100%子会社(債務超過会社)との合併に関する必要手続と会計処理

概要

 業績の芳しくない子会社。親会社と合併させて固定費削減&親会社のリソースも用いて経営改善にあたる、ということもあろうかと思います。
 通常の子会社の合併と異なり、債務超過会社との合併は何か必要な手続等が変わりそうな気がしますが、どのような整理になるのでしょうか?今回は債務超過会社(100%子会社を想定)を消滅会社とする吸収合併について、その必要手続と会計処理についてまとめています。

債務超過会社との合併の可否

 そもそも債務超過会社と合併することはできるのでしょうか?EYのサイトに概要が記載されているので、以下にその一部を引用しておきます。

債務超過の状態にある100%子会社との合併は、会社法の条文上は明確な記載はありませんが、立法担当者の見解によると債務超過会社を消滅会社とする吸収合併は可能であると解されています

https://www.ey.com/ja_jp/corporate-accounting/qa/restructuring/qa-restructuring-2012-01-17-03

 改正前の商法下では債務超過会社との合併はできない実務となっていたようですが、現行会社法においては、債務超過会社との合併について特段記載されていません。書かれていないと言うことは債務超過会社とも合併できる理解です。また、上記引用箇所の通り、立法担当者の見解でも実施できるとのことです。

通常の吸収合併との手続の違い

 留意点は大きく二つ。
・合併承認の株主総会において、取締役から債務超過会社と合併すること(合併差損が発生すること)についての説明が必要にとなること。議事録に説明を行ったことを残しておくことも忘れずに。
・簡易合併は取れないこと。これは上場会社においては留意が必要です。特に簡易合併が取れないことについては正確な定義とともに押さえておきたいポイントです。なお、簡易合併については、以下の別記事をご参照ください。

 吸収合併との手続の違いは、上記の2点を押さえておけば基本的は十分かと思います。

吸収合併の会計処理(100%子会社との合併)

 子会社株式の簿価と、受け入れた資産負債の差額(純資産)を抱き合わせ株式消滅差損益として処理することになります。債務超過なので、受け入れた純資産はマイナスなので、抱き合わせ株式消滅差損が発生します。なお、受け入れる資産負債は、連結上の簿価で受け入れることになる点は留意が必要です。
 余談ですが、100%子会社との吸収合併では対価を発行することはできません。自身へ対価を交付することとなるためです。

上場会社における債務超過会社との合併

 上場会社においても債務超過子会社を吸収合併したいとのニーズもあるかと思います。ただし、上述したように債務超過会社との合併では簡易合併が取れないため、親会社における株主総会の特別決議が必要となります。この点、上場会社である親会社の株主総会にて特別決議を行うことは避けたい、という実務上のニーズがあるものと推察され、実際のところ債務超過会社とそのまま合併させることは少ないものと感じています。
 子会社が債務超過とならないよう、親会社から寄付や既存貸付金の債権放棄を行うなどして、債務超過を解消させて簡易合併させる、ということがケースとしては比較的多い印象です。もちろん債務超過でないこと(より正確には合併差損が生じないこと)以外にも簡易合併が取れる要件があるため、簡易合併が使えない場合には原則通り、親会社の株主総会で特別決議を行うことになります。


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