異世界体験記
久しぶりの高熱に3日間寝込み、ようやく36度台に下がった4日目の昼下がり。
風邪ウイルスと闘う自分の白血球や細胞たちの邪魔をしないようにと、この3日間とにかくひたすら寝ていたし、食事も消化のいいものだけ食べて余計なエネルギーを体に使わせないように頑張った。
高熱の3日間はあっという間に過ぎたけど、色々な夢を見た。
まずは紺の仕立てのいいスーツを着た亡き父が家の中に入ってきて、野菜たっぷりの鍋を作ってくれた。
どこか素っ気なく、私に興味がなさそうな父を不思議に思いながら目が覚めると、夫が同じような野菜たっぷりの鍋を作ってくれていた。
それから、色鮮やかなあの世界の景色の夢。どうしてあの世界はあんなにも色が生きているのだろう。
まだ喉は少し痛かったけど、暖かい昼間にお風呂に入れば湯冷めもしないし、またよく眠れるだろうと思い、久しぶりのシャワーを浴びた。
お気に入りの洗顔フォームで顔を洗っている時にあることに気がついた。
何も匂いがしない。
そんなわけないと、香りの強いトリートメントの容器を開けて思いきり匂いを嗅ぐと、一瞬遠くで香ったものの、すぐにわからなくなった。
私の体は平熱に戻ったし、今日は気分もいいし、外は天気だっていい。
なのに、風呂場の窓から差し込む柔らかい日差しが、ドラマのセットみたいに嘘っぽく見えていた。
見た目だけはそっくりな異世界に飛ばされてしまったような気持ちで、確信するしかなかった。
「私はコロナに感染している」
すべてのことは体験しないと絶対にわからない。私はコロナになった意味を考えた。
その結果、体験したことを綴るためかもしれないと思った。
日頃テレワークで滅多に人にも会わず、スーパーすらほとんど行かないような私が感染したのだから。
ちょうどその頃、発熱する2日前に会っていた友達家族から一週間ぶりに電話が来た。その友人には発熱した時点で伝えていたのだけど、その時は旦那さんの方が少し風邪っぽいけど特に大丈夫そうだと聞いていたのだ。
ところが、私が発熱した次の日から旦那さんも高熱が出て、友人も2日ほど寝込み、二人とも解熱してから体調が辛すぎると言っていた。
「高熱出てる時からもう、脳をナニカにジャックされているみたいだった」
コロナは高熱が怖いんじゃない。解熱してからが本番なのだ。
友人の旦那さんは嗅覚と味覚を失っていた。
私は味覚はあったので、例えばみかんを剥いても何の匂いもしないのだが、口に入れると突然フレッシュな味と風味が現れる感じだった。
そして解熱後の息苦しさと貧血のような症状に、寝てることしかできなかった。
一番のピークは座っていることも体が耐えられず、もしかしたら自分はもうダメなのかもしれないと恐怖に飲まれた頃。発熱から7日目(解熱後3日目)くらいだったと思う。
麹の甘酒とOS-1を飲む度に、本当にほんの少しだけ元気になった。命が繋がる感じがした。
そこから1日1ミリくらいの進歩で回復していき、嗅覚は3日くらいで復活。
現在発熱から11日目、保健所の人が言うには、それだけ経った今 私の感染力はもうないらしい。
実際、料理をしたり掃除機をかけたりと日常生活を送れるまでに回復したけど、まだ仕事ができるレベルではない。
コロナはただの風邪だと言う学者もいる。
だけどそれは体験していないのだから仕方ないと思う。
コロナが他の風邪と違うと感じたのは、精神世界や多次元を跨いで進行していくことだ。
肉体には、これまで生きて体験してきたすべての情報や記憶が詰まっている。
そんな、顕在意識では忘れている情報や過去の感情であろうものが掘り起こされ、白日のもとに晒される。そんな感じだ。
だからみんなパニックに陥るのだろう。
ある日突然異世界に転生することを臨場感を持って想像してもらえると近いかもしれない。あるいは、映画の世界で観るドラッグのバッド・トリップか。
そのパニックが呼吸のし辛さと相まって、壮絶な恐怖となって襲ってくるのである。
私たちは大人になるにつれて、あらゆる自分の感情を扱えるようになるものだ。
数々の修羅場だって乗り越えてきているし、自分を「大丈夫」に持っていく術を身につけてきたはず。
特に私は日頃の占い師の仕事のために、常にネガティブなものはクリアにしたり、心を平穏に保つことにかけてはプロ意識を持っていたと思う。
ところが思い知らされるのだ。
「私はすべてが怖いのだ」と。
子供の頃から今まで大丈夫だった時など一度もなかった「事実」を突きつけられて、途方に暮れたのである。
続く。
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