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エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|花ひらく黄昏

『花ひらく黄昏』目次


 母か召使いの手で狭い自分の部屋のベッドに寝かされると、わたしは枕に顔を押しつけて、毎晩起こることを――毎晩起こるとわかっていることを待ちうけた。すばらしい羽冠を持つ蛇たちが、一匹ずつ、また何匹かまとまって、枕の柔らかな闇を抜けて立ちあがるだろう。蛇たちは頭の方から身をもたげ、尾を下にして直立する。緑色や多彩の蛇たち。わたしはこの蛇たちがあまり好きではなかった。「長虫ども」と呼んでいた。わたしはあらゆる蛇たちの王が立ちあがるのを待ち焦がれた――おおいなる蛇、まばゆいほどに白く、羽根に覆われている。蛇の王が立ち、わたしは地表近くの空中を滑る奇妙な機械に乗っている自分に気づくのだった。
 眼下の土地が見えた。土が星屑でできているかのようにきらめいていた。よそではまったく見たことのない花々が星屑から伸びていた。繊細な炎のようで、わたしが上を通ると、風に揺られて一枚また一枚と花びらを落とした。ときどき川が姿を現した。さざなみだつ川、崩れ落ちた波が宝石を撒き散らす。それもまた星の物質だった。
 けれどその地の物珍しさよりもっと愉快なものがあった。わたしが乗る空中移動機械のなめらかな動きだ。
 機械の全容は捉えられなかった。わたしは機械を不思議に思わなかった。驚きもせず、気がつくと鉄の棒のようなものの上に立っていて、体を倒して前に平行に走っている別の棒を両手でつかんでいた――棒と棒の間には空間しかない。その空間越しに、色彩豊かな世界が眼下を流れ変化するのを見つめ、嬉々として滑り――滑り――滑り――眠りに落ちた。


FLOWERING DUSK
Ella Young

館野浩美訳