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無題

「…くしゅんっ!」
またこの時期がやってきた。
厳しい寒さがひと段落するとあいつらはやってくる、そう花粉だ。
去年妙な鼻のむず痒さを感じて、そのあとは目が痒くなり、認めたくなかったが医者にかかると僕は”花粉症”という烙印を押されたのだった。
何もしなくても鼻から滝のように鼻水が流れ出てくる。
止まらぬくしゃみに四苦八苦していると彼女がお茶を入れながら心配そうに「大丈夫~?」と声をかけてきてくれた。
花粉症に効くというべにふうきのお茶は、彼女のおすすめだった。
少し苦いがスーッとするその苦みが心なしか鼻の通りをよくしてくれる気がした。

「目も真っ赤…しんどそぉ~」
「いいよなぁ…このつらさが毎年やってくると思うと憂鬱だよ…」
「私は平気だからねぇ、ほらティッシュ」

勢いよく鼻をかむ、人中のあたりは鼻のかみすぎでカサカサしていた。
ごみ箱はすでに満杯で、ほおり投げたちり紙はぽてっとその頂から落ちた。

「めんどくさがらないの、ちゃんと捨てなさい」
立ち上がりごみ箱に収めると、わざとらしくよくできましたと頭を撫でられる。
小学校で教師をしている彼女に頭を撫でられると体のどこかがこそばゆくなって、それをまた彼女は面白がる。

「だめだ、頭痛くなってきた…ちょっと横になる」
「じゃあ、膝枕してあげよっか」
ポンポンと膝を叩く彼女はすでにお迎えの体制をとっており、僕には、初めから拒否するつもりもないが、拒否権はない。

こんなに苦しいのにご時世的に換気はしなくてはいけない。
少し穏やかで温かい風を受けながら、僕は特等席で微睡む。
黙って彼女は僕の頭を撫でながら、見えてはいないがきっと微笑んでいる気がする。
まだ春と呼ぶには少しだけ肌寒さが残るが、心地よい空間に僕の意識が溶けていく。
小さな声でおやすみと聞こえた気がした。

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