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ま、マレーシアンチップ?!法外な価格のエフェクターがまた。。。。

みなさん、お久しぶりです!
完全オリジナル回路/独自機能搭載ハンドメイドエフェクターブランド、ファッツサウンドラボラトリー(FSL)の厚木ファッツです。
実は珍しく体調を崩しまして、ようやくほぼ元通りになりました。。。
現在所属してます昼の仕事(?!)の会社(外資系半導体メーカー)では、今までの僕のキャリアで僕が全く未経験の分野をやっておりまして、日々襲いかかってくる新いことに必死に対応しています。
その疲れがちょっと出たのかもですね。。。
ほんとにここ数年、元気すぎてピンピンしてたのですが、もう歳ですかねぇ。。。
正直僕がやってるFSLだけでは全然食えませんので、昼の仕事もやってるのですが、50を超えて全くやったことのない分野をやり始め、もちろんその道のベテランの方と同じようなパフォーマンスを求められますとやっぱり辛いですね。。。
ここ数年、毎日緊張しっぱなしです。。。
この歳になりますと覚える量より忘れる量の方が多いので、キツイ!!
ま、しかし自分で言うのもナンですが、新しいことにチャレンジする姿勢は評価できるかな、と!

それはさておき、今日はまた楽器業界によくある迷信についてお話ししたいと思います。
インターネットの楽器ページなどを見ておりますと、歪みエフェクターの新製品をよく見かけます。
あー、またこんな何が付加価値かわからん製品が出たな、ケースだけ綺麗にペイントはしてるものの、肝心要の音的には今までのとどうちゃうの??みたいな感じですけど。。。
その中に”マレーシアンチップ搭載”!!!!と謳って、べらぼうな価格で売られている歪みエフェクターがちょいちょいあるんですよ。。。
マレーシアンチップ??
何ですか、それ??
はい、これオペアンプのことです(チップ=半導体チップ)。
いわゆる”4558”という型番のオペアンプで、僕も使っていますが、そのマレーシアンチップというのはマレーシアの工場で製造されたオペアンプのことだそうです。
このオペアンプが法外な値段で取引されており、このオペアンプを使った歪みエフェクターもまた法外な価格で売られています。
なぜこのマレーシアで製造されたオペアンプがそれほどの価格で取引されているのかと言いますと、有名なギタリスト/シンガーのスティーヴィーレイヴォーンさんが使っていた歪みエフェクターに使われていたオペアンプがマレーシアで製造されたモノ、マレーシアンチップだったから、ということだそうです。。。
スティーヴィレイヴォーンさんと言いますと、一般的にはブルースミュージシャンと言われていいて、人気が出始めた頃に移動で乗っていたヘリコプターが墜落して、若くして亡くなったミュージシャン/ギタリストです。
僕が大学生の頃だったでしょうか、朝まだ寝ていると洗濯を干しにきた母親が僕を起こし、”スチーブなんちゃら言う人が死んだらしいで”と言いました。
スチーヴ???誰やそれ??
そこで朝刊の訃報の欄を見るとレイヴォーンさんが亡くなったという記事が出ていました。
僕はブルースという音楽には本物(というと語弊があるかもですが。。。)の黒人ブルースマン、マディウォーターズさんからのめり込みましたので、正直レイヴォーンさんがやっている”ブルース”はロックにしか聴こえず、全く興味がなかったんです。スライドギターの神と言われているデュアンオールマンさんも、エルモアジェイムズさんから入った僕からすると、ハワイアンにしか聴こえませんでしたし。。。(炎上するな、これ!)。
ということで、その訃報記事を見てもふーんという感じでした。
しかし世間は大騒ぎ。
ジミ・ヘンドリックスさん然り、天才と言われるミュージシャンは早死にするようですね。。。
死後30年以上経った今でもレイヴォーンさんの人気は衰えるどころか、ますます神格化されているように思えます。
そんな”神”レイヴォーンさんが愛用していた歪みエフェクターにそのマレーシア製のオペアンプが載ってたもんですから、そりゃそのエフェクターもオペアンプも神ですよ。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いではないですが、レイヴォーンさん神ならマレーシアンチップも神、という理屈です。

