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パンの美食学

日本のパンの現代史

今年も立教大学観光学部に開設されている辻調理師専門学校の寄付講座「ガストロノミーと観光」にゲスト講師として呼んでいただいた。今年はコーヒーとパンとメディアの3つのパートに分かれ、パンとメディアのところでお話させてもらった。

パンは、誰にとってもわりと身近な食べもので、ガストロノミーの入り口的な役割も果たすことができる。

私はアメリカの美食進化論と日本のパンの現代史、フレンチスタイルのベーカリーの話、おいしいパンの向こう側にいる人たちに一票を投じるということ、そして、メディア論のパートではブレッドジャーナリストとして大切にしていることなどを話した。

歴史を語るなら、ということで、学生に読んでおいてもらったのは、昔のインタビュー記事。そこでパンの愉しみかたについて存分に語ってくれているのは、メゾンカイザーの木村周一郎さんとヴィロンの西川隆博さんだ。二人とも、代々続く日本のパン屋さんの家に生まれ、日本の製パン技術がパリで世界一になった記念すべき2002年に前後して、オーセンティックなフレンチスタイルの店を東京にオープンさせた。でもフランスの食文化はフランスの食文化。日本でハード系のバゲットなどのパンがひろく普及するためにはもう少し時間がかかる。そのあいだに私がしたことは、おいしい食べかたのアイデアを、彼らのような人たちに教えてもらい、発信していくことと、自分の日々の生活のなかで、愉しみながら探ることだった。

2010年代には、もうひとつ大きな転機がやってくる。世界に向けて、「これが日本のパンです」と胸を張って言えるパンが続々登場するのだ。

そして2020年代……

オンラインの授業はラジオみたい

時間が限られていたので、濃縮した話になった。授業はzoomで行われた。聞き手の顔が見えない。声が聞けない。空気が読めない。まるでラジオみたいだった。コメントはチャットで入る。わーっと80件くらいいっぺんに来るので、面白い。でも果たしてわたしの話はちゃんと伝わったのか、zoomの授業など初体験だったし、心配だった。

後日、学生が提出したリアクションペーパーを読ませていただいている。それが素敵だった。

嬉しかったリアクション

お名前は知らされていないですが、先生の許可を得て、リアクションペーパーから、3つだけピックアップして、ここで共有させていただきます。

「パン屋さんに一票を投じるということ」というお話に興味を持った。普段買い物するとき、ただ自分が欲しいから買っているだけであって、そこには金銭的なやり取りが生じるだけという感覚だったので、自分にとって新鮮で興味を持った。よく考えたらあたりまえなことかもしれないが、日常的にそこまで深く考えることができていなかった。このような考え方は、幸せをより感じる考え方であり、生産者や買ったものそのものに対しての感謝も大きくなると思った。私のバイト先の居酒屋では、料理に使っている食材の生産者さんの写真が貼ってある。生産者の顔がわかる安心感と感謝の気持ちによるおいしさの向上の効果は確かにあると思った。 
これから、パンの時代において、自分の考えに基づいてパンを選ぶ、スタイルの時代がやってくるという話に興味を持った。パンを買う上で、自分は何を求めていて、何を大切にしたいか、それぞれの価値観に合うパンを選ぶことができる時代になる。価値観のなかには、値段や美味しさだけでなく、パンが作られる過程も含まれている。過程というのは、一つの物語であり、小麦粉の生産者の章、パン職人の章など、たった一つのパンにこの物語がギュッと詰まっていると思う。ストーリーを知ることで、目の前のパンにありがたさや愛おしさを感じ、より美味しく食べることができる。過程を重視して食を選ぶことは、私たちの食を豊かにする大切な視点だと感じた。食だけでなく、身の回りの物も「過程」を知ることで、見え方が変わってくると気づいた。持続可能という言葉がますます重要になっている今、物が作られる「過程」を積極的に見る必要があると考える。
清水さんのパンの話は、とても優しくて心に残るものだった。素材を生かすことで美味しいパンが出来上がる、すっぴんで勝負するパンなどとおっしゃっていたことからやはり基盤が重要なのだと思った。パンを食べるときにただ消費するのではなく、生産地や作った人のことに目を向けることはガストロノミーにおいて大切であり、食べることへの愛に繋がると考えた。ぜひ、わたしも実践していきたい。

まだまだ他にもたくさんご紹介したい気持ちです。
何かいいことのきっかけになれば嬉しい。

受講された学生の皆さん、辻調理師専門学校の小山先生、西川さん、木村さん、どうもありがとうございました。

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