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エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|サーカス

『花ひらく黄昏』目次


 町にサーカスがやってきた。川の対岸の野原にテントが張られるだろう。どこへ行っても喧噪が聞こえる。通りは象や虎、黄褐色のたてがみ豊かなライオン、駱駝、ブラスバンドを乗せた馬車で花が咲いたようだ。わたしは窓辺に立って一座が通り過ぎてゆくのを眺める。白塗りの顔の道化師たち、驢馬にまたがっている、白塗りの顔を尻尾のほうに向けてまたがっている。赤いベルベットのドレスを着たわたしと同じ年ごろの少女たち、ちいさなポニーの背中で踊っている。白い馬に乗った美しい貴婦人たち。象の肩に乗った王さまたち。のっぽで力強く、尊大に見える駱駝たち。首輪に鈴をつけた犬たち。行列の両脇を男の子も女の子も大人も混じった一団が走り、笑ったり叫んだりしている。白日の下のおとぎ話さながらだ。そしておとぎ話と同じように、とどめてはおけない。もし神がこんなものばかりの天国を思いついてくれたなら、みな天国に行きたるだろうに!
 生涯の夢が何か、もうわかった。わたしは赤いベルベットのドレスを着てちいさな黒いポニーの背中で踊るサーカスの少女になるのだ。もっとおおきくなったら、おおきな白い馬に乗ってルビー色の帽子をかぶり、羽根を挿す。そして年がら年中ライオンと虎と象と綱渡りする人たちを見る。
 でもライオンや虎は、みな檻に入れられるだろう。ライオン使いと呼ばれる男が入ってくると、獣たちは唸り声をあげる。サーカスの少女は獣たちをかわいがることはできない。わたしは前に見た絵のことを考えはじめる。長い衣に身を包んだ男が山だらけの土地を歩いている。虎が飼い猫のように男の後ろを歩いている。男と山と強く美しい虎以外にはなにもない。虎が男についていくのは、男が偉大な聖者だと知っているからだ。聖者は気が向けばいつでも虎とたわむれることができる。虎の顔はふさふさして白い縞がある。どのみち、馬や驢馬の鼻面ならだれにでも撫でられる。
 わたしは偉大な聖者になろうと固く決意した。


CIRCUS
Ella Young

館野浩美訳