で、まあ楽器業界あるあるなんですが、そのマレーシアンチップは音がいい、そのオペアンプでないとレイヴォーンさんの音は出ない、ということなんでしょう。。。。
一連の僕の記事で何回も書いているように、需要と供給が一致すれば、それがどんな価格で取引されていても何の問題もありません。
しかし、現役バリバリの半導体回路設計者で、オペアンプも設計していた僕から言わせますと、ちょっと待て、ということなんですよ。。。

結論から言いましょう。
オペアンプの製造場所がどこであれ、基本的に性能は変わりません。
いえ、逆に変わったら大問題なんです。
僕も経験があります。
僕が設計したオペアンプの製造場所を変えたことがありました。
変えた理由は製造キャパの問題や、コストの問題で、変えた方がより利幅が増えるという企業ではごく普通の営利活動の一環です。
マレーシアンチップと言われるオペアンプもそういう理由で製造場所が変わったと思われますが、脈々と売っている製品の製造場所が変わったことによってその性能が変わると、既にそれを使っているお客さん(電気機器メーカー)に迷惑がかかりますよね?
その電気機器メーカーは今までのオペアンプの性能を基本にして自分たちの電気機器を設計〜製造しているわけですから、使っているオペアンプの性能が変わると、自分たちの電気機器の性能も変わってしまう。。。
下手すりゃ性能、機能が破綻して、設計のやり直しになります。。。
実際、お客さんは半導体ICの製造場所が変わることをすごく嫌がります。
上記のように性能や信頼性の耐性が変わることが考えられるからです。
特にカスタム品(お客さんからの依頼で開発した製品)の場合は、製造場所を変えても半導体製品の性能が変わっていないということをきちっとデータで示して納得してもらう必要があります。
カスタム品ではないいわゆる汎用品でも、大口のお客さんにはきちっと説明する必要が出てきます。
ということで、半導体製品、IC,オペアンプを製造販売する側から言いますと、製造場所を変えたことによる性能の変化は御法度、最初にリリースしているデータシートに記載されている性能は死守する必要があるんです。
なので、製造場所をマレーシアにしたところで、性能は変わらないんです。

もし100歩譲って性能が変わっているというのであれば、もちろんオペアンプメーカーはデータシートに記載されている数値を変更する必要がありますが、実際”マレーシアンチップ”と言われているオペアンプのデータシートの数値は変わってますか?
変わっているなら、どの電気的項目が変わっていて、それが歪みエフェクターの回路動作にどういう影響を与えていますか?
これに対するきちっとした回答がない限り、マレーシアンチップが他とは違うなんて言えません。
にも関わらずマレーシアンチップは良いなんていうと、もう迷信の世界です。。。

もう少し言いいますと、半導体の製造には前工程と後工程という2種類の工程があります。
簡単に言いますと、前工程というのは半導体(シリコン)ウェハに、設計された回路を焼き付けて”チップ”を作る工程で、後工程というのはそのチップをあの黒いプラスチックパッケージに封印していわゆる”ゲジゲジ”を組み立てる工程です。
両方半導体IC,オペアンプの性能に影響を与える工程ですが、どちらかというとチップを作る前工程が重要かもですね。
そしてそのマレーシアンチップは前工程がマレーシアになったのか、後工程がなったのか、はたまた両方なのか?
それによってオペアンプの性能に与える影響も変わってきますので、そういう議論も必要です。
しかしネットを見ていると、そのマレーシアンチップを高値で売ってる人たちはチップとICそのものの区別もついていないように思えますね。。。

ということで、オペアンプの製造場所による性能の違いはまずないと言って良いでしょう。
それを理解しつつ、マレーシアンチップの希少性か何かに付加価値を感じるのであれば、それを法外な値段で買うことをもちろん僕は止めません。
しかし、売る側が”マレーシアンチップでないとあの音は出ない”なんていうのは僕は批判します。
もしそういうのであれば、データシートを示して、変わっている性能が回路的にどう影響を与えるのかの説明をしてほしいですね。
あ、僕からそういう売り手のサイトなどに言って説明を求めるようなことはしませんので、ご安心を!
僕も”大人”なのでー。。。
では以上、お読みいただいてありがとうございました。

ファッツサウンドラボラトリー
 厚木ファッツ

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