「雪だるま」マンフレート・キューバー

クリスマスの童話。聖夜の愛の奇蹟。

「雪だるま」マンフレート・キューバー

 厚く雪が積もった森のなかに、芯まで雪でできた雪だるまがありました。雪だるまに足はなく、炭の目玉がついているだけで、ほかにはなんにもない、ほんとうに粗末なものでした。そのため雪だるまは、それはつめたく冷えていました。近くにぶら下がっているつららのおじいさんはきむずかしやで、雪だるまよりもっとつめたかったのですが、そのつららでさえも言うのです。

「おまえさんはつめたいな!」責めるように言われた雪だるまは、ムッとして言い返しました。
「あなただってつめたいじゃありませんか」

「だが、それとこれとは関係ない」つららはばかにしたように言いました。

 雪だるまはとても気を悪くしたので、もし足があったなら、さっさと行ってしまったことでしょう。けれど足はないのでそこにじっと立ったまま、いじわるなつららとはもう話さないようにしようと決心しました。そのあいだにも、つららはほかに文句の種を見つけました。道をやってきたイタチが、ふたりのそばを走りぬけたのです。

「おまえさんは長いな、長すぎるぞ」つららはイタチのうしろすがたにむかってどなりました。「わしがおまえさんみたいに長かったら、道を通ったりしないがね!」

「あなただって長いじゃありませんか」イタチはあきれて文句を言いました。

「それとこれとは関係ない」つららはふんぞりかえって言い、あまりに寒かったのでからだが大きくぽきぽきと鳴りました。

 雪だるまは、こんなしうちにふんがいして、できるかぎりからだをよじってつららにそっぽを向きました。そのとき上のほう、雪をかぶったモミの木の枝のあたりで笑い声がしました。見上げると、すばらしくきれいで、白くて、きゃしゃな雪の精がすわっており、長く垂らした髪を振ったので、たくさんの小さな雪の結晶が落ちてきて、かわいそうな雪だるまの頭に降りそそぎました。雪の精はますます楽しそうに大きな笑い声をたてました。雪だるまは、いままでにない不思議な気持ちになり、なんと言えばよいのかわかりませんでしたが、やっとのことで口を開きました。「なんだろう、あれは……」

「おまえさんとは関係ない」つららがばかにしたように横から口を出しました。

 それでも雪だるまはとても不思議な気持ちだったので、つららの言うことなどちっとも耳に入らず、ひたすらモミの木を見上げました。こずえでは白い雪の精がからだを揺らして長い髪を振り、たくさんの小さな雪の結晶を降らせていました。

 雪だるまは、まだ相手のことはなにひとつ知らないし、つららが言うとおり「関係ない」のかもしれないけれど、なにか言いたくてしかたありませんでした。長いことがんばって考えつづけ、あまりに考えすぎたので炭の目玉が大きく飛びだしてしまいましたが、とうとうじぶんがなんと言いたいのかがわかったので、こう言いました。

「銀色の月の光のなかの雪の精よ、
ぼくのだいじなひとになっておくれ!」

 それきり雪だるまは黙りこみました。こんどは雪の精がなにか言ってくれる番だと思ったからで、まあそれも無理のないことでしょう。けれど雪の精はなにも言わず、ただますます楽しそうに大きく笑ったので、揺さぶられるのに慣れていない年寄りのモミの木はふきげんに枝をふるわせ、ぽきぽきとさわがしい音が鳴りました。かわいそうなつめたい雪だるまは心臓がとても熱くなり、まずいことに、その燃えるような熱で溶けだしました。まっさきに頭が溶けてきて、最悪の気分でした――それからすこしマシになりました。雪の精は頭の上高く、白く雪をかぶったモミの木のてっぺんにのんびりとすわって、からだを揺すり、笑い、長い髪を振ってたくさんの雪の結晶を降らせていました。かわいそうな雪だるまはどんどん溶けて、どんどん小さくみすぼらしくなってゆきましたが、それもみんな熱い心臓のせいでした。あまりひどく溶けたので、雪だるまはもう雪だるまのようには見えませんでした。その夕べはクリスマスの前の晩でした。聖なる夜が美しくかがやくようにと、天使たちが金や銀の星を空にかざりました。

 そのときすばらしいことが起こったのです。雪の精は聖夜の星の光を目にしたとたん、なんとも言えない不思議な気持ちになりました。雪だるまのほうを見おろすと、雪だるまはまだそこに溶けながら立っており、もうすこしで完全に溶けてなくなるところでした。雪の精の心臓のあたりが燃えるように熱くなりました。モミの木から飛び降りた雪の精は、雪だるまの口にキスをして、そのままずっとそうしていました。ふたりの燃える心臓がひとつになると、ふたりはみるみるうちにすっかり溶けてしまい、あっけにとられて見ていたつららには、まったくわけがわかりませんでした。

 そうしてふたつの燃える心臓だけが残り、それを雪の女王が拾いあげて水晶の宮殿に持って帰りました。そこはすばらしく美しく、いつまでも変わらず、溶けることもないのです。あらゆるところに聖なる夜の鐘が鳴りひびきました。鐘が鳴ったとき、イタチはまた外に出てきておりました。鐘の音を聞くのがとても好きだったからです。そしてイタチはふたりが消えてゆくのを見ていました。

「ふたりとも消えてしまった。これはクリスマスの魔法にちがいない」イタチが言うと、「そんなもの関係ない!」すかさずつららが言いました。イタチは腹をたてて巣にひっこみました。

 雪だるまと雪の精が溶けたところには、あとからあとからたくさんの小さな柔らかい雪の花びらが降ってきて、もうだれにもふたりのことはわからなくなってしまいました。つららだけは、最初とおなじように、あいかわらずそこにぶら下がっていました。つららは心臓が熱くなって溶けてしまうこともなければ、雪の女王の水晶の宮殿にゆくこともないでしょう――それこそ、「そんなもの関係ない」のですから。

"Der Schneemann" Manfred Kyber
館野浩美訳