 “呪縛” というか、あまり外の方に発想が向かないことがありがちだなと思います。私もそのパターンだったということですが(笑)

遠藤 たくさんのお坊さん達と接してきていますが、そのように感じることは多々あります(笑)

庄司 その点、未来の住職塾のありがたさというのは、多岐にわたるお寺の事例や報告を聞けたり、またFacebook等でリアルタイムに活動を見られることですね。色んな発想の中から、自分にあったやり方でやっていこう、という気構えが身にしみていたので、夏のお施餓鬼のやり方も変えられたのだと思います。

遠藤 伝統を変えることには勇気がいりますが、その後押しとして未来の住職塾のコミュニティが活かされているのであれば嬉しいです。

▼ 【法華寺の夏】イメージムービー。夏のお寺の美しさ、、、

霊園事業は禍転じて福となす

庄司 他に変化といえば、霊園事業ですかね。
世の中の向きとしてお墓を求める方が減ってきているので、事業としてはここ4〜5年は停滞しています。そこにコロナの打撃があり、霊園を管理してくれていた会社が引き上げるということになりました。
統括してくださっていた担当者が、非常に能力があって人柄の良い方だったのですが、その方も関東に転勤せよという話になったんです。しかし気骨のある人なので「それだったら会社を辞めて独立する!」ということで、うちのお寺を活動拠点として法人を立ち上げられました。

遠藤 それは心強い仲間ができましたね!

庄司 撤退の決定があまりにも急だったので、管理会社の社長さんも謝りに来られました。私も前向きに考えて「ほなこちらの自由にさせてもらおう」ということで、その独立された方に霊園をお任せすることにしました。
その方が丁寧な案内をしてくださったり、霊園のみをPRするのではなく、お寺や住職の活動も一緒に紹介してくれる等、光がさしはじめました。
これまでは維持するだけで精一杯だった霊園が、変わりそうな予感があります。私としても楽しくなってきました。良い人材が来てくれてありがたいです。

遠藤 「楽しくなってきた」ことがすごくいいですね。お二人が協力して創意工夫をいれていくことで、新たなご縁が広がっていきそうです。まさに「禍転じて福となす」ですね。

魚心あれば水心、な音楽会

庄司 私は結構ガチガチな人間なので、これまで「自分が楽しくなければいけない」という発想がなかったんです。「自分は縁の下や」とか「一所懸命祈るだけや」なんて思ってたんですけどね。でもほんとに縁とは不思議なもので、4月にとある印象的な出会いがあったんです。

遠藤 不思議なご縁の話しは好物です!どうぞ(笑)

庄司 4月のはじめに、ピアニストと篠笛の演奏者の二人がふらっとお寺を訪ねてこられたんです。知り合いからの人から「山にお寺があるよ」と聞いたらしく。桜がきれいな時期だったので見ていただいて、その時はそれだけのことだったんです。自己紹介のカードなどをいただきました。

うちの寺の秋のお彼岸は、夜に「逮夜参り(たいやまいり)」と言って地元の方だけがお寺にお参りに来られるのですが、今年は少し寂しさを感じていました。というのもコロナで「だんじり祭り」が無かったので、村の雰囲気がいつもより静かだったんです。いつもなら私がお経をあげていても、近くの小屋から太鼓が鳴ったりするのですが、今年は全く無い。
村の方たちもあまり出歩けないので、例えば好きな北島三郎さんの演歌のショー等にも行けないという話しも聞きました。

それでふと、その音楽家の二人に演奏してもらおうと思いついたんです。

遠藤 逮夜参りの音楽会、私も参加したかった!

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庄司 当日は雨だったのですが、本堂の後ろ側の片隅がその二人に言わせると「趣きがある」と。その角をステージにして、ご本尊に向かって演奏してもらいました。
すると彼女たちの演奏する音と、本堂の飾りと背景などがマッチして、私自身がすごく感動してしまったんです。

遠藤 いいですね!

庄司 遠藤さんは東京のお寺で「お寺の音楽会 誰そ彼」というイベントをやっておられますよね。うちは山寺だし駐車場からも少し距離があるので、同じようなことはできないと思っていたのですが、やってみたらあまりにも素晴らしい演奏会になりました。
結局自分が楽しいと思うと私の顔もやわらぐのか、来た人も楽しそうでしたし。自分がウキウキと前向きにやっていくと、いろいろなものが広がっていくなあと感じました。また来春やりたいです。

霊園のことも先が暗い事業に思えていたのですが、独立してまで関わってくれる方と一緒にやれば「楽しそうやなあ」と思ったりね。

コロナの影響かどうかわかりませんが、今までのガチガチの自分よりももっとやわらかく楽しく広げていったほうがいいのかな、というのが最近の実感です

遠藤 すごくよくわかります。私も同じ実感があります。
一緒にやる人が誰なのかということも重要ですよね。きっと、霊園事業で独立なさった方も演奏家の方々も、庄司さんのお人柄や法華寺の魅力に引きつけられたのだと思います。
楽しい気持ちで集まった人たちがやっていることが良い雰囲気をつくりだすので、演奏会に来られた方も一緒に楽しまれたのだと想像します。

