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円安に感じる寂しさ

このところの円安に懸念が高まっている。この円安が日本の国力の弱体化を反映している、という論調もある一方、今後も円安は日本の経済にプラスで働く、という論調も存在する。
どちらが正しい、ということを論ずる力はないが、80年代後半の為替レートの水準にまた戻ってきていることに、何やら因縁を感じてしまう。

思い返せば、バブルの頂点を極めた80年代終盤から、バブルの崩壊の序曲を迎えた90年台初頭は、その直前のプラザ合意による各国協調による強烈な円高誘導で、200円台から120円台まで一気にドル円は落ち、その後160円までリバウンドしていた。
(その後はまた円高方向に進み、一気に100円を割って80円まで落ち、リバウンドして140円台後半に戻った。2000年台以降、再度80円割れをした後に、黒田バズーカと言われる大規模緩和の時代がやってきて、結果的に今160円の時代に戻っている。)

90年代の初めは、日本は世界経済の中で大きな位置を占めており、世界のGDPの20%程度を占めていたと思う。
海外に行っても、ジャパンマネーへの期待は相当強いものを感じた。日本からの団体旅行が海外で行儀の悪さを指摘されたりしていた記憶もある。
金持ちになった、という驕りもあったかも知れない。

日本の自動車輸出に関する自主規制、などということも起こっていた。日本の産業が空洞化する前で、海外生産もまだ進んでいなかった頃である。

ドル円の為替レートの変動要因は、今と異なり、日米貿易収支が最大のものだった。

今から思えば、米ソ冷戦が続いていた中で、日本はアメリカに安全保障を任せ、第二次産業に専念することで、貿易黒字を出し続けることができてきた、ということだろうと思う。その後、冷戦が終結し、グローバル化の進展と、日本国内の産業空洞化(それは中国をはじめとする海外に生産拠点を移すことと同義)が進展した。

今また、地政学的リスクの高まりからもあり、日本に生産拠点を移し始めている業界もあるが、過去のような貿易黒字が積みあがることになれるのかははまだ定かではない。(日本に生産拠点を移そうとしても、そもそも労働力が足りない、という見方もある。)企業が海外生産で得た収益は、円安により、円ベース換算では拡大するものの、以前と異なり、国内に還流させないで、海外現地で外貨保有を続けるため、円高にはなりにくい、という側面もある。

この30年で、日本経済を取り巻く環境は大きく変化してしまった。そのことをこの160円という円安は表しているように思えてならない。今後、調整はあるとは思うが、地政学的リスクの高まりによる第二の冷戦でも始まらない限り、大きな流れは変わらず、円高への流れは出てこないのだろう、というのが今の雑感だ。

かつての日本との違いを考えると、何やら寂しいと感じざるを得ない。


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