やる気の話
塾講師のアルバイトをしている。中学生と戯れながらお金がもらえるなんてラッキーだと思っている。学生アルバイト講師なんて大抵そのようなものである。
生徒からは「講師唯一の陽キャ」と呼ばれる。この私が陽キャだと感じるのであれば、君たちは高校に進学し、本物の陽キャを見たらアナフィラキシーショックを起こしてしまうと返す。陽キャと陰キャの定義って何ですか。誰も正解を教えてくれない。
塾講師をしていると必ずと言っていいほど聞かれる質問がいくつかある。そのうちの一つが
勉強のやる気が出ないときはどうするのか
だ。これも陽キャと陰キャの定義と同様に、正解はわからない。
やる気ってそもそも何だろうか。モチベーションとも呼ばれる。検索すると一番上には「物事を行おうとする気持ち。欲求などを意味する表現。」と書いてある。なるほど。無駄な検索だった。
目に見えないものを言葉で定義するのは難しい。誰もが共通する感覚なんてこの世にないのだ。
とはいえ、生徒からの質問をはぐらかすのは講師としてはけしからん事態だ。「やる気」という漠然なものを生徒は必要としている。私が受験生だった頃は如何にして「やる気」を出していたのか思い出す。
私が中学生の頃の成績は学年下位3/4だった。
中学2年になってから、唯一得意だと思っていた数学の成績が一気に落ちていった。悔しくて職員室で号泣した。この泣きが数学担当の教師にとって衝撃的だったらしく、高校の卒業式で挨拶をしたときにもこの話題を掘り返された。いつ掘り返してんねん。
中学3年時の担任は音楽の先生だった。主要5科目(こう書くと副教科の差別につながるのだろうか そんなものあるのか?)の教師ではなかったためか、勉強に関しては何も言われなかった。三者面談では、ただひたすら学校生活態度を褒めてくれた。
その褒め言葉が私には心外だった。生活態度などを褒められても嬉しくなかった。努力したものではないからだ。態度なんて意識して良くしようとしたことはない。ニコニコしている?舐めてんのか?そう感じていた。
努力して得たものを褒めてほしい。
もともと持っている装備を褒められても、褒められた気がしない。「すっぴん可愛いね」よりも「化粧上手だね」の方が嬉しい。私は少し面倒な性格かもしれない。よろしくね。
三者面談の帰り、塾に通うことを決意した。
2年後の高校2年終了時には、成績は学年上位15%に入っていた。常に数学は学年2位だった(1位の友人は現在医学部の特待生になっているらしい)。大学での成績もこれくらいなら良かったのに。
ということは生徒を褒めれば良いのか?
いや、あのとき褒められたことにより私が感じたものは「やる気」ではなく「悔しさ」や「怒り」だ。その感情を可愛い生徒に湧かせるのは、アルバイトとはいえ講師として如何なものか。
大学受験も「やる気」は無かった。大学自体に全く興味がなく、周りの人たちが受験するから、という理由で大学進学を決めた。第一志望校も、消去法で決めた学部の中で一番偏差値が高い大学にした。大学4年生の今、当時の選択が間違いだとは思っていない(現在は第一志望校に通えている)。
受験生なら1日14時間勉強しろ
そう担任からは言われていた。そんなことできるわけがない。こちとら大学に興味すらないんだ。
土日でも6時間ほどしか勉強していなかった。
センター試験1週間前の模試で数学が29点だった。恥ずかしさと悔しさで押しつぶされそうだったが塾ではヘラヘラしていた。泣きそうだった。中学2年を思い出した。4年経って理性だけは身についたようだった。
どうにかして楽しく勉強しなければならない。そう感じた私はコンビニに駆け込んだ。
お酒が入ったチョコレート菓子を3箱購入した。冬という時節柄、多くの種類が置いてあった。
中学1年時に授業で行なったパッチテストで私は真っ赤だった。先生に赤くなる見本として教室を一周させられた。私は酒に弱いことを13歳で知った。合法的に酒に酔いながら気持ちよく勉強するためにチョコレート菓子を貪り食べた。左手にチョコレート、右手に参考書の装備は2日で終わった。
結局「やる気」を出す方法の正解は未だ分からない。酒に頼るな、という中学3年生には全く相応しくないアドバイスしか出せない。なんなんだこの講師。
未だに第一志望校に合格したことを奇跡だと母親から言われる。私は落ちるわけがないと思っていた。E判定しか取ったことがないのに。
今後生徒には、絶対合格すると思い続けること、とでも回答しておくとするか。
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