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本とワインと傘を巡る旅~ポルト~②

そもそも電子書籍として手軽に文章が読める時代に、それでもなぜ紙の本への憧れや偏愛というのは一部の人間にとって根強く残っているのだろうか?

個人的には特に写真集やアート関連の書籍は、装丁を含めたそれそのものが、単に情報の媒介物としてだけではなく、作品としての芸術的な価値を包含しているのではないかと感じている。その本が有する情報の価値でだけではなく、その本自体を所有し、部屋に置く、あるいは飾るという体験に価値を見出す人間もそれなりに存在するような気がしてならない。

少し話が脱線したが、今回Livraria Lelloを訪れて、これからの本屋の生き残り方についても少し考えさせられた。

時間まで店の外の長い列に並び、時間になったら入り口のチケットチェックの係員さんにオンラインチケットのバーコードを見せてぞろぞろと店内に入ってゆきます。

さて、ポルトに旅した人(特に海外からの観光客?)が大体は訪れると言われるLivraria Lello。ここは、訪れるならば必ず事前のチケット予約が必要である。ホームページに8ユーロから45ユーロまでの3種類のチケットがあるが、全て本を購入する際のバウチャーとしての代金が含まれている。つまり本を買うならタダで入れますよとそんな感じである。ちなみにこのバウチャーは、店内で売っている他のお土産(カップやトートバック、トランプ等、色々と売っている)には使えない。あくまでも本に対するバウチャーなのだ。

今回私が選んだのは、勿論(?)45ユーロのチケットである。これは同書店の特別な書庫に入れてもらえ、その蔵書を見る事ができる特典がついている。通常の8ユーロコースは、一般の書籍売り場(例の有名な階段を含む)のみのアクセスなので、階段さえ見る事ができればOKという人はこのチケットで十分だろう。ただせっかくここまできて階段だけ見てというのも何だか味気ないし、蔵書は気になったので今回このチケットを選んでみた。通常の書籍売り場へのエントリーは朝9時から夜19時まで、30分刻みのチケット制になっているが、この特別書庫へのアクセスは16,17,18時~の3スロットのみであり、1スロット3〜4人が定員のようだ。

特別書庫は地下にあり、一般書籍売り場にある階段から降りてゆく。貴重なアート本や有名な小説の初版本などが収められているが、一部書籍には値段もついているため購入することも可能。

特別書庫へは同本屋のガイドさんに連れられて入ってゆく。このガイドさんから書庫に入る際に「あなたはどこから来たの?」と尋ねられて、「日本だよ(なぜそんなことを聞くのだろう?)」と答えると、その後に日本にまつわる本を持ってきて見せてくれた。

出版は1900年との事。ネットで調べるとトロント大学のアーカイブ版を見る事ができるが、ポルトガル語なので内容はわからない。阿波踊りとは書いていないのがちょっと面白かった。(阿波踊りも盆踊りの一種らしいので、間違ってはいないのだろうけど)
こちらも100年以上前の本。当時日本を旅した著者が、京都で体験した茶道について記録したものらしい。
書いてあることはわからないが、絵がついていると楽しい。

前述の様に、他にも有名本の初版がいくつも収められている。ガイドさんによると、同書店は単なる書店ではなく、希少本をアーカイブ、または売買する組織としてのブランドとして確立しそれをビジネスにしているとの事。

J. K. Rowlingのサイン入り初版。同書店はホグワーツ魔法学校のイメージ構想にインスピレーションを与えたとも、そうでないとも言われている。
グリム童話初版。カラーの挿絵は別刷になっており、それを必要箇所に貼り付けている。ガイドさんは「皆さん知っていると思うけど、原著は結構内容が残酷だったりするのよ。」と。
同書店のある意味シグネチャーになっているThe Little Prince(星の王子さま)の初版本。上の階の一般書籍売り場には各国言語の現代版や、関連したお土産が沢山ある。

ここにある希少本は、オークションで購入したものもあれば、廃業する古い書店から買い取ったものもあるとの事。希少本を投資対象としてさらに価値が上がるまで保存しているらしい。

特に貴重な本は、鍵付きの書架に収められている。
Japanese Armorという海外の方が収集した甲冑の写真集。中身は英語だがあえてタイトルに日本語が使われているのは、デザインとしてそれっぽくなるからだろう。これも将来的に価値が上がるのだろうか?

たっぷり1時間見学したが、ガイドさんによる説明自体は30分程度で「あとはご自由に見ていってね」とそんな感じで気楽な閲覧だった。ただ流石に希少本にはおいそれと自分で触る気にはなれず、ガイドさんの説明の際に写真を撮らせてもらうだけにしておいた。こういった希少本は、図書館に行って面倒な手続きをすれば見る事ができるのかもしれないが、このような形である意味気楽に眺める事ができて、個人的には45ユーロの価値はあったのではないかと思う(本を50ユーロ分購入して、45ユーロ分のバウチャーも使い切ったし)。

あとは上階に戻って、例の階段と一般の書籍売り場を見学。

大体こんな感じで混んでいます。
オフピークの平日、閉店ギリギリまで粘ればこれくらいの写真は撮れるかも。。。天井部分などの木の彫刻は手が混んでいて素晴らしかった。
こういったデザインの階段、よく思いついたなと感心する。2021年のビル移転後100周年の際に、黄色だったか緑だったかに一度塗り替えられたが、イケてなかったので周年イベント後、すぐに赤に戻されたとの事(笑)。
因みに100周年の際に、Time誌とノーベル文学賞者の紹介などを行うパートナーシップもスタートさせている。店内には関連した展示も。

因みに45ユーロのバウチャーは以下2冊の購入に充てた。一つはポルトガル語で書かれたパンとワインの本。ポルトガル語は読めないが、写真があまりにも綺麗だったので完全に”写真買い”だ。もう一つは2021年に同書店が現在のビルに移転した100周年の際に発行された記念本(内容はこれまでの同書店の歩みや活動が、アーティスティックな写真と共に掲載されている。複数ヶ国語版があるので購入の際には注意!)。特に後者は完全にお土産本だが、同書店がブランディングのために作成した本としてはなかなかにおもしろいかなと。

記念本は、はじめに手に取ったのがフランス語版だったのに気づかず、購入後に慌てて英語版への交換をお願いした。。。

おそらく書店に来ている人は今や殆どが観光客なのだろう。既に一般的な書店とは呼べないビジネスかもしれないけど、紙の書籍を残すという点においては、一つのユニークなアプローチかなと。ただここまで人気になったのも、特徴的な内装や古くから開業している事に加え、ハリーポッターのヒットにより認知度が上がった部分が大きい事が想像に難くないため、誰もが真似できる方法ではないのだろうなと感じた。(続く)


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