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“即断と追求”で映像×ビジネスを拓く(後編)~倒産危機の先に築く“愛”ある会社

映像制作を軸に、デジタルマーケティング、ITスキル特化の就労移行支援の運営を行う株式会社ファストモーション。
前編では創業者で代表の藤沢の半生と映像制作との出会いについてお伝えしました。
後編では会社設立までの過程と創業期の苦労、これからの展望に迫っていきます。

準備万端で臨んだ会社設立

天職とも言えるブライダルの映像制作に出会った藤沢でしたが、フリーランスを経て2016年10月に株式会社ファストモーションを設立し、より幅広い領域に挑戦していく道を選びました。
独立することは20歳の頃から決めていましたが、すぐに起業しなかったことには理由があります。

というのも藤沢は一クリエイターではなく、経営者を目指していました。そのためには営業接客や集客、ディレクション、経理などビジネスに関する実務面を一通り経験する必要があると考えたのです。

「カメラマンは経営者になる過程で稼ぐための手段という位置づけでした。だから撮影ができるだけで独立しても先がないと思いました。
経営者として成功するにはビジネスのあらゆる側面を一通り経験しておいた方がいいだろうと考えたんです。
なのでカメラマン以外の業務も人一倍頑張った誰にも負ける気がしなかったですね。」

フリーランス初年度から1000万円を超える売上を達成した26歳の藤沢は、2016年10月に会社を設立します。

創業当初の事務所

「独立するのは怖くなかったのかとよく聞かれますが、人はもともと保守的なのだと気づいていたので反対されることが多いだろうなと思っていました。
重要なのは自分でやると決めて、それに向かってしっかり行動していくことです。」

決断の“はやさ”こそが一番の保険

物事の決断に対する藤沢の考え方は『ファストモーション(Fast Motion)』という社名にも込められています。

「動きが速い、納期が早いなどと思われがちで実際そういう側面もあるのですが、本来の意味は『決断スピードがはやい』ことです。
大きな物事であるほど人はじっくり悩みがちだと思いますが、基本的に私は5分しか考えないです。そこで決断できなければ、先延ばしにしたところで出す結論は9割方は変わりません。
仮にそれがもし間違った方向にだったとしても、早く気づければ修正できるので結果有効に使える時間が増えます。
だから“はやい=Fast”は仕事のスピードではなく、決断に対するはやさを表しています。」

ただ、藤沢は自身の性格を「周りが思っているよりすごく臆病」と評しています。
一見臆病になるほどマイナス思考になってスピードある決断や行動はできないように思えますが、藤沢はむしろその逆だと言います。

「私は人に人生を預けられないんです。そういう意味で臆病。言い換えれば自分で責任を持ちたくて、そのための一番安全な保険が誰よりも努力して経験することでした。
だからこれはやるべき事だとわかったら、自身のリソース関係なしに即チャレンジした方がいいです。それを繰り返してたくさんの経験を積むことが結果保険にもなっていきます。」

管理者として人材育成の難しさを痛感

努力と経験に裏付けされた自信をつけ、ようやく経営者として一歩を踏み出した藤沢でしたが早々に大きな壁にぶち当たります。それが人材の採用と育成でした。

採用してカメラやパソコンを新たに購入・貸与し、数ヶ月間時給を払いながら自身の時間を割いてレクチャーしても、回収が始まる頃には辞めてしまうといったことが何度も続きます。
「ある程度の共通認識やビジョンがあれば人は自分と同じように一日中働くと思っていましたが、自分と同じ想いの熱量の人は極々稀であることを知りました。そして他人の仕事に対するスタンスはコントロールできないんです。正直一人で個人事業主でやっている方が楽で、部下を持つのはこんなに大変なのかと痛感しました。」

採用・育成の失敗は数百万円規模の損失を生んでしまいます。創業間もないファストモーションにとっては痛手だったものの、藤沢は新たな気づきを得ます。

「今まで本で知識は得たとしても自分に都合の悪いこと、受け取りたくないことは腹落ちしていなかったんです。カッコいい経営者像ばかりが膨らんで、マネジメントや人材育成の泥臭い部分はないがしろにしていた部分がありました。
目線を下げて部下と接するなんて生ぬるい、経営者としての権威力が足りてない!みたいな(苦笑)
だから人を詰めたり、辞めさせたり、途中で連絡が取れなくなったりしてしまうこともありました。
でも失敗を顧みる中で自分の我を突き通すことが経営者ではなくて、時にはスタッフ目線で対峙することが上に立つ者としてのレベルアップになると気づいたんです。」

コロナ禍の倒産ピンチをチャンスに変える3つの決断

痛みを伴いながら藤沢は徐々に本当の意味での経営者へと成長し、ファストモーションも10名程度の従業員を抱える会社になっていきます。

しかしこれからさらなる成長曲線をどのように描いていくか、考えている矢先に今度はコロナ禍が襲ってきました。
当時の売上の柱はブライダルを中心としたイベントの映像制作でしたが、それがほぼゼロの状態になってしまいます。

「月300万円ほどあった売上が6万円にまで減って、一方で給与の支払いが250万円分あるという状態。こんなに簡単にお金って溶けていくんだ…と思いました。
ありとあらゆるところを回って融資をお願いして、何とか会社を続けるために粘りました。」

達成率2.2% 売上¥60,500

会社存続のために金策に奔走する中で藤沢は3つ大きな決断をしています。
まずは自分の天職ともいうべきウェディングの映像制作を手放すことでした。

「もう明日からウェディングは完全にやめると決めました。そこから新規案件獲得のためにひたすらテレアポを始めました。
ウェディングは下請け仕事なので、あの時点で舵を切っていらずに待っていたら2年間消耗戦が続いていました。だから判断は間違っていなかったですね。」

