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エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|喪失

『花ひらく黄昏』目次


 わたしは家で感じ悪くふるまい、相手にされなくなった。わたしは学校で感じ悪くふるまい、誰からも高く評価されなくなった。新任の教師のクラスに入れられるまでは。優しい風貌の女の先生で、豊かな――それは豊かな金髪だった。先生はわたしを信じてくれた。クラスの皆の前でわたしを褒めてくれた。わたしが質問すると耳を傾けてくれた。わたしは先生を愛した。宿題をやるようせかされる必要はなくなった。わたしの頭には宿題と学校のことしかなかった。一日また一日と日が過ぎ、太陽が毎日を照らしていた。

 黄金時代の最高の時! わたしの人生ではあとただ一度あったきりだ。

 長くはつづかなかった。ある日、漫然と休み時間をつぶし、つまさきで砂利を蹴っていると、先生が来て言った。「中等部で教えることになったの。明日からは会えないから、今日でさよならね」別の先生もいた。ふたりしてわたしの横に立っていた。わたしは何も言わなかった。ずっと砂利を敷いた地面に目を据えていた。先生はわたしが口を開くのを待っていた。それでもわたしは何も言わなかった。「悲しくはないの?」先生が言った。わたしは先生の顔を見られなかった。「ない」思わずそう答えた。「だから言ったでしょう」もうひとりの先生が言った。「ほんとうに薄情な子だよ」ふたりはそろって立ち去った。いまだにわたしは砂利を敷いた地面と学校の塀の一部と――両方に落ちた陽の光を思い描くことができる。一滴でも涙をこぼせば、声をあげて泣きに泣いただろう。ベッドに入る時間まで我慢しなければならない。わたしは我慢した。その晩、羽冠のある蛇は枕から立ちあがってこなかった――その後一晩たりとも。

 わたしは七歳だった。わたしは羽根のある蛇の世界を失い、わたしだけの世界を失った。


LOSS
Ella Young

館野浩美訳