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【EURO2024】スペイン代表のプレスから紐解くフットボール|FBaseマガジン#104

毎日熱戦が繰り広げられている、ヨーロッパ王者を決めるEURO2024がドイツで開催されている。毎日、毎晩、毎朝、サッカーの最高峰を目の当たりに出来るので寝不足になっているサッカーファンも多いはず。

そんな強者が揃うEURO大会の中で今回はスペイン代表にフォーカスして話をしていこうと思う。

スペインが入ったグループBは今大会の中でも難敵が揃う”死の組“。EURO前回王者のイタリア、W杯ベスト4のクロアチア、イタリアでプレーする選手が多いアルバニアがスペイン代表の同組となった。

厳しいグループに入ったスペインだったが、1試合目でクロアチアを3-0、2試合目でイタリアを1-0と退け早々にグループ突破を決めてみせた。

伝統的なボール保持、攻撃力はさる事ながら、今大会のスペイン代表は非常にボール非保持局面の圧力が凄まじい。そこで今回はこのスペインのボール非保持、プレッシング局面にフォーカスしてフットボールを考えてみたいと思う。

クロアチア戦とイタリア戦で見せたスペインのプレッシングを参考に話を進めていく。

① vsクロアチア。IHの捨て方。

スペインのEURO2024の開幕戦の相手となったのがクロアチア。今大会屈指の好カード。

両チームのベース配置は[4-3-3]。同じの配置だからこそ見える、両チームの狙いや思惑の違いが見られて非常に戦術的にも面白いゲームだった。

▽クロアチアのプレッシング

まずはクロアチアのプレッシング局面の話から。どのような狙いを持ってクロアチアはスペインのボールへ圧力に行ったのか。そしてスペインはそれをどの様に交わしていったのか見ていく。

前述した通り、両チームのベース配置は[4-3-3]同士。その配置を噛み合わせると下記の通り。

ボールを奪う側、プレッシングをかける側からすると、プレスが掛からない場所が二つ出てくる。

どこがプレスがかかりにくい?

それはアンカーと、2CBの選手だ。

クロアチアはスペインのアンカー.ロドリに対して、所属クラブが同じのコヴァチッチをマンマーク気味で監視した。

スペインのボール保持の潤滑油であるロドリを制限。しかし問題はもう一つあるはずだ。2CBの自由を奪うことだった。

あえて2CBにボールを持たせて、彼らのボールの出先を防いでインターセプトをしたり、長いボールを回収したり、ミスを待つやり方もあるが、クロアチアが選んだ選択はIHを押し出すことだった。

IHのモドリッチを縦に押し出して、CBへ圧力

前半IHのモドリッチが再三スペインのCBへ牽制に出るアクションが見られた。

コヴァチッチ、モドリッチに加えてもう一人の中盤ブロゾビッチはペドリの監視役に回った。

スペインのボールの出所に確かにクロアチアはボールへ出る構造を作り出した。しかしIHのモドリッチが前に出ることで生まれるスペースがある。

スペインはその開くスペースを見逃さすことなく再現性を持って前進していった。

フリーとなったIHファビアンを起点に前進したスペイン

左CBナチョはボールを持つと、モドリッチが前に出てくるタイミングで左SBのククレジャへボールをリリース。ボールを受けたククレジャはハーフレーンで待つIHファビアン・ルイスへ斜めのパス。これによりフリーとなったファビアンが前を向き、悠々とドリブルで前進していった。

IHのファビアンは、状況に応じてハーフレーンだけでなく、大外のレーンまで移動してボールを引き受けて、クロアチアのプレスの穴をどんどんついていった。

クロアチアのプレスは簡潔に説明すると、同サイドのIHを捨てるプレス。同サイドのIHをぼかす事でCBへ、ボールの出所へ圧力をかけるプレッシングだった。

フリーとなったファビアン・ルイスからボールは前線へ渡され、一気に右のワイドで待ち受けるヤマルへ届けられて、スペインは攻撃の圧力をどんどん強めることに成功し、前半だけで3点のゴールを奪ってみせた。

それでは次はスペインのプレッシング局面の話へ。クロアチアのプレッシングが同サイドのIHを捨てたプレスと表現したが、スペインは逆サイドのIHを捨てたプレスと表現と表現できそうだ。

▽スペインのプレッシング

スペインはクロアチアが後方でボールを持つと高い位置から分厚い圧力をかけていった。

[4-3-3]同士だと前からプレスに出るとかかりにくい場所、選手が現れる問題はスペインも同様。

そこをどの様にスペインは回答していったのか?

スペインもトップに加えて、IHの選手を一列前に押し出してCBへプレスに出た。

ペドリが前へ。

IHのペドリが前に上がり積極的にボールの出所を抑えにいく。IHが前に出る事でボールの出所への圧力はかかるが問題はその後ろ。ボールの出先に時間とスペースを与えてしまう。

クロアチアの中盤3枚。IHもペドリが前に出てしまうと構造的に中盤に数的不利となるがそこはどうしたのか?

