簡易合併の要件と実務上の留意点

簡易合併とは

 合併を行う際、通常は株主総会の特別決議を経る必要があります。ただし、当該合併が経営に与える影響が大きくなため、株主総会決議を経る必要まではないとして、一定の要件を満たす場合には株主総会の決議が不要となります。これを簡易合併といいます。
 今回は、この簡易合併の要件と実務上の留意点を整理します。なお、吸収合併を前提として記載しています。

簡易合併の要件

 存続会社側では、①合併対価の価額が存続会社の純資産の20%以下であること、②合併差損が生じないこと、この2点が主な要件となります。
 その他の要件として、存続会社の株式の全株式が譲渡制限株式であり、かつ、合併対価の全部または一部が当該譲渡制限株式である場合、一定数の株式を有する株主から合併に反対する旨の通知を受けた場合等、細かな要件は他にもありますが、まずは①②の2つの要件を頭の中に入れておき、実際に当たった際に細かい要件を照らして判断していくといいでしょう。
 100%子会社との合併を想定した場合、①の要件に関して、合併対価は交付しない(無対価合併)ため、簡易合併の論点は②合併差損が生じないこととなります。このため、親子会社間の合併は比較的実施しやすいものとはなりますが、この合併差損の定義は、名前から想像されるものとは少し異なりますので、気を付けておきましょう。(詳細は後述します)
 なお、消滅会社側では簡易合併を理由とする株主総会の省略は認められませんので、念のため記載しておきます。

簡易合併の手続

 基本的に、総会決議が不要になることを除けば、通常の合併の手続と同様です。また、簡易合併においては、存続会社の株主に株主に株式買取請求権はないのですが、合併したことをお知らせする株主への通知は必要になる点は留意が必要です。
 このことから、簡易合併の制度に利点のある会社会社とは、株主が分散しており総会決議を経ることが実務上煩雑な会社(上場会社等)が中心になるものと推察されます。
 なお、簡易合併の会計処理は、通常の合併と変わりません。あくまで、手続きが簡素化されるのみです。

実務上の留意点

 A:合併差損の定義、B:合併差損を判断するタイミングは迷いやすいポイントなので、その点を整理しておきます。
 A:合併差損の定義で一つだけ留意頂きたいのは、存続会社における合併前後の資産の増減額と合併前後の負債の増減額との差額を持って合併差損を判断することです。単純に受け入れる資産負債の差額をもって合併差損とする事では無いこと。すなわち、存続会社側で、消滅会社の株式を保有している場合は、当該株式は合併により消滅しますので、これを加味して合併差損が生じているかを判断しなければならないことになります。100%子会社との合併において、この点は落とし穴となりやすいので、必ず親会社における投資簿価(減損の計上予定含む)を確認する必要がある点を留意しておきましょう。
 B:合併差損を判断するタイミングも迷いやすいポイントです。直近の決算日を基準に判断するようにも思えますが、基本的には合併時の決算数値をもって簡易合併をとりうるかどうかを判断します。この点、合併時の決算数値自体は合併直前にはわからず、合併当日にも分からないため、実務上、合併差損が発生するかどうか微妙なラインの際には、念のため株主総会決議を経ることが多いのはないかと考えています。
 上場会社における子会社との合併では、簡易合併の要件を満たすために、親会社から寄付を行ったり、既存の貸付金を債権放棄する等で債務超過を解消させて合併効力発生をむかえるケースはそれなりの数見受けられます。
 いずれのケースにおいても必ず条文にあたって判断することが事故を起こさないポイントとなります。なお、この文章は私の記憶と手元書籍を頼りに書いているため、実際の事例にあたられる際には必ず条文もとにご判断されてください。

略式合併との違い

 似た言葉に「略式」合併というものがありますので、こちらとの違いを補足しておきます。こちらは、例えば親会社と100%子会社において、子会社側の株主総会決議(特別決議)が経られることがほぼ確実に見込まれるので、子会社側における総会決議を省略することができるものとなります。90%以上保有する特別支配会社であることが要件となります。
 90%以上保有する株主であっても略式合併が取れないケースはありますが、まずは特別支配会社であれば略式が取れる可能性がある、ということを押さえておきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?