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史上初の現代の茶道映画

史上初の現代劇のお茶の映画といわれる『日日是好日』(2018)。その舞台裏を原作者の森下典子さんが書いたのが『青嵐(せいらん)の庭にすわる 「日日是好日」物語』で、これがとてもおもしろかった。

映画制作の現場は、素人にはいちいちおもしろい。
四季を感じさせるあの映画をたったひと月で撮ったなんて、映画ならではのマジックだ。黒木華や樹木希林の女優としてのすごさも感動的だ。原作者としてそこに立ち会えるのは、どんなに胸躍ることだっただろう。

けれど森下さんは原作者としてだけではなく、スタッフとして茶道シーンの一つひとつが正しいかどうかをチェックする監督をすることになってしまったというからさぁ大変。
茶道を嗜む人ならこの大変さが理解できると思う。季節によって設えは変わるし、棚などの道具によって、お茶の点てかたも少しずつ変わる。畳何目に何をどのように配置し、どちらの手でそれを置いたり取りあげたりするかまで、細かく決められている。撮影現場に設えた道具や、役者の所作が合っているかどうかを即座に判断しないと次のシーンが撮れないなんて、プレッシャーもいいところだ。
しかも、主な出演者もスタッフも、誰ひとりとして茶道の経験がなかったなんて(それがあの映画になったなんて)!おもしろすぎる(当事者でなければ)。

森下さんはスタッフに稽古を体験してもらう。それは映画をスムーズに進めていく上で、道具や動作について知っておいてもらえる、とてもいい思いつきだった。
樹木希林は茶道の先生役で登場するのだけれど、見せどころの初釜での濃茶の点前のシーンは、忘れてしまうからと言って、なんと撮影の前日におぼえたという。森下さんが三度、目の前でお点前をするのを見た樹木さんは、それに続いて三度、自分でお点前をし、「わかりました……」とだけ言ったという。そして翌日の撮影で樹木さんは茶道の先生そのものだったのだ。







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