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アルバトロスD

セジ丸「うぉーりゃーー!」

セジ丸の車が砂煙をあげながらタイトなヘアピンに突っ込む。キキキーとブレーキ音と共に車体が横滑りしながら、ものすごいスピードで鉄の塊がすっ飛んでいく。その激しさとは対照的に、カップホルダーに入った紙コップの中の水は、一滴も溢れることもなく静かに揺れていた。


セジ丸「ふぅ。だいぶこの車の乗り方がわかってきたな。そろそろ向かうとするか。」

セジ丸はマニュアルを頼りにマニュアル車運転を完璧にマスターしていた。乗る度にエンストしていた頃から丸一年かけて練習した。暑い日も寒い日も休むことなく峠を攻めた。対向車とぶつかりそうになり命を落としかけたこともあった。荷台に積んだ豆腐がクシャクシャになって売り物にならないこともあった。だが、セジ丸は諦めなかった。セジ丸には強い信念があったからだ。謎の声の男と戦いたいという熱い思いが。

ちなみに余談ではあるが、先程一年と言ったが、もちろん精神と時の部屋で修行を積んだので、実際は一日しか経っていない。


セジ丸が大通りを走っていくとT字路につきあたり、大きな看板が立っていた。

セジ丸「なになに…右折すると飛行場、左折するとクラブハウスか。そりゃ左折でしょ。」

ハンドルを切りクラブハウス方面へ向かった。少しずつ道幅が狭くなり、目の前に山がそびえ立っている。どうやらこの山の向こう側にクラブハウスがあるらしい。

誰もいない山道に侵入ったその時、一台の車がセジ丸の車の背後から現れた。

セジ丸は気にせずに運転していたが、後ろの車とセジ丸の車の車間距離がずっと10㎝であることに気づいたときに、只者ではないと悟った。

セジ丸「なに!これは確かマニュアルの4章に載ってたやつだな。前の車に隠れて空気抵抗を減らし、その間の加速で一気に抜き去るスリップストリームというやつか!この野郎、俺と勝負するっていうのか!」

セジ丸はアクセルを強く踏み込み、全開モードで走り始めた。しかし謎の車はしっかりとついてくる。

二台の車はどんどんスピードを上げる。100㌔、200㌔、300㌔…。

セジ丸「ウォォォォォォ!」

セジ丸の車が1100㌔に達した時、突然周りの景色が変わった。まるで宇宙空間の中の星空を駆け上がっているような感覚を覚えた。そう、超進化速度に達したのだ。

セジ丸「なんだ…これは!」

セジ丸の車が変形を始める。

ガキン!ゴキン!プシューッ!チュイイーン!ドゴーン!

気がつくと、セジ丸の車が人型ロボットに変形していた。セジ丸の脳内に声が直接聞こえた。

謎の声「おおお!ようやく変形できる者が現れた!セジ丸よ。やはり君は選ばれし者だったようだ!」

セジ丸「何のことだ?!まったく訳がわからないぞ!」

謎の声「説明しよう。君が今乗っているのは、汎用人型決戦兵器『セジンガーZ』だ。あの車が時速1100㌔の超進化速度に達した時、エンジンオイルとバンパーが反応してセジンガーZに変形する様にプログラムされていたのだ。何年もの間セジンガーZに変形できる者を探し、何人も挑戦したができなかった。そこで、今君は変形に成功した。セジンガーZのパイロットとして選ばれたということである。」

セジ丸「そんなこといきなり言われても…」

セジ丸が横を見ると、もう一体ロボットが目に入った。

セジ丸「あれは何なんだ?」

謎の声「あれは汎用タルト型決戦兵器『タルえもん』だ。ずっと君の後ろを追っかけていた車があっただろう。あの車が変形した姿だ。タルえもんはこないだ未来へタイムスリップして、愛知県をタルトにしてきたところだ。」

セジ丸「分かったような、分からないような…。まぁいい。それで、俺はどうしたらいいんだ?」

謎の声「実は頼みがある。最近この辺りに『野武士軍団』と言われる組織がやってきて、隣の畑から野菜を盗んだり、小さな童を肥溜めに突き落としたりと、悪事の限りを尽くしておる。それを見かねた村民たちから野武士軍団の殲滅依頼を受けたものの、セジンガーZのパイロットがなかなか見つからず、苦労していたところなのじゃ。頼む。我々を助けてくれんか?」

セジ丸「突然老人口調になったことは気になるが、困っている人を助けるのが猿谷家の掟。やってやるぜ!」

謎の声「ありがとう。セジ丸。では早速奴らのところへ行ってくれ。」

セジ丸「行けって言われたって。どこへ行けばいいんだ?」

謎の声「それならそこのタルえもんについて行けばいい。タルえもんはすでに野武士軍団の秘密基地に潜入して色々と分かっておるからな。」

セジ丸「わかったぜ。よし、タルえもん!連れてってくれ。」

こうして野武士軍団と闘うことになったセジンガーZとタルえもん。この戦いの結末は?


つづく


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