その答えはこちら。逆サイドのIHを捨ててボールサイドの中盤へどんどんプレスに出ることだった。

アンカーのブロゾビッチはIHのファビアン・ルイスが。ボールサイドのコヴァチッチにはロドリがしっかり圧力。これによりクロアチアの左側。スペインも右側で何度もボールを回収し、高い位置でボールを奪い攻撃へ移行する形を作り出すことに成功していった。

ボールの出所押さえに前からプレス。IHを押し出す。という枠組みはクロアチアもスペインも似ていたが、IHの捨て方だけでこれだけボールへの圧力が変わるのかと非常に面白かった。

しかし、徐々にこのスペインの分厚いプレッシングを交わしていったクロアチア。試合は大差をつけられたが、彼らの戦いぶりの勇敢さ、スキルの高さを見せつける様な内容でもあった。

どの様にしてクロアチアは前進していったのかをこの章の最後に付け加えたいと思う。

▽クロアチアの前進

クロアチアは個人の質と、チームの構造でスペインのプレスを剥がしていった。

終わってみればクロアチアはスペインよりも長くボールを保持した。

スペインがボールを保持率で相手より下回るのは実に137試合ぶり。凄まじい数字。しかしそれでも結果は3-0とスペインの勝利。新たなスペインの強さを象徴する様な。反対にクロアチアのボールを保持する高さ。両方が見えた90分だった。

スペインのプレッシングに対して、まずはあの男が動き出す。プレス耐性が非常に高いコヴァチッチが持ち前の剥がす力、ボールを奪われない力でスペインのプレスのズレを作っていった。

タイトなマークをひらりと交わす職人

縦パスを縦に落ちて受けるコヴァチッチ。ロドリのマークを背負いながらも、少しづつプレスを受け止め、剥がし、チームにリズムをもたらした。

今大会で改めてコヴァチッチのプレスを剥がす力の高さを見せつけてくれているパフォーマンスを披露している。

次はチームとしての対応。
両SBを高い位置に上げて、ワイドの選手を中へ中へ配置を変更。

中盤のオーバーロード

これによりスペインのWGを押し下げ、中盤に数的優位を作り出す。中盤に人が多くなれば当然スペインの中盤の選手のプレスの出だしも遅れていく。

そして前に出た中盤の背後。特にアンカーロドリの脇のスペースを突いて、浮き玉の斜めパスを多用して前進し、何度もシュートまで持ち込んだシーンは本当にお見事でした。

② vsイタリア。可変時間と誘導方向。

それではスペインの第二戦目となったイタリア戦。スペインのプレッシングを中心に話を進めていきますね。

イタリアは今大会2CBに左利きの選手を並べるのが特徴。そしてボールを保持した際には最終ラインが左肩上がりに可変して、全体の構造を変えていくのがボール保持局面の特徴となっている。

そんなイタリアの特徴を消しにいったのがこの試合のスペインのプレッシングだった。

イタリアはボールを保持するとベースの[4-3-3]から後方3枚の[3-2-5]の配置へ可変していく。

これに対してスペインは可変3バックには3トップを。ジョルジーニョとバレッラにはIHの二人がガチっとマークを噛み合わせていった。

上記の3枚の画像の様にスペインは可変したイタリアのボール保持の自由を奪っていった。

またスペインはプレスを右から左へと誘導するシーンが多かった様に感じる。

右から左へと。イタリア側から見ると、左サイドから中へ、右へボールが移るようにプレスを誘導。それにより3バックの中央に立つ左利きのバストーニは右足でボールを扱う機会が増える。そんな本の僅かな駆け引きもスペインは行っていた。

そしてもう一つが可変時間をイタリアに与えなかったこと。可変するには当然時間がかかります。自分の持ち場から移動するので当然時間がかかります。

イタリアが[4-3-3]から[3-2-5]へ以降される前にボールに出ていく。ハイプレスを仕掛けていく。

なぜ可変をしていくのか?それは見方を変えれば、ベース配置では都合が悪い。ベース配置のままではボールが動かし難い。起用する選手の特色を出せない。それらを解消し、選手の色をより引き出すのが可変する狙いの一つだと思います。

それでは可変する前にプレスをかけてしまおう。都合の悪い配置だったら相手のエラーは発生しやすい。そこを狙ってどんどんプレスだ!という思惑をスペインから感じました。

イタリアのGKに対してのスペインのプレッシングから、それらを一番感じました。

イタリアのGK時の配置

スペインはGKのドンナルマンから左CBのカラフィオーリへパス誘導。彼にボールが入ると外を切って、中への誘導。外を切られたカラフィオーリはGKへリターン。GKは左から右CBのパストー二へパス。そこに入った瞬間に一気にプレス強度を上げる。

再び右CBのパストー二が右足で触るように誘導してエラーを誘発。後半早々はこの形からスペインは何度もボールを回収し、決定機を演出していった。

強度だけでなく、緻密さもあるスペインのプレッシング。是非こんな観点で彼らのフットボールを観ても面白いですよ!という思い出今回のnoteを書かせてもらいました。

最後にイタリアはこのスペインのプレッシングをどの様に交わせたのか?を私の考えを綴って示させてもらいたいと思います。

▽イタリアはどんな対策をとれた?

まずは可変する3バックに噛み合わせてきたスペインのファーストプレスをどう緩和させるか。

中盤のジョルジーニョを最終ラインへダウン。後方4枚にして数的優位を作って時間を作る方法。それに合わせて、ハーフスペースに立つ選手のサイドへ流れる動きもあれば、後方と前線を繋げる役回りも出来たのかなと思いました。

次はGK。これは初期配置を少し変えるだけで、ガラッと変わったのかなと思いました。

右SBのディ・ロレンツォをGKの右側へ。右CBのバストーニをGKの左側へ。左CBカラフィオーリを左サイドへ押し出し、左SBディマルコを左肩上がりへ高い位置へ。

これにより左利き2CBは利き足で。右側にボールが入った時には右利きのディ・ロレンツォが右足でボールを触れる構造に。

またこのまま[3-2-5]の陣形を作れることもメリット。ボール保持の際で都合の良い配置でボールを動かせるメリットも生まれるのかなと思いました。

最後は私の妄想にお付き合い頂きありがとうございました。

いよいよグループリーグも終盤。これから決勝トーナメントも始まり、さらに本気度の増す戦いが見れるのが本当に楽しみですね。



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