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風に乗って飛んで行け 愛の歌

タイトルは大好きな乃木坂46の2019年発売のシングル「Sing Out!」から頂きました。

この曲が私はとても大好きです。
MVはオーガニックな衣装に身を包んだメンバーが踊る姿を代わる代わる捉え、隣にいる誰かをより広義にして、見えない世界のどこかにいる誰かを想う歌詞と人から人へと繋がっていく力強くも流麗で美しいダンスシーンがなんとも胸を打つ内容になっています。
音楽自体もストンプが効果的に使用され、またアコースティックギターやストリングスなどアンプラグドな楽器がメインに採用されており、音楽の原初に立ち返るようなシンプルながら聴き飽きない作りになっていて、シングルに収録されているオフボーカルver.も聴きごたえのあるものになっております。

いろんな方が感想や考察を書いており、今更になって掘り起こすようなタイミングでも無いのですが、個人的にこの曲のことを認めておこうと思いこうして文章を書いています。

私がこの曲で最も好きなところは今は時めく国民的(と言っても過言ではないはず)アイドルが今この時代に所謂大いなる綺麗事を歌うという事、またその曲が「Sing Out!」という題名を冠した事、この二点です。

Sing Outは大声で歌う、もう少し踏み込むと叫ぶなどの意味がある熟語だそうです。
私なら叫ぶという意味で捉えてこの曲を聴きたいなと思います。

私は綺麗事が好きです、というか綺麗事でも言っていないとやってられなくなってしまう、そんなところです。
所詮世迷い事と言いますか、そんなことわかってるよとか何綺麗事言ってんだよと揶揄されてしまうこのような世の中だからこそ、とても大切なことだと思っています。

さて、叫ぶという事、これは想いを振り絞って声に出すという行為だと考えています。
どうしようもない想いが募りに募って喉元まで出かかっても言葉にできない時、半ば乱暴に声を出すとき、人はそれを叫ぶと呼ぶと思います。

このSing Out!はそんな言葉に、想いに溢れた曲です。
例えば1番Bメロの歌詞はこちらです。

”ここにいない誰かのために 今何ができるのだろう
みんなが思えたらいい
自分のしあわせを 少しづつ分け合えば笑顔は広がる”

なんて歯の裏が痒くなるような博愛に満ちた歌詞なんでしょうか。
そりゃあみんなでそれができたら争いごとは無くなるでしょうし、文字通り人類皆家族みたいな世界ができあがるでしょう。
でも、現実はそうではありません。
未だに世界のどこかでは争いごとがあり、人同士が憎みあい、殺し合い、勝てば英雄負ければ蛮勇みたいな狂ったような理論が通じてしまう、そんな現実が私の知らない世界のどこかで実際にあるわけです。
その人たちのことを考えないわけではないし、どうにかならんかなと思いつつも、どうにもならない現実に対して何をする気力も持てず、ただただ自分の営みを守り、続けていくほかありません。
一人の人間はとても非力です、大勢には勝てません。
だからこのような綺麗事は淘汰されて、朽ちていきます。

それでも誰かが声を大にして言う事には私は意味があると考えます。
話が脱線しますが、所詮音楽には人や世界を変える力はありません。
変えるも変えないも、作るも壊すも良くも悪くもそうするのはいつだってそこに生きている命です。
音楽はあくまでその反応を促す触媒であり、それ自体に大きな力はありません。
とはいえ、音楽はすごいものです。
言葉が分からなくても、たとえその曲が自分たちの知らない言葉で歌われたものでも、はたまた歌詞の無いものでも、その曲が持つ意味や世界、雰囲気というものは人から人へと伝えられ、繋がっていくものです。

アイドルという一つの媒体としての大きな存在が音楽という手段を使って、このように博愛を声を大にして歌う意味はきっとあると信じています。

しかし、この曲には一瞬現実を見るような歌詞も歌われています。

”もし泣いている人がどこかにいても
理由(わけ)なんて聞いたって意味がない
生きるってのは複雑だし
そう簡単に分かり合えるわけないだろう”

そう、簡単にはいかない。
言語の壁、文化の壁、宗教の壁、人と人を隔てる見えない壁は何重にも重なっており、また一つ一つがとても厚く、そう簡単には破れないものです。
もっと身近なもので言えば好き嫌いや価値観など、細かなものを列挙していくときりが無く、それは人の複雑さと並行して存在する趣に繋がるとは言えど、非常にセンシティブな問題です。
それこそ乱暴に戸を開こうとすればそれは争いの引き金となり、とはいえその壁を少しづつ崩していかないうちには何の解決には至りません。

袋小路に迷い込んだような歌詞を歌った後、それでも彼女たちはこう歌います。

”ここにいない誰かも いつか大声で歌う日が来る
知らない誰かのために
人はみな 弱いんだ お互いに支えあって前向いていこう”

悩んでもどかしい想いをしているのは、もしかしたら壁の向こう側にいる誰かも一緒で、その人も今でなくてもこうして声を大にして叫んで想いを届けようとする日が来るかもしれない。
ある日、お互いの想いが呼応して今まで壊せずにいた壁が崩れてお互いを認識しあって、一緒に前を向いていける、そんな日が来るかもしれないと一抹の希望を抱かせる歌詞を皮切りに、曲はフィナーレへと向かいます。

ここでは人は弱いとも歌っています。
非力な一人の人間では叶えられない事も、もしも二人なら、これがどんどん増えて十人、百人、千人、万人とその輪を広げて行ったとしたら、もしかしたら世界を変えられるかもしれない。
強者が一人で勝つ世界、それはとても空しく悲しい世界だと思います。
弱者と呼ばれる人たちも、束になって一つになって立ち向かえばもしかしたら…、現実を見つつもそこに突破口とは言えなくても一つの糸口を見つけるような歌詞。
若く無限の可能性に満ちた人たちが歌うこの曲が一人でもいい、その人の胸に届いたときから極々小規模であっても世界は確実に音を立てて変わって行っているのかもしれません。

この曲の締めくくりとなる歌詞は次のように紡がれています。

”Happy! Happy! If you wanna bring big smile, sing out!”

想いを叫ぶ、それは怖いことかもしれない。
けれどいつか届く、そのいつかを信じて行動する意味や価値はある。

いつかこの世界が平和になりますように、壮大な歌詞ではありますが本当はもっとパーソナルな歌詞なのかもしれません。
Love your neighbor as you love yourself、君は独りぼっちではない。
あなた自身を愛せるようになったときは、同じように隣にいる誰かを愛しなさい。
その輪は広がって、いつかみんなで笑いあえる世界がやってくる、かもしれない。
小さなことから、ミクロからマクロへ、世界は一からできておりその一端を担うのは私であり、この文章を読んでいるあなた。

こんなご時世だからこそ、私はそんな綺麗事を愛していきたい。
そんな想いを代弁し、そして強くしてくれる曲。
大好きな曲。

以上で私の乃木坂46「Sing Out!」に関する所感を認め終わります。
ここまでのお相手はふぁむでした。
またお会いできたら。

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