庄司 逮夜参りに来られる方は年配の女性が中心なので、演奏家のお二人に「うちは演歌世代ですよ〜」なんて言ってたんです。すると色々な曲をうまくアレンジしてくれて、美空ひばりが歌っていた民謡の「田原坂(たばるざか)」なんかも演奏してくれました。

遠藤 それは皆さん喜びそうですね。

庄司 実は来られた檀家さんの中に気難しいお爺さんが一人いて、ひょっとしたら途中で「こんなん聴いてられるか!」と言いかねないような方なので、少し緊張していました。
でもその「田原坂」が演奏された時に涙ぐまれてですね、終わってから感想を聞くと「自分の先祖が西南戦争に行っていたことをありありと思い出して、涙がおさえられなかった」と仰ったんです。

遠藤 「田原坂」はたしか、西南戦争を歌った民謡ですよね。

庄司 なんか、、、仏様のお導きとは凄いもんやなと思いましてね。演奏家の二人も音楽会を撮影してくれた方も、心根のすごく良い方なんですよ。自分のことよりも、人のことを先に考えるような方たちなので、「引き寄せの法則」って私はあまり信じていなかったのですが、ほんとそういう「呼び合う」みたいなことってあるのかなと思いましたね。

遠藤 また春の演奏会が楽しみですね。

庄司 これまではお経と法話だけでやっていましたが、音を交えるともっと良くなると思いました。以前に遠藤さんが「お寺の音楽会 誰そ彼」をやっているのをFacebookで見た時は、まさか自分が音楽会をやるなんて考えてもみなかったのですが、思えば我々は3つのことで本堂を荘厳するんですね。一つは「道場荘厳」と言って布や金で、道場としての本堂をお飾りすること。あとは「威儀(いぎ)荘厳」として僧侶が衣をつけて立ち振舞いを美しくすると。最後が音の荘厳ということで「音声(おんじょう)荘厳」なのでね。

遠藤 えー!そうだったんですね、、、。

庄司 だから演奏会の時に、「音声荘厳」が本堂に溢れていたことが、ものすごく胸をついたんです。ピアノや篠笛の美しい響きをご本尊や日蓮聖人の御尊像がしっかりと見守っている構図になったので「道場」「威儀」「音声」の3つの荘厳がバチッと揃った!と、私自身が感動しました。

遠藤 私がお寺の音楽会を始めた頃もそうだったのですが、お寺に馴染みがない者にとっては神聖な空気感やお香の香りが漂う本堂は、音楽を聴く環境として捉えていなかった場所として、とても特別感のあることです。だから演奏されたお二方も嬉しかったのではないかと想像します。

▼ 法華寺ミニコンサートの様子はYoutubeでご覧になれます!


笑う門には福来る、報恩感謝を大切に

遠藤 最後にこれからの庄司さんのことをお聞かせください。

庄司 今日一日がいっぱいいっぱいで、住職塾で考えた「5年後のお寺」「10年後のお寺」の未来像も、結局は今日の地続きのことなので明確にはわかりませんけども。ただ、根本には神仏を大切に、神仏への感謝の場をしっかりと持って、仏事・供養・報恩感謝を懸命に続けていくことしかないと思っています。
ついつい「新しい取り組み」「新しい方法」みたいなことに意識を持っていきがちなのですが、うちのお寺はお水が湧き出ているという霊験のありがたさが中心にあるので、まず一番は神仏への感謝をやろうと。その感謝から慈悲をいただいて、我々は営みを続けている。ここに尽きるという感じがしますね。
だから、お寺の5年後、10年後の計画というレールがあったとしても、どうよれていくかわからない中で「神仏への感謝」だけは不変のことだと思っています。

遠藤 私も感謝は大事だと日々感じます。神仏はもちろんのこと、自分の周りの人たちに対してもですね。

庄司 真摯に感謝を伝え続けると、エネルギーを頂けるというかね。それが慈悲というものなのか、不思議な力なのかわからないですけど。
初詣とかでまず「合格!」とか「無事に!」とかお願いをしがちですが、先に感謝をするようになれば、世の中はもっと神仏のパワーに満ち溢れるのかなあと。そういう気がしていますね。

遠藤 法華寺さんには水が湧いているので、神仏に対する感謝の気持ちや思いを向けやすい場なんだと思います。水が湧いているところにお寺があって、代々お寺がずっと続いてきたことが、単純にありがたいと感じます。そこで暮らされている庄司さんはもちろんですが、お参りされた方にとっても同じだと思うので、霊水に親しめる機会というのはずっと大事に続けていただきたいと思います。

そんなことをいいながら、私はまだ法華寺にお参りしたことがないので、次に関西へ行くときには是非訪ねたいと思います!

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お寺について

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名称:法華寺(ほっけじ)
宗派:本門法華宗(ほんもんほっけしゅう)
住所:大阪府 南河内郡 河南町 加納247
HP:https://hokkeji.info/

インタビュアープロフィール

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遠藤卓也未来の住職塾ではクラス担任をつとめる。共著書に『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。「お寺の場づくり」をテーマに、IT・広報・イベント制作の分野でお寺をサポートする。また「音の巡礼」というプロジェクトでは「音がつなぐ、あたらしい巡礼の旅路。」をコンセプトに、お経からはじまる新しいご縁のあり方を探求中。


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