次に従業員の削減に着手します。藤沢はこの時がとにかくつらかったと言います。

「僕についてくれば間違いないという言葉を信じて一緒にやってきたのに、裏切る形になったわけですから本当に辛かったですね。
みんなもコロナだから仕方ないと察してくれて、優しく去っていきました。その優しさがまた辛くて…一発ぶん殴って出ていかれた方がよっぽど楽だったでしょうね。」

そして融資に目処がつくと一転、採用を中心に一気に攻めに転じます。
というのもコロナ禍で世の中が止まっている時だからこそ逆転のチャンスだと藤沢は考えていたからです。

「コロナ禍で企業は戦略的に従業員を休ませていて、当然業務がストップしますから人材としての戦闘力が低くなっていきます。
ならば少々赤字でもいいから今のうちに動いていい人材を増やし、稼働させることでコロナ禍が明けてから最大限のパフォーマンスを出せる状態をつくっておこうと考えました。
ただその時点では会社には何もないわけですから、採用はただただ熱量を伝える以外にできることはなかったです。
今こそ他の人と差をつけるチャンスじゃないかと伝え続けて、少しずつ従業員が増えていきました。その上で案件獲得のために動いたらコロナ禍でも多少の売上は出せるようになっていきました。
当然それを上回る経費もかかっていたのですが、売上を上げている分助成金や補助金はもらえなかったりして、正直もどかしい思いもしましたね。
でもコロナ禍明けのうちのトップスピードはすさまじかったと思います。苦しい時期を乗り越えてきた分、その頃に入ってくれたメンバーとはマインドの部分もともにできている感覚がありました。」

仕事風景

新たなメンバーを迎え入れ、必死でコロナ禍の戦いを乗り越えた結果、数千万円あった借り入れはわずか2年半で完済に至ります。
自己破産の助言もありましたが、藤沢は「会社を潰すことは1ミリも考えなかった」と言い切ります。

「せっかく僕を信頼してお金を貸してくれたものを返さないというのは不義理に感じて。その後の人生の行動にも影響しそうだと思いました。むしろ完済したことで、さらなる自信がつきました。」

メンバー間の距離が近く、顔が見える会社

23年6月に新事務所に引っ越し

昨今仕事とプライベートをしっかり分ける企業も多い中で、ファストモーションはメンバー間の距離が近い社風だと藤沢は言います。

福祉事業所のメンバー

「一緒に遊ぶメンバーもいますし、副業OKにしているのでそれがうまくいっていると褒め合ったりもします。
他の人の充実している話を刺激にして、自分も何か頑張ってみようとする作用が働けば、社内でライバル関係が生まれてプラスになると思っています。
あとはみんな効率化を考えていて、いい方法があれば共有して取り入れていこうとする文化がありますね。」

効率を上げるには業務を可視化し、日々の頑張りが見えるようにする必要があります。そのためファストモーションは原則出社勤務となっているほか、通常業務に入る前に勉強会や雑談会なども開催しています。

規模が大きくなるにつれ、徐々にファストモーションらしさが醸成される一方で藤沢自身の役割は変化し、気を付けるべきことは増えていったと言います。30人ほどの従業員を抱え、部署も複数に分かれるようになるとすみずみまでは目が届きにくくなってきます。

「一番気を付けていることは役職を飛び越えた業務の具体的な指示はしないようにしています。
例えば若いメンバーとの会話の中で業務面の相談をされ、何か言ったとしてそれが上司の指示と違っていた場合、『社長から言われたので』という形で報告されます。
そうなると立場がなくなったリーダー陣の士気が下がり、組織としての崩壊を招きかねません。
とはいえ話すのは好きなので、おしゃべりはよくしますけどね。概念は話すけど、指示はしないというイメージです。」

もちろん一人ひとりの社員を大切にしていないわけではありません。個々の頑張りを拾うことは社長の役割の一つ。
そのために藤沢はメンバーの誕生日には各部署のリーダーに働きぶりを聞き、直筆メッセージをしたためたバースデーカードを渡しています。

バースデーカード

ただの拡大路線より“愛”を持って還元を

ファストモーションは2021年4月から新規事業として映像編集をきっかけに障碍者の自立支援を行っていく就労移行ITスクールを横浜に開室し、複数店舗を運営するなど新しい領域への展開と社会貢献活動にも着手しています。

今後の目標として2027年までに全体売上10億円達成を掲げました。
コロナ禍からの復活が実質的な創業期で、短期間で驚異的な成長を遂げてきたからこそ、まずはそれを支えてくれたメンバーに還元したいと藤沢は考えています。

「10億円規模の会社になったら、いろいろ整えられることも増えると思うんです。今も有給や育休、福利厚生制度はありますがそれをもっと充実させたり、給与水準を上げたりして従業員の満足度や働きやすさをよくしていきたいです。
単にスケールさせることばかりを目指すのではなく、質も充実させたい。一言で言うと“愛”のある会社にしていきたいんです。…ちょっと恥ずかしい言い方ですけどね(笑)」

従業員が愛を持ち、リスペクトし合って関わる人を幸せにすることを目指せば、自然と人に喜ばれるものをつくっていけると胸を張る藤沢。
その原点を忘れず、ファストモーションはより大きく社会に還元するサービスを提供していきます。

※ 記載内容は2024年4月時点のものです


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