ある元銀行員の話(番外) 元銀行員は見た

パン。

乾いた破裂音が支店中に響きわたった。それまで店内に流れていた、午後の緩んだ空気が一瞬にして凍りついた。私を含め、周囲にいた職員たちが一斉に席から立ち上がった。どこからの音なのか私が確認するより先に、ドスの利いた鋭い声が響く。

「金を出せ」

入口から入ってきたのは、大柄の2人組だった。体格からして男だろう。2人共、黒いシャツにジーンズを履き、黒い覆面マスクを被っていた。うち1人の右手には拳銃が握られ、銃口がこちらを向いている。今の破裂音はこの拳銃によるものだろうか。

「早くしろ、オラ」

拳銃を持った男が再び鋭い声でどやしつけた後、左腕をこちらに伸ばし、私の隣にいた上司を指差した。

「そこのお前、金持ってこい。他の奴は全員、壁を背にして立ってろ。手は頭の後ろだ」

「ぐずぐずしてんじゃねえぞ」

もう一人が、窓口カウンターに叩きつけるようにして大きなバッグを置いた。現金を詰める用だろう。

「さっさとやんねえと殺すぞ」

拳銃の男が、より一層大声で脅した。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ちょっとカッコつけて小説風に書いてみましたが、以前私がいた銀行で実施された防犯訓練の様子を再現してみました。だいぶ前ですが、ドラマ『花咲舞が黙ってない』でも銀行の防犯訓練のシーンが出てきたので、ご存じの方も多いかもしれません。

銀行の支店では、防災訓練とは別に、主に銀行強盗に狙われるケースを想定しての防犯訓練が定期的に実施されていました。支店のある市町村所轄の警察の協力のもとで行われ、実施日程は支店の全職員に事前に通達されています。

銀行強盗2人組は警察の方の変装なんですが、訓練と分かっていても、その迫真の演技にめっちゃビビります。何ならそこらの強盗より怖いんじゃないだろうか。いやだからこそ、いざという時に頼もしいんですが。訓練後には警察の方による講習を受けます。

前回の銀行シリーズで「次はコレ書きます☆」って言ってたのに横道に逸れてしまいました。どうもすみません。後日、ちゃんと続編を書きます。