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エラ・ヤング自伝『花ひらく黄昏』|いさおし

『花ひらく黄昏』目次


 新しい学校、そしてわたし自身の仲間を集めるチャンス! 最初は厳格で不人気な校長に反抗する不満分子からなる一味だった。わたしたちはゲリラ戦をつづけ、かなりの戦果を挙げた。懲罰はたいして効果がなかった。罰が下った者には仲間の同情が寄せられた。衝突と戦闘、敗北または勝利のたびに、わたしたちは意気を新しくした。

 そこへブライザンスが登場した。彼女は優等生だった。それまでのわたしたちは優等生をばかにしていた。ブライザンスは違った。彼女は以前にはなかったものを学校にもたらした。校長は軟化した。他の教師たちは辛辣な一言をひねり出すことを忘れた。一味は困惑に襲われた。わたしたちは回心を経て、あまたの放蕩者が聖者や天使からも引き出した歓迎にあずかった。

 ゲリラ戦は――あらゆる戦闘は放棄された。ただし一味の解散はありえず、この新しい太陽のもと、かえって勢力を増し、発展するのでなければならなかった。円卓の騎士団を創設してアーサー王の騎士になるのはどう?

 アーサー王の騎士たちが誕生した。実はロマンティックなたちだった校長はおおいに喜んだ。わたしたちはマロリーを熟読し、テニスンに心を躍らせた――紋章や古い言葉を探し求めた。毎日が新しい冒険だった。時計台、中庭、それにいくつもの使われていない部屋を誇る学校は、夏至とクリスマスに劇を上演するようなたぐいの私立校で、生徒たちはそういった劇で能力に応じて輝いたり輝かなかったりした。合間の時期はもっぱら劇の準備に費やされた。試験で生徒たちを苦しめないのはこの学校の美点だった。メダルや奨学金などより大事な精神があった。

 小姓、従者、騎士、勇者――グィネヴィアにしてやると言われても姫君になろうという者はいなかった。姫君は馬と同じくらい現実味がなかった。いっぽう円卓の騎士団は現実であり、生きていた。拡大し、繁栄していた。夏至と冬至には恒例の演劇をおしのけてトーナメントが開催された。

 最後のトーナメントは夏至に催された。競技場の仕切りから仕切りへ絡ませた月桂樹と薔薇のロープ、ふんだんに撒き散らされた緑の枝、彩られた旗、トランペットと歌声の響き。

 チャンピオンはあらゆる挑戦者を向こうに回して首位を保ち、円形競技場では馬上槍試合があり、槍投げがあった。歓呼が空気をどよもした。薔薇とカーネーションの甘い香り、夏の百合の陶然とするような芳香に、月桂樹の葉が刺激を加えた。

 愛と美の女王には王冠、勝者には月桂冠、高らかに吹き鳴らされるトランペット。

結末

 長い年月が過ぎ、わたしの髪も白くなったころ、カリフォルニアで騎士団のひとり――当時、小姓の位を持っていた――に会った。たちまち質問を浴びせられ、あの色彩豊かな、あの旗の翻る、至福の日々を憶えているかと訊ねられた。けっして忘れたことはなかった。わたしの生涯でただいちど、空想は欠けるところのないまったき世界を創造したが、それはあまりに短い命だった。


HIGH EMPRISE
Ella Young

館野浩美訳